ノーマルライン06


※台詞括弧の前に!が付いている場合は,主人公が男子になっています.


なーんか,よく考えたら変な絵面よね.

うちと,シェリアちゃんと,竜持くん.

並んで歩いてるって,ちょっとおかしない?



「…エリカちゃん?」

「はっ」

「ぼーっとしてたよ?まだ悩み事解決してないの?」

「いや…それは…」



はうう,そんな目で見んといて!



「シェリアさん,エリカさんはどうにも恋の悩みらしいですよ」

「恋…って好きな人ができたの?」

「えっあっちょ…は?」

「落ち着いてくださいよエリカさん」

「アンタのせいやろ!なにさらっと暴露しとんねん!」

「…あ,もしかして,竜持くんが既に悩み相談受けちゃってるとか?」

「いやそれは「そうなんですよー昨日,捕まっちゃいましてね」…ちょっと」



なんでバラすんや,このアホ!

空気読めや,あんぽんたん!

勢いだけで睨み返す.

せやけど,怯む気配がないわ,竜持くん.



「…そっかぁ」

「でもまぁシェリアさん,僕も好きな人いるんですよ?知ってます?」

「え,あ,そうなの?」

「サラッと自分の事入れよった!コイツあざとい!」

「…」

「シェリアちゃんどないしてん!なんでそこ黙るん!?」

「僕の好きな人,聞きたいですか…それはあな「あ,ちょっとごめん」…え」

「シェリアちゃん!?」

「ごめん…すぐ戻るから行ってて」



徐に駆けだしたシェリアちゃん.

急に黙ったからビックリやわ.

なんなん,あ,トイレとか?

まぁ行ってしまったもんはしゃあないし,しぶしぶ竜持くんと教室に向かった.

行く間ずっと悪口の言い合いだったのは言うまでもないわな.








!「……高遠」

「えっ!?」

!「…ちょっと」

「何?ど,どないしてん…」



あれからシェリアちゃんは授業があるのに帰って来なかった.

今は昼休み,うちはご飯を済ませて席に付いた.

さっきメールしたんよ?

でも,先に食べててって返事あったから.



!「付いてきて」



シェリアちゃん,もといシェリアくんが教室に入ってきたときのあの空気.

女子全員硬直,男子すら見惚れるくらいの甘ったるいあの感じ.

そらそうや,イケメンなんやもん.

そして今,うちは何故か手を引かれて屋上にいる.

立ち入り禁止の看板は,無視した.




!「…高遠の,悩みってさ」

「え,あ,朝のアレ?いや,なんてことはないねんて…ほら,気の迷いみたいな」

!「…好きな奴,いるんだ?」

「いやあのその…おるけど,でもそれは…」

!「…むかつく」

「へ?」

!「…なぁ,それって降矢竜持?」

「はァ!?んなわけあらへん!天地がひっくり返って,仮に地球滅亡になったとしても有り得へんわ!」



シェリアくんは,壁際にうちを追いやってきた.

視角といえば視角,でもこれじゃあまるで.

少女マンガのワンシーン.

しかし,思わぬ問いかけに素っ頓狂な声を上げてしもうた.

いやまさかの竜持くんって…ないわ.



「ぜっっったいに,竜持くんはナイ!」

!「…じゃあ,誰?」

「シェリアちゃん,どないしてん.ね,ちょっと近いって」

!「言えない?」

「あの,別にそんな…ひぃっ」



声が,耳に当たってるんです.

もう心臓が止まる勢いなんやって.

アカン,いっそこのまま,言ってしまえば楽になるんやろか.



!「…悪い」

「え?」

!「…そんな顔させるつもりじゃない.急に,驚かせるようなことしたりしてごめん」

「いや,ええねん…でも,いきなりやったから吃驚したわ」

!「…朝,高遠が好きな奴がいるとか言うから」

「…シェリア,くん?」

!「彼氏でもないのにこんなの気持ち悪いかもしんねぇけど,妬いたよ」



…夢,なんかなァ.

うちの耳がおかしくなってしまったんか?



!「ごめん,嫌だよな.仲のいい友達で,男か女かも分からないような奴に,こんなこと言われて…気持ち悪い,よな」

「えええっなんでそうなるん!?」

!「え?」

「待って,あのな,シェリアくん.ひとつ,ハッキリさせたいことがあんねん」

!「何?」



ふとした,疑問.

