トラブルキャンセラー02


やっぱり,あのメールが気になる.

朝,先輩のとこ行ってもう一度見せてもらおう.

もし,イタズラだったならそれでいいが,そうじゃなかったら….



「やべーよなぁ」

「何がヤバイんですか」

「あ,いや」

「凰壮,さっきからブツブツ何言ってんだよ?」

「えー…ちょっと考え事だから気にすんな」



兄達から向けられる怪訝な視線.

いつものことだが.





「シェリア先輩,おはよざーす」

「オハヨ,珍しいじゃん?朝からどうしたよ」

「あの,ちょっと昨日のメールが気になってたんで…」

「そういやさっきメール来てたけど,どうせ迷惑メールだろ?開いてねーよ」

「それ見せてください!」



先輩は,ふーんとあっさりした感じで,あんまり気にしていないというスタンスだった.

携帯をずいっと出されて,好きにしろと目で訴えかけている.

むしろ,これをどうにかしろとも受け取れる視線.



「メール開けてもいいっすか」

「どーぞお好きに」

「では遠慮なく」



開けば,スクロールするように流れる画面.

最終的に,「はい」と「いいえ」を迫られている.

ざっと見た感じは,昨日とあんまり変わらない.

若干数値が違うくらいか?

くれぐれも,選択肢に触らないように読みとばした.



「…ん?」

「どうしたんだ?」

「ボタンが,言う事聞かねぇ」

「なんだ,フリーズしたのか?」

「いや,この…「はい」か「いいえ」を選べってことじゃないかと」

「じゃあ選べよ」

「いやいやいや!迂闊に選んだりなんかしたら…」

「お前ホント肝っ玉の小さい男だな,ったく」



すっと長い指が,俺の手から携帯を奪う.



「やってみりゃわかるだろ」



そのまま,ぴとっとタッチ.

選んだ選択肢は,「はい」だった.



ふいに,後ろから叫び声が聞えてきた.

避けろ!と,男子生徒が遠くとも近くとも言えない距離から話かけてきている.

意識を逸らす前に,目の前にサッカーボールが飛んできているのだ.

先輩が振り返るタイミングで,このままだと確実に頭か顔に当たる.



「シェリア先輩,動くな!」

「っ…!!」



俺は咄嗟に,手を出してボールを受ける.

手の平に当たったボールが勢いをなくし,地面を打って転がった.

防いだおかげもあってか,先輩には当たらなかったみたいだ.



「や,やるじゃん,凰壮…!しかし,あっぶねーなおい」

「…と,当然っしょ.怪我なくて良かったっすね」



転がったボールをつま先で浮かせて,飛んできた方向へ返してやった.

ポカンとする先輩に,内心ハラハラしつつも取り付くろう俺.

遠くでごめんとありがとうという言葉を貰って,やっと正気に戻った気分だ.



「俺,元はサッカーやってたんっすよね」

「ふーん」

「にしても,ホント間に合ってよかった…」

「だな.サンキュ」



助かったよ,と肩を叩かれただけ.

…そうだな,シェリア先輩ってこういうひとだ.

はーっと溜息をついたところで,先輩が俺に手を伸ばした.

ん,と再び渡される携帯.



「そんなお前に朗報なのか.携帯にメールきてるぞ.お前の気になるあの迷惑メールから」



見れば,どうもご丁寧にトラブル回避おめでとうございます,だとよ.

うぜぇと思いながらも,確信した.

この,どこで見張ってるかも分からないのに俺達の行動を把握しているヤツ.

…アンハッピーコンデンサと一緒だな.



「先輩,ちょっとヤバイことになったかもしれない」

「はぁ?」

「詳しくはまだわかんねーけど,もしかしたら…結構ヤバイかも」

「ヤバイだけじゃ全然わかんねぇっつーの.順を追ってちゃんと説明して」

「あー…そっすね,じゃあ放課後にうち来ません?」

「やだよ,お前がアタシんとこ来ればいいだろ」

「迎えに行きます」

「別に迎えに来ないでもいいし!行きゃいいんだろ,行きゃ」

「でも迎えに行くんで待っててください」

「ま,待ってやってもいいけど」



先輩ってばツンデレっすか.

