ノーマルライン07
※台詞括弧の前に!が付いている場合は,主人公が男子になっています.
…あ,有り得ませんよね.
この僕が,男性に胸を打たれるなんて!
自分でもちょっと自分に疑心暗鬼になりそうです.
誰かって?
ほら例の,シェリアって人です,…あの顔のいい,好青年のことですよ.
「降矢くん,どうしたの?」
「シェリアさん,ちょっとお尋ねしたいんですけど!!」
「え,なぁに…?」
「どないしてん,竜持くん」
「シェリアさんにご兄弟とかいます?」
「ううん,いないよ」
「一人っ子やもんね,シェリアちゃんって」
ではやっぱり,シェリアというのはこの可憐で美しいシェリアさんとは何ら関係ない同姓同名なんですかね.
ついさっき,彼に出会い,階段を落ちそうになったところを横抱きにして助けてもらったんですよ.
そりゃもう,公衆の面前で…俗に言うお姫様抱っこ.
恥ずかしさで死ぬかと思いましたけど,イケメンが「大丈夫か?」なんて笑顔で言うから!
きゅんってしちゃったじゃないですか!!!!
「あの方は一体誰なんでしょう」
「あの方?」
「ほら,エリカさんが先日屋上で一緒に居たあの男子ですよ」
「「!」」
「シェリアくんって言うんでしょう?シェリアさんはいなかったから,見てないですけど…でも同じ名前ですし」
「…なんのことやら」
「告白されそうになってたじゃないですか!」
「ちょアホ!声大きいわ!翔くんか!」
「一緒にしないでくれますううう!!?」
「二人ともうるさいよ,皆見てるって」
「「あっ…」」
シェリアさんに嗜められて,見渡せば注目の的.
僕あんまり騒がれるの好きじゃないんですよね.
自分が騒ぐのはいいんですけど.
「彼が,何年何組の何シェリアくんなのかが知りたいんです」
「どうして?」
「彼には何度か助けてもらってるですよ.以前に」
「…へー…シェリアくんと竜持くんってあの時初対面じゃなかってんなぁ」
「エリカさん,素直に彼氏の素性を話してください」
「せやから彼氏じゃないっちゅーねん!」
「降矢くんって,そのシェリアくんのことを知ってどうするつもり?」
「それは…別にどうっていうわけでもないんですけど,何度もお会いしてるんですからちょっと興味を持ったっていうか…」
「会いたいの?」
「いや会いたいほどではないです」
「なんやねん,その程度なら別に気にせんでええやん!」
「なんですその言い方!やっぱり会いたいです!場所が分かれば会いにいきます!」
エリカさんの言い方にむっとした買い言葉なんですけど.
会えば,お礼くらいは言いたいですし.
そもそも,シェリアさんはシェリアくんのこと知らないんですね.
会ったことも話したこともないんでしょうね…きっと.
「あぁ,そうだ!数学の課題!」
「え?エリカちゃん?」
「忘れてて,シェリアちゃんに聞こうと思ってたんや!」
「あと昼休み5分もないですよ」
「あれって,5限目の最初に提出じゃなかったっけ?」
「ひいいいまた補習になってしまう!シェリアちゃん〜」
「もうっ!仕方ないなぁ…」
「彼の事教えてくれるなら,今後ノートをタダ貸ししてあげてもいいですよ?」
「その手に乗るか!そんな欲に塗れたノートなんぞ,こっちから願い下げしたる!」
「なんです欲に塗れたって!人聞きの悪いですね!」
「うっさい!男のこと嗅ぎ回って,自分アッチに目覚めたんとちゃう!?」
「なんですって!貴方がそれを言うんですか!」
エリカさんには言われたくないですよね!!!
ていうか,アッチって…そんな….
「ゴホン,高遠,降矢」
「「あ」」
「…授業だぞ,席に着くように」
ちゃっかり席に戻っていたシェリアさん.
そこはしっかり見捨てるんですね…その冷たさも愛なんですよね?
いやまぁそうでなくてもそう思い込むことが大切なんです.
こうして僕のホモ疑惑と,エリカさんの彼氏疑惑が,クラスだけでなく学校全体,教員にまで生まれたのは言うまでもないですね.