こんな白昼に,こんな告白紛いのことが起きたこと自体が不思議やったけど.

夢なら夢でもええ.

せやけど,シェリアちゃん,いや,今はシェリアくんやな.

そこに問題があると思うんや.



「シェリアちゃんとシェリアくんは,別の人格なん?」

!「いや,同一人格,だけど…あ,そうか…今俺,高遠を混乱,させてる?」

「そらもう,わけがわからへん.だって,元々は女の子やんな?」

!「最初に言ったけど,俺はシェリアだよ.性別がどうであれ,記憶も人格もシェリアと一緒」



あ,と零すシェリアくんが,やっとうちから距離を置く.

今まで壁ドン状態だったせいか,少し開いた距離に安心した.

女の子の夢,しかもイケメンにされたとなっては,これは一生モンの思い出やろなぁ.



!「ただ,感情の振り幅が違う.持った記憶と存在する人格は一緒だけど,感性は性別に依存してる.意味,わかる?」

「うちの解釈…間違ってたら訂正してな?例えばや,女の時のシェリアちゃんに好きな男がおったとして,女の時も男の時も,それは好きに変わりはないってことやね?」

!「うん」

「せやけど,その好きの度合いは,女の時は恋愛感情とか愛情とかそういう感じやけど,男やったら友達,友情とかそういう好きに変わるってこと?」

!「平たく言えばそう.男の時に湧く感情と女の時に湧く感情は,一緒じゃない」



それを,分かっていても…今どう解釈してええんかわからへん.

認めていいのか,認めてはいけないのか.



!「だから,ごめん.女のときは,親友として高遠のことが好きだし,信頼してるんだ」

「…う,うん」

!「でも,今の俺は…」

「?」

!「俺は高遠のこと「エリカさんっちょっといいですか!」…降矢か」

「どぅええええこのタイミングとかホンマ空気読めやアホおおおお!」

「え,え,あー!貴方この間の親切な人!」

!「…ども,お久しぶり」



現れたエアクラッシャーを,ドつきたくなる.

いや,やらへんけどね.

…そら,シェリアくんの前やし.

あ,勿論シェリアちゃんの前でもやらへんけど.



「…お邪魔でした?」

「分かってて飛び込んだんとちゃうんか」

「流石に僕もドアの向こうを透視することなんて出来ないですよ!なんですか,こんなところで…いかがわしいですねっ」

「いや,いかがわしくないやろ」

!「…ごめん高遠,俺,そろそろ戻る.ごめんな…困らせてごめん」

「そんなシェリアくん,うちは全然…」

!「また,次はあれば,続きはその時に言う…かもな」

「なんですか,告白終わったんですか?」

「告白ちゃうわ!そもそも,このタイミングくらい黙らんかい!」

「…いやまぁ,すいませんって痛い痛い痛い!」



うちの頭を,ぽんっと叩いてイケメンが去っていく.

あぁ,去り際まで…ときめきを奪うんやな.

竜持くんの足をぐりぐりっと踏んで,後姿を見送った.

このアホには,痛いくらいが丁度ええやろ.



「あの,ところで今の誰ですか?」

「は?」

「うちの生徒…でしたっけ?見かけないですよね」

「せ,せやな」

「エリカさん,彼の事シェリアくんって言ってましたよ」

「…そ,そっか」

「彼も,シェリアっていうんですか?」

「…うん」

「…へぇ」



あぁ,どうかバレませんように.

揺らぐ秘密が,二人と行ったり来たり.

うちがシェリアくんを好きなことは,うちと竜持くんの秘密.

だけど,シェリアくんがシェリアちゃんだということは,うちとシェリアちゃんの秘密.

ちょっと,心が圧迫されてるみたいやわ.




「…馬鹿なことしてしもたわ」

「なんです?」

「なんでもない」

「ところでエリカさん.さっきの用事なんですけど,シェリアさん知りません?」

「…あ?」

「エリカさん?」

「知るかボケ!アホ!帰れ,この緑カッパ!」

「えええ,なんでそんなに罵られなきゃいけないんです!?」



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