※台詞括弧の前に!が付いている場合は,主人公が男子になっています.「案の定,やな」
「それはこっちの台詞ですけど」
私は今,幸せと罪悪感のふたつに苛まれていた.
仲良さ気に笑い逢うエリカちゃんと,降矢くんを久々に見た.
結局,一番我儘な私がふたりと傷つけていたんだと,はっとさせる.
「シェリアちゃん?そんな入り口に突っ立っとらんと,こっちおいでよ?」
「…せっかくなんですから,ね」
「あ,うん!」
保健室,トライアングルに座った私達の間に異物はない.
友情,愛情,混ざる想いはどれもかけがえのないもの.
だからまた,私は選べない.
「まさか,シェリアさんが彼だったとは思いませんでしたよ」
「うちもな,最初はめっちゃ驚いてん」
「しかも罪なくらいイケメンなんですよね,男でもクラッときます」
「うんうん!やっぱ,竜持くんもそう思うやろ!?」
「まぁ女性の時にはそんな美しさ適いませんけど」
「女の子のときは,ホンマもう可愛すぎて食べたいくらいの勢いや!」
「…」
私を目の前に,容姿を褒められるとなかなか照れくさい.
おまけに,止める役が私以外にいないのだ.
言葉を失ったまま,喋り合うふたりを眺めていれば,いつのまにか二人の視線は私に.
「あ」
「どうしたん?えらい,ボーっとして」
「元気ないですね?」
「…ちょっと,思うことがあってさ」
「あー…そうですね,僕達はすっきりしてますけど,シェリアさん的にはあんまり解決になってないですもんね」
「ごめんな,気付かんとはしゃいで」
「ふたりは,悪くないよ!そもそも,私のことでそんなに喜んで貰えるのは嬉しいし,想いが伝わって恋が叶って幸せだから…」
じんわりと,泣きそうになってくる.
駄目だ,ここで泣くわけにはいかない.
「…幸せなのに,素直に笑えないし…どうしていいか…わかんなくて」
「選ばなかったことに関しての,罪悪感があるっていうなら…それはあんまり考えないで貰いたいのですが」
「竜持くん?」
「あ,これは僕に関してですからエリカさんも黙って聞いてくださいね.僕,シェリアさんが男女どっちでもいいということを先程言いました.でもそれは,エリカさんと僕を天秤に比べてという意味ではありません」
「…うん」
「今はこうやって笑い合えても,いつかシェリアさんが,これからどうやって生きていくのかによっては,僕かエリカさんはこの恋を諦めることになるでしょう」
「そ,壮大なスケールの話やな」
「結局は選択しないということで選択することを先延ばしにしただけなんです.でも,僕達が過ごした日々って,そんなペラッペラなものなんですか?」
「…それは,違う.ちゃんと,記憶に残る思い出だよ」
「せやな」
「そうですよね?つまり,僕もエリカさんも,勿論シェリアさんも,先のことなんてわかりません.新たな出会いもあれば,既存の関係だってあるんです」
降矢くんは,指でこんこんっと頭をつつく.
「僕達は,友達も家族も全部選んで生きてきたわけじゃないんです.偶然にも,出会って,作り上げたものがそこにある.それが今の僕達だと,思えませんかね?」
「作り上げて,きた…」
「えぇ,ですから選ばずとも出来上がってきたこの関係に対して,シェリアさんが悩む必要なんてないと僕は思います」
「うちも,今回は竜持くんに賛成.シェリアちゃんとの関係は,一朝一夕で出来たもんと違うやん!うちらの間には,もっと,濃い時間があったよね?」
そんな言葉を投げかける,ふたりに腕を伸ばした.
トライアングルのひとつの頂点が,崩れていく.
ぎゅうっと,両腕に愛おしい人を抱えた.
「わぁ…なんか,柔らかくていい匂いするし,超役得ですね」
「いやあの,可愛すぎて…むしろうちが抱き締めたいくらいなんやけど」
「…ちょっと黙ってね,私の感動が流れそうだから」
緩む口に,言葉はないまま.
私は顔を上げて,二人に口付ける.
降矢くんに触れて,一瞬だけ男になって,エリカちゃんに触れて,また女になって.
それでも,受け入れてくれる二人がそこにいた.
「まさに両手に花だ」
「あ,言うてくれるやんシェリアちゃん?」
「エリカさんは雑草で十分ですよ」
「竜持くんこそ,ダイコンとかでええし」
「あの…もはや花じゃないんだけど」
「うちからしたら,シェリアちゃんが花!ああもう愛でたりんわ」
「何言ってるんです,シェリアさんは太陽でしょう!」
「なら,本人に決めてもらおうや」
「え」
むちゅっと,エリカちゃんが私の襟を引っ張った.
!「…勘弁してくれ」
「ずるいですよ!!ちょっと!!」
「はんっ!最早竜持くんに遠慮することなんてないねん,堂々とやったるわ」
!「いや,俺のプライバシーもあるって」
「エリカさんのくせに,クソ生意気ですね…っく」
!「お前も悔しがってないで,突っ込めよ馬鹿」
「シェリアさんが罵ったああああ!!!ちょっと目覚めそうです」
「ええ!うちも罵られたい〜」
「なんかこう,ぞくっとしますよ.いや…ちょっともう一回なんか罵ってください」
!「…いや,どういう…つーかな,お前ら!」
「「はい」」
改まって,言葉にするのも恥ずかしい.
だけど,自然に笑みになって出てくる感情.
!「…後悔,すんなよ?」
「ひいいい…反則ですって」
「あ,アカン…あまりのことに眩暈が」
!「……はぁ」
こんな日々も,悪くない.
誰にもわからない,未来が…そこにあって…回り道をしてでも,いつかはどこかに辿りつくだろう.
こんなふうに幸せを掴んでも,いつ壊れてしまうかなんて,悩むだけ無駄だったな.
だったら,楽しむだけだ.
それが許された,今だから.
抱えきれないほどの幸せを,抱き締めて俺は笑った.
END.
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