おうちにようじょがやってきた 番外‐凰壮01‐


妹の,下着.

拾ったのは廊下で,可愛らしいドットのフリル付き.

始めはハンカチかなんかかと思って,持ち上げれば….

なんでこんなところに落ちてるんだ.



「あー…凰壮くん,駄目ですよ」

「お前いくら彼女いないからって妹は…」

「ちっげええええよ!!!なにそれどういう発想!お前ら相変わらずコワイ!」

「え,凰壮くんが盗ったんじゃないんですか」

「ちょ,おま…なんで盗る必要があるんだよ!拾ったんだよ!」



濡れ衣を着せてやらんとする魂胆がミエミエなんだよ!

俺は別に発情もしてないし,妹にそんな感情抱いたことないんだぞ!

コイツらは,俺がどんなに信じてくれって言っても聞かないし.



「普通さ,中学生の妹の下着を廊下で握り締めてる時点で怪しいだろ」

「まぁ…疑わしき行動をした凰壮くんが悪いんですからね」

「いや,疑う前に事情を聞けよ.…で,なんでここに落ちてたんだ?」

「さぁ」

「シラネ」



俺,本人に面と向かって返すのは流石に恥ずかしいんだけど.

でも持っておくのが,一番恥ずかしい気がする.

こういうときは母さんに届ける,のがいいのか.

あ,脱衣所に返しておこうか.



「あれれ?お兄ちゃんたち,私に用事?部屋の前で何してるの?」

「げ」

「帰ってきた」

「おかえりなさい,シェリアさん」

「ただいま〜.ン,どうしたの?それ,私の…」



シェリア,帰宅.

中学生になって,ぐんと背も伸びて,大人っぽくなったよな.

って,そんなこと感心してる場合じゃないな.



「断じて俺が盗ったわけじゃない!違うんだ!」

「まだ何も言ってナイってば,凰壮兄…」

「はっ」

「なんです,自爆ですか」

「おいおい,それじゃあ疑ってくれって言ってるようなもんだろ」

「違う!俺じゃない!」

「犯人は皆そう言うんですよ,ね,虎太くん」

「凰壮容疑者,取調べ室までご同行願おうか…」

「お前らなんでこんなときだけ連携すんだ!?ノリ良すぎだろ!」



両手を2人に捕まれて,俺は暴れた.

いや,盗ってねーから.

断じて,俺は犯人じゃない!

そもそも,これは事件じゃなく事故だろ!!!



「それ,私のお古だよ.破れちゃったんだ,ホックのところ」

「ほら見ろ俺無実!!」

「昨日気付いたの」

「「へー」」

「ほら,ここ.それに,もう入らないカラ,処分しようと思ってたの〜」

「なんで廊下に落ちてたんだ」

「朝,バタバタしちゃって洗濯物から零れちゃったのかな.わかんないけど,拾ってくれてアリガト」



ひょいっと俺の手から取られた下着は,シェリアの手の中に.

シェリアが全く疑ってなかったのか,あるいは俺を犯人だと思っていても許したのかはわからない.

なんでこんなことに巻き込まれたんだ俺.

そこで俺達は解散した.





「でも,シェリアって本当に無頓着だよな」

「え,何がですか」

「さっきの下着とかさ,男との接し方とか」

「ちょっとフランクなだけじゃないですか?」

「いや,あいつは警戒がないな.青砥のことに然り」

「青砥くんですか,それもはや虎太くんの嫉妬ですよね」

「うるさい」



シェリアは,人懐っこい.

そりゃもう,男女共に友人も多いだろう.

でも,彼氏とか,家族とか,ボーダーラインって曖昧な気がする.



「で,どうするんですか」

「どうもできないじゃん」

「注意喚起?」

「したって聞くわけないよなー」

「何が,聞くわけないの?」

「「「シェリア(さん)!」」」

「どうしたの,私の話?」



突如現れる妹に,なぜか畏まる俺達.

いや,そうナチュラルに会話に入ってこられるとなぁ.



「ねぇ,パパにお小遣いをアップしてもらう方法…何かいいのナイかなぁ」

「お小遣い足りないんですか?」

「何か欲しいものがあるのか?」

「ほら,さっきの下着とか.最近,背が伸びたりとかして,服とかがすぐ着れなくなっちゃって…」

「新しいのが欲しいのかよ?」

「いや,必要なだけで別に欲しいわけじゃないんだけど…ちんちくりんになっちゃうじゃない?」

「シェリアさん一気に背が伸びましたもんね,そりゃ袖も裾も合わなくなりますよ」

「ていうかお前,自分のお小遣いで服買ってんだな」

「学校でいるもの以外は,ちゃーんとお小遣いで賄ってるよ?お兄ちゃんたちは違うの?」

「あ,うん,俺らもそうだけど」

「父さんとか,普通に買ってあげるとか言いそうだからさ…頼めばいいんじゃ」



シェリアは,むすっと顔を膨らませた.

え,何なんで怒るの.

そりゃ女の子にとっちゃお洒落って大切かもしんねーけど.



「それじゃ間似合わないのよ」

「どんだけ成長してんだよ」

「そんなに太ったんですか」



虎太と竜持のお小言.

ここで留めておけば良かったのに,俺がトドメを指した.

後で後悔することになるなんて,知らずに.



「でもでも,私…」

「どーせ,女の見栄だろ.服とかアクセとか,めんどくせーよな」

「お,凰壮兄…!」

「うおっ」



俺の一言に怒ったシェリアが,俺の腕を掴む.

虎太も竜持もぎょっと驚いたが,そんなのは束の間.

押し宛てられて,俺の腕の先には柔らかいものがふたつ.

むにゅっとした.



「じゃあどうしろっていうのよ!これ!!!」

「「「!!?」」」

「私だってこんなになるなんて思ってなかったし,できれば前の服も着たいけど入らないのよ!!別に太ってもなければ,身長が伸びただけで困ってるわけじゃないもん!」

「わ,わかったから…俺の手を離せって!」

「「…」」

「虎太と竜持の顔が般若!コワイ!おいシェリア!」


わいわい言いあってる最中も,俺の手はシェリアの胸を鷲掴みさせられている.

押し宛てるように,たゆんたゆんっだ.

い,一応言っておくけど…俺の意思じゃないからな.

決して柔らかくて,やべえとか思ってないから.


「凰壮兄,Do you understand!?」

「わかったって!頼むから,俺死んじゃう!」

「…好きでこんなになったんじゃないもん」

「とりあえず俺の手を…」

「何よもう!!うるさい!!」

「いや黙ったらその瞬間俺は視線で射殺されるから!」

「乙女の悩みを理解しない凰壮兄のバカー!」



シェリアは,俺を解放して二階へと走っていった.

残された沈黙が,俺をはっとさせる.

後ろに感じる,レーザービームのような冷たい視線.

あ,俺これ死ぬわ.



「…お前,妹の胸を…」

「さぁ凰壮くん,どうやって死にたいですか」

「いやお前ら見てただろ,あれは事故…」

「最低だ!妹の胸をあんなに揉んで,不純だ!クズめ!」

「虎太の目どうなってんの!?俺がやったわけじゃないよな!?」

「…あぁ,やっぱりあの時息の根を止めておくべきでした.シェリアさんを泣かし,あまつさえ胸を触った罪は重いですよ」

「あの時って何時ぅうう!?何,俺なんで裁かれるの!おかしい!お前らおかしいって!」

「「覚悟!!!」」

「うわああああああ!!!」




毎度毎度,どうして俺ばっかりがこんな目に遭うんだろう.

三男だからか?

ちょっとオイシイ思いをしてるからか?

いや,どっちでもいいけど,酷いと思わないか!?




「…凰壮くん,しばらくシェリアさんに近づかないでくださいね」

「青砥よりもお前が恐ろしいよ,俺は.頼むから,妹にだけは手を出さないでくれ」

「なんで100%俺が悪者になってんだよ!」

「100%どころじゃないだろ,1000,いやどうやったってお前が悪いだろ!」

「お前は一体何を見てたんだ!シェリアの乳ばっか見てたのか馬鹿!」

「みみみ,見てない!俺はその,ちょっと大きいなって」

「揃いも揃って何を言ってるんですか!虎太君まで,最低ですよ!!」

「とかいう竜持も,シェリアの乳サイズとかどーせ把握してんだろ!」

「なんで知ってちゃ悪いんですか!」

「「開き直るな馬鹿!!」」



ギャーギャー騒いだ俺達に,ドアから覗いたシェリア.

そして,一言.

聞えるように呟いていく.



「さ,最低!お兄ちゃんたち…嫌い,ちょっと言いすぎたと思って,戻ってきたのに…」

「あ,いやシェリア…これはちが」

「誤解だ!」

「シェリアさん,ちょっと待ってくださ…」

「パパァアアアア!お兄ちゃんたちがねー,私のこと」



あァ,なんて日だろうか.

今晩は,3人揃って父さんからお説教かな.





何年経っても不運な幸運に巻き込まれる,そんな俺の大学生1年目春の出来事.



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