トラブルキャンセラー04


「先輩,今日もメールきたんですか」

「きてたぜ.んで,開いて,選択肢をはいにしといた」

「既に!?」

「つーか,お前に許可取ることじゃないし」



なんてこった,先輩の独断専行!



「あのさ,凰壮.お前,ここんとこずっとアタシの周りをうろちょろしてるけど,お前女いるんだろ?いいのかよ」

「いやいやいや,命掛かってる大事だぜ!?優先するべきもんは女じゃねーよ」

「馬鹿野郎,だったら最初から女と付き合うな.てめーの女ひとつ,寂しい思いさせてるような不抜けなんざとつるみたくない」



どんっと,肩を突かれて先輩は屋上を出て行った.

今すっげー怒ってたよな.

でも,俺の彼女っていうと….

ふと,思い出したようにメールをしてみる.

この場に呼び出して,改めてみようと思った.





「凰壮くんっ」

「おー」

「遅くなっちゃってごめんね?こんなところに呼び出して,どうしたの?」

「いや,最近お前とあんまり会うことなかったから…なんとなく」

「えっ!」

「忙しかったんなら,悪かったな.別に用事はねーよ」

「…忙しくないよ!あ,あのさ…凰壮くん,隣に座ってもいい?」

「おう」



少し色素の薄い色をした髪,ボブよりはちょっと長くて,半分から毛先までが緩い巻き毛.

シェリア先輩とは,正反対の容姿.

だけど,中身も本当に正反対.

ちょっと厳つくてぶっきらぼうな先輩に対して,コイツはおっとりのんびり愛される系だろう.



「あ,あのね,ちょっと聞きたいんだけど」

「あ?」

「凰壮くん,もしかして…別れたい?」

「は?いみわかんねぇ」

「ご,ごめんね…最近その,忙しそうだから心配で…」

「あー…まぁな」

「無理,してない?私,何か役に立てる?」

「いや,ありがと.その気持ちだけ貰うわ」



確かに,ここ数日のコイツからのメールで誘いが何回かあった.

俺の断り文句は,理由もなく忙しいばかり.

最も,理由というなら先輩とあのゲームだが.

それでも気丈に,彼女はメールを送り続けていてくれた.



「マジで忙しいっちゃ,忙しいんだ.でも,ごめん.俺別れるとか考えたことなかった」

「ほんと!?」

「むしろ,俺が振られる側だよな」

「振るわけないよ!だって,その…私」



あたふたあたふた,可愛いやつだなおい.



「なぁ,久しぶりに一緒に帰るか?」

「いいの?」

「帰ろうぜ」

「うん…っあ,ちょっとごめんね」



良いタイミングで,彼女の携帯が鳴った.

けたたましい,さっき聞いたような大きな音.

慌てて携帯を持った彼女は,すぐに音を止めた.



「ビックリしたぁ…!メールが,来たみたい.あ,帰り一緒に帰ろうね」

「おう」

「約束だよ?」

「わかったよ.じゃあ,放課後玄関のとこで待ってる」

「うん!そろそろ授業始まっちゃうから…先に戻るね」

「ん,後でな……”シェリア”」



俺が呼ぶシェリアは,コイツの名前.

なんの因果か,先輩と同じなんて笑えるよな.

俺がコイツと付き合うことになったのは,ある意味その同じ名前からでもある.

俺のエゴで,シェリアを振り回してるだけだが.

手を振って,扉の向こうへ消えた彼女を見送った.



「あー…,ばっかみてぇ」



クソみたいな,こんな,俺.

シェリア先輩と,シェリア.

どっちも,大切なんてふざけてるよな.











カツカツカツカツ,ローファってのは以外に響くらしい.



「あーあ…せっかくいいところで,なんでアラーム鳴っちゃうかなぁ.3時間なんてあっという間すぎるでしょ」



俺と別れたシェリアが向かう先は教室だろう.

だけど,その手に握られた携帯が指し示した画面なんて知る由もない.



「でも,今回は…私の勝ちね,お邪魔虫さん」



俺はまだ,本当に何も知らないんだ.

シェリアがどんな女で,何が好きなのかなんて.

彼女の手に握られた携帯には,トラブル回避成功のメールが光っている.

これが,俺の知らないところで狂い始めた第1歩だった.





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