Does he really died?:リクエスト:syunia様


「虎太くん,お待たせ」

「いや,待ってない」



コンデンサから助かって,やっと3ヶ月.

未だにフラッシュバックはあるものの,だいぶ平穏な生活に戻った.

戻った,というのもおかしいのかな.

まるでごっそり書き換えられたかのように,あのとんでもない日々は勝手に始まって勝手に終わった.

虎太くんの足も治って,サッカーはOKになって.

私はと言えば,顔に傷が残ってしまった.

他は治ったのに….



「じゃ,行くぞ」

「そうだね」

「……手」

「うん」



ぎゅうっと手を繋いで,並んで歩く.

あの日から,引っ張ってもらうのはやめたんだ.



「それにしても,お前も物好きだよな」

「…きちんと,弔いたいから」

「相手は人間じゃないだろ?」

「誰も覚えてないけど,覚えてる私たちがきちんと供養すれば…って思って.アンハッピーコンデンサだって,被害者なんだよ」

「…ま,お前のそういう優しさは偉いと思う」

「度が過ぎちゃうって,凰壮くんに怒られるけど」



向かう先は,廃工場.

私と,虎太くんと,アンハッピーコンデンサに立向った舞台.

今も動くことのないあの工場は,いずれ取り壊されるみたいだから.



「相変わらず荒んだところだな,足元気を付けろよ」

「ありがとう.……あ,こっちだよ」

「お前,なんで道覚えてるんだ?」

「…なんとなく,こっちの気がするんだ.…呼ばれてるのかな」

「怖い事言うなよ」



あの時私は,犯人に意識を奪われてここに運ばれた.

脱出したときも,意識もなくて救急車で運ばれたはず.

でも,なんとなく,だけど…わかるんだ.

自分の足が勝手に進んでいくの.



「…思い出してきた,この裏口」

「ここだな」

「天井,かなり脆かったのかな.だいぶ瓦礫が落ちてる」

「俺が落ちた階段も,外れたみたいだ.上には行けそうにない」

「…初めて,悪い事した気分」

「なにがだ?」

「進入禁止の黄色いテープくぐっちゃった」

「お前なぁ…その程度は悪事でもなんでもねーだろ」

「あ,悪事だよ!いけないことでしょ!」

「…へいへい」



相変わらず,虎太くんは悪さをしてるんだろうか?

それとも,過去の経験?

私と付き合い出して,あんまり悪い噂が立たなくなった.

それもこれも,周りに責められるほど彼女にベタ惚れしているってことになってるらしい.



『シェリア』

「え?」

「どうした?」

「呼んで,ないよね?」

「俺は何も言ってないけど」

「?」



ふいに,呼ばれたままに振り返ってみたけれど,誰もいない.

虎太くんが私を怪訝そうな顔で見ただけ.



「大丈夫か?」

『シェリア…』

「誰!?」

「どうしたんだよ」

「だって今,また名前を呼ばれた…」

「気のせい…じゃないんだな?」

「…うん」

「なら,信じる.でも,俺には何も聞えないんだがな」



私だけ?

辺りに人の気配なんてない.

不意に,携帯にメールの着信音.



「わわわっ」

「ただのメールだろーが」

「…そ,そうだけど」



確認してみれば,知らないアドレス.

件名には,『ワスレナイデ』との片仮名文字.



「な,にこれ…虎太くん,見て」

「…イタズラ,か?」

「あのね…この場所,電波が入らないんだよ」

「!」

「しかも,知らないアドレスから…忘れないでって…」

「開いたらまたコンデンサスタートとかになっても困るしな…」

「ど,どうすればいいの」

「と,とりあえずメールは置いておいて,だ.お参りだけ先にしようぜ」

「うん,それもそうだね!」



携帯は,とりあえず閉じて放置.

私達がアンハッピーコンデンサにトドメを刺した辺りまで歩いていく.

その場で献花して,手を合わせる.



