ノーマルライン12


※台詞括弧の前に!が付いている場合は,主人公が男子になっています.

「え…,なんですか,そんなに慌てて…」


廊下でいきなり,制服の裾を捕まれて振り返れば僕の天使.

息を切らして,ついてきてほしいの,なんて言われて僕がついて行かないとでも思います?

ルンルンでついて行きますよ!!






「…降矢くんに,どうしても言いたいことがあって」


こ,告白ですか!?


「今まで,ずっと言えなかったことで…騙してたわけじゃないけれど,その…」

「あの…それってまさか」

「私…実は…」


ああ,やっぱり駄目ですこんなの.


「待ってください!僕が言います!!!」

「…知ってたの?」

「好きです,お付き合いしてください」

「…え?」

「え?」


お互いにきょとんとした,沈黙.

ま,まさか…違ったんでしょうか.

いや,そういう問題でなくて,シェリアさんは一体僕に何を言おうと思ったんでしょうか.



「あの,その返事をする前に…私,降矢くんに隠してたことがあって」

「なんですか?」

「そ,それを知ったら…私のこと嫌いになるかも」

「それはないです」

「…どうして言いきれるの?私,秘密を明かすのがこんなに怖いのに」



当たり前じゃないですか,好きだからですよ.

いくら僕が歪んだ人間でも,人並みに恋はします.

勿論,好きな人くらい心から信じて愛し抜く自信くらいあるんですよ?



「僕は,一目惚れしてからずっとシェリアさんに好意を寄せてきました」

「…うん」

「貴女が僕に秘密を明かすのが怖い,ということは…逆に考えれば,僕は良い様に受け止めてしまいます」

「…あ」

「すいません,揚げ足を取ってしまうようで.ですが,その答えを何よりも喜んでるのは僕です.だから,最後まで貴女を信じます」



そう言葉にすると,自分でも不思議と怖いものがありませんでした.

自己暗示…ではないですが,信じるというのは存外恐れをなくすようで.

例えばシェリアさんがここで,自分は実は男だったのとか言っても全然許せそうなくらいです.



「あのね,私…実は降矢くんが探してるシェリアなの」

「え」



いやあの,僕はものの例えで男でもいいとか言いましたけど…え?

そして,僕の首に絡んだ腕.

麗しの唇が,僕の口の1センチ前で止まりました.



「信じてくれて,ありがとう.嫌いになってもいいから,最後まで聞いて」



そして,ふんわりと重なった唇.

抱き締めようとした小さな体は,だんだん手足が伸びてきて….

見慣れたイケメンが,僕を逆に包みこみました.

いろんな意味で顔が真っ赤になりましたよね.



「ええええええっ」

!「…驚かせて,悪い」

「ちょ,誰ですか」

!「シェリア,男の姿の」

「男性,だったんですか?」

!「厳密に言えば,男でもあり女でもあるっていうのが本当.ごめん」

「…とりあえず,ちょっと整理しましょう.貴方はシェリアさんなんですね?」



驚いたのも一瞬,氷点下並の冷静さはすぐに戻りました.

そもそも,これが…シェリアさんの秘密だったんですか.

確かに,名前が一緒だったり,面影はありますけど.



!「ずっと,言い出せなかった」

「それはまぁ,当然と言えば当然じゃないですか…?」

!「は?」

「いや,さっきの話に戻りますけど,シェリアさんが僕の事好きな前提だとしたら,普通に言うのが怖くて当たり前だと思うんですよ.だって性別が違うんですよ?僕なら言いませんけど絶対」

!「お前…変わってんな」

「すいません,褒め言葉ですよね一応?とにかく,何回も失礼ですが,シェリアさんなんですよね?」

!「うん」



じゃあ問題ないです.



