おうちにようじょがやってきた 番外‐凰壮02‐


待ちに待った,長期休暇がやってきた.

今日は,家族総出の海水浴だ.

シェリアも前々から楽しみにしていた海水浴.

天気は雨だった.



「…残念すぎる」

「そうだね,せっかく海に来ても室内プールで泳ぐなんて,ね」

「でも案外いいじゃん.室内なら日焼け気にしないでいいだろ?」



シェリアは,発育が良いお陰で,ビキニを着こなしていた.

福眼だろう,周りの男にとって.

パーカーを着せようと,俺は肩にかけてやったのにな.

シェリアにあっさりいらないと一蹴されて,ポイッ.



「ちょっと,スライダー行ってくるヨ」

「「「え」」」

「さっきから気になってたから〜」

「いや,それは流石に…ほら」

「虎太兄,怖いの?」

「いや断じて!俺はあのくらいはどうってこと…」

「僕,下でカメラ構えてますから.出てきたところをバッチリ収めてあげます」

「わーい」



なんでプールにまで,カメラを持ってきてるんだコイツ.

あれ,防水なのか?

…あの赤いフレームのデジカメって,どう見ても竜持のじゃないと思うんだけどな.

…だって竜持のは,確か緑だったような.



「竜持…絶っっっ対に,濡らすなよ!!!」

「はいはい気をつけます」

「おい!絶対だぞ!!」



まぁこの後どうなるか,読者はもう分かってるだろうけどな.

俺もなんとなく直感してる.

無事で帰ってこないだろう,俺のデジカメ.



「って,シェリアは先に行ったのか?早っ!」

「あ,あそこ階段登ってる」



ここのスライダーは,結構面白いらしい.

虎太がなんかブツブツいってたが,俺は楽しみだ.

シェリアもスリリングなのが好きみたいだからな…気になってたんだろう.

二人乗り,ってことは俺とシェリア?

密着,的な…いやぁ,いいねェ.



「では,行ってらっしゃいませ〜」



インストラクターの声が聞えると,シェリアは前の客とボート型の浮き輪でもう出発してしまった.

えええええっ俺の夢が3秒も保てずに終わったー!

しぶしぶ叫び嫌がる虎太と,降りるハメになった.

楽しくない.







「ぷはぁっ…やばい,もう一回乗りたい〜」

「はは,いいね.僕もそうしようかな」



俺達が降りると,既に下に着いていたシェリア.

その横には,大男が立っている.

見慣れたシルエット,だ.



「かかか景浦ァアアアアア!?」

「あ,お兄さんも一緒だったんだ」

「うん,遅いから置いてきちゃったんです」

「そうか.あ,もう一回乗る?」

「是非是非!」

「いやいやいやいやさせねェエエエエ!虎太,ほら,しっかりしろ!」

「景浦!?いやあの,こんにちは!」

「こんにちは」

「いやそうじゃなくて!」



フラフラの虎太は宛てにならないので,プールサイドに戻らせた.

戻ってきた俺の目に映ったのは,笑顔でデジカメを握り潰した竜持だ.

え,あの…え?



「竜持,それ」

「なんでシェリアさんと景浦くんがふたりっきりでスライダーから出てくるんですかねぇええ」

「いや俺のデジカメ…」

「あんなに密着して,どういうつもりなんでしょう…ふふ」



ぐしゃっと,変形したデジカメ.

えええええっ俺だけ大損!

なにこの切なさ…いや,おかしいだろ!?

超理不尽!!




「シェリアさん,絶叫系平気なんだね」

「はい!運動は苦手だけど,絶叫マシーンとかスリリングなのが好きで…」

「お兄さんとは逆みたいだ」

「あはは,そうかもっ!」



なにあのカップルみたいな雰囲気,むかつく.

と俺が思う前に,俺の目の前でぐしゃぐしゃになったデジカメが床に落ちたので何も言えなかった.

…せめてSDカードが無事でありますように.





「何やってるんですか,凰壮くん」

「お前がだよ」

「早くあの雰囲気をブチ壊してきてください.シェリアさんを回収するんですよ」

「なんで俺が…」

「行けって言ってるんです」

「……ハイ」



しぶしぶ,逆らえないままにシェリアたちのところへ.

俺が近づいても,2人は仲睦まじく喋っている.

そもそも,なんでこいつらはこんなに仲がいいんだ.




「あ,凰壮兄…どうしたの?」

「お前らって,どういう関係?」

「どうって…先輩後輩?」

「まぁ…歳の離れた友達かな」

「お兄ちゃんの試合見に行ったりしてるうちに,何度か顔合わせたりしてたんだよ.最初は挨拶だけだったけど,それからちょくちょくお話するようになって」

「へー」

「凰壮くん,こんな素敵な妹がいてうらやましいよ」

「…あぁ」

「もう,景ちゃん先輩ってば〜…」

「景ちゃん先輩!?なにそれ俺知らない!!」



なんだその呼び方!