「…ごめんなさい,そして,ありがとう」

「お前には,少し感謝してる.シェリアと俺を会わせてくれたことはな」

「…安らかに,眠ってね」



果たして,この行動がどういう意味を持つのか.

私にも分からないけれど…これが正しい気がしてならない.

虎太くんと目が合って,そのまま無言で工場を出る.

これ以上,私達がここにいるのも場違いかもしれないから.






「…それにしても,なんだったんだろう」

「メール,どうする?」

「このまま,にしておきたいのに…見なきゃいけない気もする」

「どっちだよ」

「だって,もしまたゲームが始まってしまったら…同じことが繰り返されちゃう」

「その為に,またお前は自分で自分を追い詰めるってのか?流石に,今度は竜持も凰壮も手なんか貸してくれねーぞ」

「…わかってる」



虎太くんの言うことは,最も.

私の正義感が先走っても,迷惑を掛けるだけ.

今度は,本当に死んでもおかしくはない.



「そんな顔するな」

「…ごめんなさい」

「謝るなって.…しょーがないから,俺の携帯に転送しろ」

「え?」

「お前がまた同じ目に会うかもしれねーのに,危険を承知で行動させるわけないだろ.だから,俺の携帯に転送してくれ」

「それじゃあ虎太くんだって一緒だよ…」

「だからって,放置できねーんだろ.だったら,また2人で乗り越えようぜ」

「…だったら,私ので開く!」

「あ,おい!?」



虎太くんと言い合いになった末に,私は強硬手段に出た.

自らメールを開くという行動は,思ったよりもボタンひとつで簡単にできてしまうのだ.

思わず閉じた目は,恐る恐る開いても何の変わり栄えもしない景色を捉える.



「…お前なぁ」

「虎太くんを危険から守るためだもん」

「それは俺の台詞だよ,アホ!」

「で,でも…何も起こらなかったね」

「本文はなんて?」

「あ,待って」

「どれどれ,…なんだ?…これじゃあまるで」




相変わらず,ゴシックな感じのおどろおどろしい文字.

蛍光ピンクの眩い画面だ.

短い本文だけが,真ん中に書いてある.





「楽しかった,か」

「うん…」

「…まだ,終わってねーんだな」

「そう,だね.でも,やっぱり納得できないのは…これが一体なんなのか,誰にもわからないってことだよ」

「まぁ…もう,調べる手段もねぇから…」

「これが最後のメッセージだとしたら,私達は本当に助かったんだと思う」



携帯に,それ以上のメッセージがくることはなかった.

本文にも,それだけしなかった.

終わったのは,あくまで私と虎太くんだけ…なのかな.



「何かが終われば,また何かが始まる…」

「シェリア?」

「それなのに,終わらなければ始まらない.私達は,ただ一回目の終わりを作っただけだった」



終わった,それは確かなんだろう.

でも,次の始まりはもう止められない.

どこでかな,誰にかな.

また私,なのかもしれないね.

でも,どこの誰がコンデンサに出会っても逃げられないよ,きっと.



「虎太くん,平和な生活って,楽しい?」

「…今だからこそ言えるけど,俺はあの日々も心のどこかじゃ楽しかったのかもしれねぇ」

「…それは私も,だよ」

「俺達,どっかで狂ってたのかもな」

「おかしいね,一回狂ったらリセットでもしない限り戻れないって分かってるのに…私,また馬鹿なこと考えてる」

「奇遇だな,俺もたぶん同じこと考えてる」



向かう先は,始まりか,終わりか.

私達の巡り合わせは,まだ巡っているよう.

ねぇ,どうする?

楽しい日々が懐かしくなったとき,私達,我慢できるかな?



もし,もうあの日々取り戻せないなら…作ればいいよね?


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リクエスト夢:8/15:虎太くん
アンハッピーコンデンサその後のifストーリー

リクエストありがとうございました.
意味深に終わって申し訳ありません.
もし本編自体の続編を書くとなったことを考えた都合上,ハッキリとどうなったのかはぼかしてあります.

※syunia様以外の方の持ち出しはお控えくださいませ.




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