なんて言おうもんなら俺また殴られるんだろーな.

でも,不良のくせにこういう見栄っぱりなところは可愛かったりする.

俺彼女いるけど,先輩といる時間の方が長ぇし,彼女より先輩のことの方が詳しい.







「まァ寛いでてください.お茶淹れてきます」

「お気遣いなく.ってか,話だけならすぐ帰るけど」

「まだ竜持が帰ってきてないんで,ちょっと待ってもらいたいんっスよ」

「あっそ,じゃあお気遣いよろしく」



竜持のやつ,今日は遅くなるって聞いてねーぞ.

虎太はまぁ,彼女を送って帰宅コースか.

あー…先輩と家でふたりっきり.

これってやばくね?

なんてやましいこと考えてると,帰ってくるんだよなーほら.



「おや,お客さんで…なっ,シェリアさん!?」

「げっ…」



リビングが騒がしいので慌てて飛び込んだら,青ざめたシェリア先輩と竜持.

え?

知り合いだっけ.



「凰壮おまっ…!帰る!私は帰る!!」

「いやいやいやまだ本題に入ってないんで!待って!!!」

「コイツが兄弟とか聞いてねーよ…ありえねーよ,クソ」

「その言い草はあんまりじゃないですか?」

「竜持,先輩と知り合い?」

「ええ,勿論!この方はですね,以前の塾でご一緒だったんです」

「ああもう,余計なこと言うな!降矢って,そういや同じ苗字だもんな…なんで気付かなかったんだアタシ…」

「こんなところっても僕の家ですが,また会えるなんて光栄ですね」



なんだなんだ,竜持と先輩のあのテンションの差って.

つーか,前の塾ってことは,俺より付き合いが長いんじゃねーか?



「ところで,今日は一体?」

「あぁ,そうだ!アンハッピーコンデンサ!竜持,覚えてるだろ!」

「忘れるわけがないでしょう」

「あれがさ,また現れたみたいなんだ」

「なんですって!?どういうことですか!」



今度は竜持の顔色が変わっていく.

アンハッピーコンデンサ,それが与える恐怖やトラウマは決して小さいものじゃない.

真剣な顔になった竜持がソファに腰を下ろしたところで,俺はシェリア先輩の横に座った.

そして,ありのままの起こったこと,実際のメール,全てを示して説明をする.



「なんてことだ…また,アレが暴走しようっていうんですか…!有り得ない!」

「俺も半信半疑だけど,このメールの選択肢ではいを選んだら,実際にトラブルが起こったし,クリアしたってメールがすぐに来たんだ」

「…いや,アタシが完全に置いてけぼりなんだけど.アンハッピーコンデンサって何?あと,状況がサッパリすぎるわ」

「そ,そうでした.シェリアさんはご存知ないのも当然です.まずは,少し前に起こった奇妙な事件についてお話しましょうか」



俺の説明を一旦止めて,竜持が過去にあったことを洗いざらい喋った.

そんな詳しくなんていっても分からないプログラムのこととかも.

シェリア先輩は,だる気な感じで聞き始めたものの,結末辺りでは前のめりになって聞いている.

竜持ってトーク術すげーな.





「なるほど,わかった」

「今ので理解しちゃうのか…」

「理解はできねーよ.でも,忘れないから安心しな」

「は?どういう意味っすか?」

「…また,今度話す.今は,そのアンハッピーコンデンサとやらのことを優先してくれ」



そう言われると,なかなか聞きにくい.

…こればっかりは,先輩から話して貰えるのを待つか.

先輩の顔色が悪いというのも,余程話し難いという意味で捉えていいのだろう.

無理強いは危険だと思った.



「じゃあ,状況確認からしましょうか」



竜持の先導で,俺達は真面目な話を繰り広げる.

それから,先輩が帰るころにはもう辺りは真っ暗で,念には念を入れて帰りを俺が送った.



まだ,俺達は戦う相手を知らなさすぎる.

それに気付いていない俺達の転ばぬ先の杖は一体どこを指し示すのだろうか.



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