それを平然と呼ぶシェリアも恐ろしいが,呼ばせている景浦にも引いた.

けれど,なんだかこの外面の良い景浦が気持ち悪い.

シェリアには悪いけど,ここは兄としてしっかり警告しなくては!

そんな正義感を押しつけるような,背中に感じる竜持の視線を背負って俺は景浦を呼び出した.



「シェリア,ちょっと竜持が呼んでるから戻ってやってくれ」

「わかった!じゃあ,景ちゃん先輩,またね!」

「またね,シェリアさん!」



手を振り合って分かれる2人,えー…どういうこと.

お兄ちゃんショック.



「景浦お前…ロリコンなのか?妹に色目使ってんじゃねーだろうな」

「僕は至って正常だよ.君達のシスコンっぷりに比べればね」

「それは否定しない!」

「うん,されても十二分に言い返せる自身があるさ」

「…まぁそれはいい.だが,シェリアにベタベタするのはやめろ!」

「どうして?」

「どうしてってそりゃ,シェリアは女の子なんだぞ!しかも中1の!」

「知ってるよ,でも,友人として過ごす時間にまで口を出されたくないな」



ちくしょう…コイツも弁が立つんだった.

やっぱここは竜持が行くべきだったんじゃねーかクソ!

俺じゃあ負ける…なんとか,なんとか本性を暴きだしてシェリアに幻滅させてやる.

……こいつだって,男だ.




「よくも抜けぬけと!なら,敢えて聞くけど…」

「なんだい?」

「どうだった,シェリアのおっぱいの感触は!」

「凰壮くん,僕はね,一度見たものや感じたものは決して忘れない」

「?」



どどんっと効果音の付きそうなくらいの笑顔.

こいつ…ここにきて,俺の挑発を無視するのか?

いやそもそも,なんで笑顔なんだよ.



「背中に当たったシェリアさんの胸の柔らかさ,そして触れ合った肌の滑らかさ…僕は決して忘れない!!」

「くっ…お前,開き直ったつもりか!?」

「あぁそうだね,シェリアさんにくっつかれて何も思わない男性はいないだろう.どう考えても,美味しいとしか思わないだろうね!僕だってそうだよ!!!」

「偉そうに言ってんじゃねーよこの変態野郎が!!!!」

「君は可哀想だ,シェリアさんのあの胸の柔らかさを一生体験することは出来ないだろう?」

「んなことねーよ!!」



開き直った景浦に,激昂する俺.

さぞかしシュールだっただろう,妹の胸について叫びあう俺達は.

ていうか,やっぱり景浦の奴,ロリコンじゃねーか!

シェリアと引き離して正解だったぜ.



「俺はな,この両手であの乳を触ったことがあるんだぜっ!」

「な,何っ!?」

「シェリアからだったけど,にゅっと手を伸ばされて,そのままぺちょっと触らされたんだ!」

「そ,そんなことあるわけ…」

「だったら,シェリアに聞いてみろよ!なぁそうだろ!?シェリア,お前この間俺に胸も揉ませたよな!!!」



ヒートアップしていった俺と景浦には周りなど見えていなかった.

声の大きくなる俺達の周りは,ギャラリーが増えている.

そして,俺はシェリアの姿を見かけて返事を求めた.

何に震えているのか,シェリアは俺に歩いて寄ってきた.

そして俺のパーカーを掴んで,キッと睨んだ.



「信じられないっ!凰壮兄,ばかじゃないの!最低最低最低!クズ「シェリア,そんな言葉は使っちゃ駄目だ!」クソ兄貴!」

「「えっ」」

「景ちゃん先輩も,見損なった!この変態「シェリアさん流石に規制しますよー」野郎!」

「「ええっ」」



顔を真っ赤にしたシェリアが,ありとあらゆる暴言を俺と景浦に投げつけた.

そりゃもう竜持と虎太が必死に規制するくらい.

一体どこであんな言葉をっていうかクソ兄貴って…へこむぞ.

景浦もプルプルしていた.





「もう知らない!!帰る!!!!!!」





そして帰ったシェリア.

なんでだよ,俺別に悪い事言ってないじゃん!

事実を述べて,意見を求めただけだろ?

胸触ったの事実だし?





「納得いかねぇ!」

「「どこが(ですか)!!」」

「だって俺…事実を言っただけだぞ!」

「最低ですよ凰壮くん.前回の事故をあんな大声で…」

「第一,景浦!お前も胸の感触を忘れないとかふざけんな!俺なんか触れたこともないんだぞ!!」

「いや虎太,それってただの嫉妬」

「うるさい」



それからしばらく,俺はシェリアに口をきくどころか,存在すら空気以下の扱いを受けた.

反抗期なのか?

妹に拒まれ続けるこの傷心の日々は辛い.




俺と景浦がバトッた末に両者共倒れした,そんな大学生1年目夏の出来事.





ていうか,竜持!

SDカードが濡れて壊れてたぞ!!!

おい!!!!

…泣いていいかな,俺.




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -