おうちにようじょがやってきた 番外‐凰壮03‐


俺が大学に入って,あんまり構うことのない妹が色気づいているのは感じていた.

最も,恋をしたわけでもないんだろうし,異性に好かれたくしてるわけでもないと思う.

言うなれば,本人はそうでなくても,周りから見れば色気づいているように見えてしまうのだ.

スキンシップの距離感を失った俺達三つ子は誰も口にしないけれど,きっとそれがひしひしと伝わってる.



「シェリア?」

「凰壮兄!」

「なんだよ,待ってるならメールすれば良かったのに」

「えー…だってもう授業終了時刻になってたし」

「レポート出しにいってたらもっと遅くなってたぞ」

「ごめんごめん」



俺を待って,わざわざ大学にまで来てくれる.

容姿から,目立たないわけがない.

同学の奴からは,何度からかわれたか.

―うわぁ,めっちゃ可愛いな!あの子,お前の彼女?―



「いくら大学とはいえ,危ないから1人で待つなよ」

「でも私,中学生だよ?」

「…事実はそうでも,お前は中学生に見えないんだよ.自分が一番わかってるだろ」

「…むっ」

「何回言っても自覚しないなんて,馬鹿じゃねーの」

「…ひどい,なんでそんな言い方するの」

「心配して言ってるんだ.素直に返事しとけ」



本人が感じているコンプレックス,その成長し過ぎた容姿もそれに含まれているのか.

それとも,単に俺の言葉が気に入らなかったか.



「ねぇ,メイワク?」

「は」

「私,迎えにきたり,一緒にいるのって,凰壮兄にとってメーワク?」



歩き出した俺の横に,いつもなら並ぶはずのシェリアは俺の一歩後ろで足を止めた.

首を傾げた,不安げな顔で俺を見た.

そんなくだらない質問,答えはノーだ.



「好きで,こんなになったわけじゃないっていつも言ってるのに」

「シェリア」

「凰壮兄は,いつもそうやって私の外側ばっかり」

「違うだろ,俺が言いたいのは」

「違わないよ.だって,私達は兄弟に見えないもんね?」

「シェリア!お前,それは言っちゃ駄目だろーが」

「どうして,本当の兄妹じゃないって…誰もが見てわかるじゃない」

「お前,いい加減にしないと怒るぞ」

「もう怒ってるくせに…,そうやって私の反論はいっつも無視するんだね」



シェリアの言葉に,少しだけイラ付きながらも足を速めて歩く.

だけど,俺についてくる気配はない.

少し遠くで,悲しそうに俺を睨んでいた.



「シェリア」

「…もう,いい」

「あ,おい!」



走り出したシェリアは,言えと逆方向.

追いかけても,拒まれるのは承知で追いかけた.

暗い中,置いて帰って万が一のことでもあれば困る.

心配なんだよ,可愛いから.







「シェリア…!…ったく,どこ行った」



姿を見失って,辺りを見回した.

いない.

駅は人が多くて,見つけるだけでも難しそうだ.

携帯は,繋がっても切られるし,メールは当然返事なし.

お手上げになって,頼りになる兄たちに連絡をした.




「…悪い」

「しょうがないですよ.シェリアさんも馬鹿じゃないですからね,僕の電話もスルーです」

「俺も駄目だな.ていうか電源切ったなアイツ」



緊急招集した俺達三つ子は,結局探し回るために走った.

俺が事情を説明したら,竜持は思うと事があったのか,少し目を伏せて.

虎太はといえば,そうか,と軽く返事をした.

コイツら,妹を心配していつもどんな言葉を掛けてるんだろうな.





「…シェリア,ガチでいないんだが」

「おかしいですね,だいたいのところは見て回ったはずですよ」

「他の奴に連絡してみるか,案外誰か見てるかもしれないし」



縋るように,3人で手当たり次第知り合いに電話をつなぐ.

翔のとこも,高遠のとこも,景浦のとこも,杉山のとこも,青砥のとこも,返事は一緒.

知らない,だ.



「あ,もしもし西園寺か?」



虎太が,西園寺に電話をした.

すると思わぬ,電話越しの声なのか,虎太が難しそうな顔を見せる.

俺と竜持に聞えるよう,スピーカーに切り替えられた.




『あー…もしもし?誰アンタ』

「これ,西園寺の携帯だよな?」

『へーこの黒髪ちゃんって西園寺って言うんだ.いかにもお嬢様って感じジャン』

「誰だお前」

『お前に関係ないし』

「待て,遠いけどなんか声聞える.ちょっと音量上げろ」

「「?」」



俺が拾ったかすかな声は,女の子のもの.



『やめてってば!レーカに近寄るな!』

『へー…そっちの子がレーカちゃんっての?君も可愛いよね,名前教えてよ』

『ここここ来ないでください…っ!携帯返してっ!』

『まぁそうつれないこと言わないでさ.遊ぼうよ』



どうやら,あんなちょっとの間に何か変なのに絡まれたのか.

シェリアと西園寺は一緒のようだ.



『ってか,俺ら今からお楽しみだから,切るわ』

「おいっ待て!」

『じゃねー』

「おい!っち,切れたぞ!急いで探さないと」

「大丈夫です,西園寺さんの携帯を逆探知します」

「「え?」」

「ふふ,これくらい…僕が妹を愛していることを思えば造作もないことです」



竜持の言葉に,どことなく伝う冷や汗と,ドン引きな視線.

ごめん,ちょっとシスコンが重症すぎる.








「シェリア!」

「無事ですかっ」

「てめーら…覚悟は出来てンだろうな」



竜持の暗躍のおかげで,あっという間に足取りは掴めた.

幸いにもどこかに連れこまれたわけでなく,少し入り組んだ路地だ.

逃げ場もあれば,喧嘩をするにも十分な広さ.

シェリアは,西園寺を庇うように立っていた.



「お兄ちゃんっ」

「シェリアっ!無事か!」

「平気,でも…レーカが足挫いちゃって…」



相手は俺達の突入に怯んだが,いきなり殴りかかってきた.

数人とはいえ,俺達三つ子に勝てると思ってんのか?

物の数分のうちに,男達が蜘蛛の子を散らすように逃げたのは言うまでもない.

ちなみに,向こうの去り際に免許証や身分証を拝借…もとい献上させたので報復の心配もないだろう.



「大丈夫か,怪我は?」

「私はヘーキよ」

「ごめんなさい,私があの人達に絡まれてたところをシェリアちゃんに助けてもらったの」

「西園寺,立てるか?」

「えぇ,軽く挫いただけだからもう大丈夫.せっかくシェリアちゃんが逃がしてくれたのに,転んでしまって…ごめんなさい,こんなことに巻き込んで」

「いいよ,レーカのせいじゃないって!それより,おうちに帰ったら絶対手当てしてね?」

「うん.不安だから,一応家に連絡入れて迎えにきてもらうよ」

「それなら安心っ」



のんびりとした空気が漂う中,虎太も竜持もその雰囲気に溶け込んでいた.

そして,虎太が西園寺を表に送りについていくというので,二手に分かれる.

竜持は相手の身分証を持って,警察に行ってくると言い残して行ってしまった.

残された,俺とシェリア.




「…馬鹿」

「…馬鹿じゃないもん」

「俺の言い方が悪かったなら,それは謝る.でも,俺がこうして口をすっぱくして言うのは,お前が危険な目に遭ってほしくないからだ」

「…違う,そんなの言い訳だよ」

「俺は虎太のように聞き上手でなければ,竜持のように話上手でもない.だけど,俺がお前の兄である以上は何度だって言うぞ」

「でも,嫌なんでしょ」

「は」

「私,妹に見えないし,迷惑なんだよね…」

「なっ…!んなわけねーだろ!!」

「ひゃっ,急に大きい声しないでよ凰壮兄」

「俺はなぁ,お前の事を迷惑なんて思ったことは一度もねぇよ!」

「だって,私のこと褒めてくれない.私が,悪い子だからよね?だから,嫌いなんじゃ…」

「誰がンなこと吹き込んだかは知らないけどな,二度とそんなこと考えんな.それが一番腹立つ」

「え」



ぎりっと噛んだ下唇.

何に対してかはわからない怒り.

シェリアを悲しませてるのが,俺達二人の誤解なら,それはすぐにでも解かねばならない.

だって,言葉にはできないけど…俺はシェリアのことを….



「帰るぞ」

「ええっ」

「ほら,危ないから今度は横並んで歩けよ」

「…ちょっと,手」

「いいから」



俺に引かれた手を見て,シェリアは何を思ったのか.

そんなの俺が知るわけねぇ.

でも,今の俺にはこうするしかわからない.

愛おしい,可愛らしい,そんなチープな言葉で固めただけ想いなんかじゃないんだ.



「…凰壮兄」

「なんだ」

「ごめん,なさい」



俺は一体,シェリアに何をしてやれるんだろう.

そして,何が正解なんだろう.

モヤモヤしたこの思いが渦巻く中で,募る焦燥.


「…」

「…」


黙って歩いた,家までのこの距離がなんと長いことか.

でもこれでいいんだと思う.

心のどこかに,必ずまた笑い会える日が来ると,確信があるから.

だから今日は,笑顔になるための一歩に過ぎない.

無言で歩く中,俺は自分の手を握り返しているシェリアの一回り小さな手を,少し強く握った.





すれ違いにシェリアと俺が悩んだ,そんな大学生1年目秋の苦い出来事.



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