トラブルキャンセラー05


トラブルキャンセラーには,未だに解せないことがたくさんあります.

僕が言うところだと,妙な引っ掛かりが悩みの原因.

凰壮くんが,まさかメインに関わってるなんて思いもしませんでしたから.



「虎太くん,どう思います?」

「どうってもな…俺のときとだいぶ状況が違うからなんとも」

「そうなんですよね,どんな原理なんだか」

「ただ,非情に申し訳ないけど,今回はあんまり俺は足を突っ込みたくない」

「その気持ちは分かります.僕だって虎太くんの想い人を不安にさせたくはないですから」



今回のことは,虎太くんには既に教えてあります.

聞いた当初の反応は無表情に近く,すぐに凄く嫌そうな顔をしました.

それもそのはずですよね,虎太くんは今,最愛の人と結ばれて幸せ絶頂期ですから.

その虎太くんの最愛の人はとても心配性なので余計なことを言うと,また暴走しかねませんし.



「凰壮が,その先輩のことを好きならともかく,アイツ彼女がいるんだろう?」

「えぇ」

「だったら,俺はあんまり立ち入るべきじゃないと思う.勿論恋愛だけが全てじゃないが,もしその先輩を本気で助けたいなら…アイツの彼女にちゃんと全部話すべきだ」

「凰壮君がそこまで気の回る男だと,兄弟である僕ですら思えないんですよね」

「奇遇だな,俺もだ」

「ただ,僕としてもアンハッピーコンデンサの悲劇を知ってる以上は…無視もできませんし」

「まだ何もつかめてないんだろ?今は,まだどうしようもないな」

「それなんですが,ちょっと引っ掛かることがあるんですよね」



虎太くんは,本当に恋人を思いやって,正直妬けてしまいそうなくらいですよ.

まぁ,昔は妬けていっぱいイタズラもしましたが,今はそうでもないです.

言葉の綾,ですから.



「引っ掛かること?」

「ええ,あのトラブルキャンセラーって…メールで全部ゲームが進んでいくじゃないですか.そのメールに,どうもおかしいなって思うことがいっぱいあるんです」

「例えば?」

「あのとき,一枚写真を撮らせてもらったので見てください」



流石に,転送してもらうのは怖かったんですよ.

送られて僕がプレイヤーになるっていうのは,避けたかったんです.



「どこが変なんだ?」

「宛先のところ,”BCC”になってるでしょう」

「そうだな?」

「1人に送るなら,”TO”でいいでしょう?つまり,これを受け取っている人が何人かいるってことだと思うんです」

「そうだな」

「それと,もうひとつ」

「まだあるのか?」

「…これは,その,僕の勘なんですが…シェリア先輩の反応が」

「張本人の反応だろう?すごい動揺してるのか?」

「いいえ,むしろ逆,なんですよ」



そう,最も解せないのはその行動.

凰壮くんには言えませんが,シェリア先輩はパソコンや携帯を扱うのには秀でてるんです.

だから,凰壮くんに対して”迷惑メールがきたからどうすればいい”なんて聞いたことが不思議なんです.

同じ塾に通っていた頃,シェリア先輩はとても優秀で,特進クラスに含まれるような存在でしたから.



「つまり竜持は,その先輩が怪しいって思ってるのか?」

「怪しいとはいいません.ただ,引っ掛かっただけです.どうして,と思ったことを見逃すのもどうかと思いまして」

「ま,その行動は正解だろうな.ただ,解決するかどうかは別だが」

「そうなんですよね,黙って何かするとかは,どうにも凰壮くんに悪い気がしますし」



シェリア先輩という人は,機械には長けていたのは僕自身が本人から聞いているので間違いありません.

ある日突然,黙って塾を去り,それっきり.

まさかこんなところで再開するとも思いませんし,同じ学校だったなんて初耳です.

まぁ,当時と風貌はあまり変わってませんでしたが.



「うーん,困りましたね」

「お前も首を突っ込みたくないって,さっき言っただろ」

「後味が悪いじゃないですか.凰壮くんに単騎駆けしてもらっても困ります」

「今の聞いてたら,確実に突っ走りそうだもんな」

「前回のアンハッピーコンデンサも同じでしたよ.僕と凰壮君が相談して,虎太くんの彼女に接触した.それが結果として,事態を悪化させました」

「あの時の凰壮が今の俺だな」

「僕あい変わらずですねぇ」



今,僕達が分裂したってどうにもならない.

素直に凰壮くんに吐き出すのが一番なんでしょう.

ただ言葉を選ぶ,という意味では少し困りました.

…彼は,誰よりも素直に人の言葉を受け入れ,己の感情に変換します.






「おーい,お前らなにやってんだよ」

「「!」」

「ったく,父さんが何回呼んでも降りてこねーって嘆いてたぞ」

「え?あぁ,夢中になってたものですいません」

「何の用事だ?」

「メシだよ!メ,シ!ったく,夕飯忘れるくらい何に夢中になってたんだ」

「ええっと,こ,虎太くんが彼女とのことをあんまりにも面白く話すんで」

「は,ははっ…いやぁ,のろけすぎちゃったぜーやっべー」



あ,これ,完全に言い訳失敗ですかね.

虎太くんの最後の台詞がなかったら,ごまかせたかもしれませんよ.



「馬鹿じゃねーの.さっさと降りてこいよ」



ちょ,今までになかった冷たい反応ですね.

いつもなら,その台詞は僕は言ってるんですけど!

しょうがない,今はぐっと我慢ですか.



「すぐに降ります」

「今日の夕飯はなんだ?」

「鍋だってよ.たしか,えーっとチゲ鍋らしいぜ」



さて,鍋であったまってから少し頭を使いましょうか.

僕も虎太くんも,ちょっと素直すぎる弟が心配ですので.



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