おうちにようじょがやってきた04
シェリアは俺といるときは大人しい.
竜持や凰壮といると,あんなにはしゃぐのに.
どうやら俺は,未だに懐かれていない可能性がある.
「シェリア,腹減ってるか?」
「だいじょうぶデス」
「そうか」
今日は不遇なことに,俺しかいない.
とはいえ,竜持は昼に帰ってくるし,凰壮は図書館だからそこまで遅くはないと思うんだがな.
それまでの間,シェリアを見ているのは俺だけだ.
俺は雑誌をめくって,部屋に転がっている.
「…タイガー」
「ん?」
「クレヨン,とってほしいのデス」
服の裾を引っ張られて,シェリアの指した方向にはシェリアよりも少し高い棚.
届かない,そう言いたいのか.
そんなに申し訳なさそうにしなくとも,俺は別に怒ったりしないのに.
「ん」
「あ,アリガトウ」
「描く紙はあるのか?」
「ドラゴンくれたノート,あるデス」
「ならいい」
クレヨンを取ってシェリアに渡すと,俺はまた寝転がって雑誌に視線を戻した.
前にも同じことがあって,その時はシェリアは俺を頼らずに,椅子に登って自分で取っていた.
だが,それを見た竜持が大層怒って俺に酷く言うもんだから,シェリアが気を遣って俺を頼る.
―「支えもなしに椅子に登って怪我したらどうするんですか!虎太くん,彼女と一緒の時は責任を持ってちゃんとシェリアさんを助けてあげてくださいよ」
なんでこんな子供に,気を遣わせてるんだ俺は.
「タイガー,ほんよむのたのしくナイ?」
「は?」
「おでこのトコ,む〜ってなってるデス」
「あ」
気付けば随分難しい顔をしていたようだった.
心配そうなシェリアが俺を覗き込む.
「…ちょっと考え事をしてた」
「ドコモ,いたくナイ?」
「あぁ,大丈夫だ」
「それならよかったデス!シックなときは,ムリする,ダメ!」
…シェリアが笑った.
思えば,初日以外に笑った顔を見てない.
ぽんぽんっと頭に手を乗せて,軽くお礼を言った.
こういうときに,あいつらならもっと良い事を言えるんだろうな.
「ただいま帰りましたよ,虎太くん,シェリアさん」
「駅でちょうど竜持と一緒になってさ,俺も一緒に帰ったぜー」
「オカエルナスデスー!!!ドラゴン!バード!」
「それを言うならおかえりなさいだろ」
二人の帰宅に,シェリアは意味不明な挨拶を返して嬉しそうに駆け寄っていく.
俺の時とは大違いだ.
「ほら,これ…ヘアピン.高遠に貰った」
「So Cute!」
「つけてやるよ」
凰壮が,ポケットから新品のペアピンを取り出した.
シェリアはすごく嬉しそうだ.
「何色にする?」
「Yellow!タイガーといっしょ!」
「へぇ…虎太くん,随分懐かれてますね」
「ナツカレテマスネー!」
黄色のヘアピンを持ったシェリアが竜持の後に付いて,復唱する.
いやいや,懐かれてるのはお前達だろ.
えっ,そもそも,なんで,俺と同じ色…?
「良かったですね,虎太くん」
「なんで黄色なんだ.竜持や凰壮とお揃いの方が嬉しいんじゃないのか」
「No!タイガーのカラーがいいのデス!ベリーベリーストロング!」
「は?」
間の抜けた声が出た.
ため息を吐いた二人が,俺とシェリアと見て笑いをこらえている.
全く理解できないんだが.
「ホントシェリアは力関係よくわかってるよな…」
「同感です」
「は?どういうことなんだ?俺にもわかるように言ってくれ」
―その子供,幼くして長いモノを巻く―
「ったく,俺らには容赦ないくせに,虎太には甘いんだよシェリアは」
「全くですよ,なんで虎太くんにはあんなにデレデレなんですかね」
「意味がわからないんだが」
「無自覚ならいいです」
「なんで気付かないんだ,一番頼られてるってのに」