「僕より身長が高いのがちょっと…アレですけど,並べば絵になってますよね,イケメン同士ですし?」

!「イケメン同士って…お前…自分で言ってんなよ!しかも,どういう解釈してんだオイ」

「だって相思相愛なんですよね?ところで,どうやったら女に戻るんですか」

!「そんなにサラッと受け止められると思ってなかっただけに,開いた口が塞がらない」

「塞いであげましょうか?」



思わず出た言葉に,固まったイケメン.

あんぐりと開いた口に,指をなぞらせれば,ふっと笑われて.

今気付きましたけど,僕達男同士でなんですよね今.

抱き合って,キスしようとしてるってなんか…タブーみたいなちょっと背徳的な気持ちが….



!「…今ので確信したけど,お前馬鹿だろ」

「ちょ,なんてこと言うんですか!シェリアさんってそういう性格でしたっけ!?」

!「あぁ,悪い.女のときとどうにも感覚が違うんでな.俺がお前が馬鹿だって思ってても,女の俺はそう思わないみたいなんだよ」

「シェリアさんが馬鹿って言うなら,馬鹿でもいいですけどね」

!「認めるのかよ」



いや,バカバカ言いすぎでしょう.

…シェリアさんだからいいですけど,エリカさんだったら散々言い返しますよ?



「さっきの様子からだと,キスですかね?ただ触っただけでそうなるなら,今まで隠せなかったでしょうし」

!「…お前,馬鹿だけど頭はいいな」

「一言多いですよ」

!「それでも,なんでか好きなんだよな…」

「男に言われても嬉しくないけれど,ありがとうございます.是非女性の時に同じ台詞を言ってください」

!「約束はできないけど,忘れなかったら覚えておく」

「いや,それ絶対やらない人の言葉ですよ!?」

!「…ああもう,お前と話しすると調子狂う.ったく」



ぐいっと,強引に引かれて唇を奪われました.

僕の方が女性役のようで,ちょっと悔しいけれど不思議と嫌でもなかったです.

シェリアさんだからですかね.

目を疑う前に,目の前には可愛い天使がいるんですもん,許せます.



「…降矢くん,ありがと」

「いいえ!むしろこちらこそ,言いにくい事を話してくれてありがとうございます」

「…まさか,こんなにすんなり受け止められると思ってなくてね,正直どうしていいのかわからないんだけど」

「僕の彼女になってください」

「でも,私エリカちゃんが好きなの」

「…はい?」

「さっきも言ったように,私は男女の時で感覚が違う.だから…降矢くんも好きだけど,エリカちゃんも好きなの」

「つまり,選べないと」



こくんと,頷いて困った顔を浮かべたシェリアさん.

可愛いと思うのと同時に,ちょっとだけ複雑な気持ちになる僕.

……ま,しょうがないですよ.



「結論的に言えば,僕は男の貴女もいやじゃないですから…全てを受け入れますよ」

「怒らないの?」

「悪いことしてるわけじゃないですからね.エリカさんとお付き合いしてるわけじゃないんでしょう?」

「…うん」

「つまり僕とエリカさんはまだライバルなわけです.勿論僕は譲る気なんてありません」

「…え?」

「いいですよね,それくらい.むしろ,今まで知ってて黙ってたんですよ…?それをライバルとして認めてやるんですから感謝こそしてもらいたいんですけど」

「降矢くん…」

「…2つに1つが答えだなんて,誰が決めたんです?選択肢が僕とエリカさんの2つなら,選ばないという第3の選択肢だってあるってことを忘れちゃ駄目ですよ」



若干盛ってみたものの,割と本心に収まった言葉です.

僕は,シェリアさんと結ばれればいいわけですし?

別にそこにエリカさんが加わろうと,僕とシェリアさんが解けなければいいんです.

まぁ僕がエリカさんと結ばれることはないでしょうけどね.



「…さて,行きましょう.どこにいるんですかエリカさんは?」

「保健室」



僕はシェリアさんの手を取って,静かな廊下を歩いていきました.

今までで一番,すんなりシェリアさんに触れることの出来た手.

…悔しいけど,感謝してますよ.

僕とシェリアさんを結んだ意地っ張りな彼女に.



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -