おうちにようじょがやってきた 番外‐虎太03‐


小6になって,俺が最もショックを受けたこと.

それは妹に男の影が現れてしまったということだ.



「…なんということだ…俺の…シェリアに…ぁ…ぁああ」

「虎太ー帰ってこいー」

「…どうしてやりましょうねぇ,うちの可愛い可愛いシェリアさんにまとわり付く害虫駆除を…」

「おい竜持!物騒だぞ!」



大波乱を起したこの出来事のきっかけは,シェリアの携帯電話だ.

なんてことはない,その時ちょうどシェリアの手が放せなっただけで,たまたま電話に出ただけ.

出たのは凰壮だったが,相手が男だったため,結局俺と竜持も加わったのだが.



「あのなぁ,そもそも,男って言い方するなよ…知り合いじゃん」

「知り合いだからこそ許せないんですよ」

「シェリアが…うう…」

「別に付き合ってるわけじゃないだろ?いいじゃん」

「「良くはない!」ですよ!」

「さいですか…」



良いわけないだろう!

まだ,地球3周半の距離の歩幅くらい譲ってもだ.

それだけ譲歩しても,相手が許せない.

憎き,我がライバル,青砥.

アイツだからだ!!!



「なんで青砥なんだよ…」

「解せないですね」

「そうかぁ?アイツら昔から仲いいじゃん」

「シェリアはもう青砥とあんなことやこんなことしたのか…?」

「仮にもし,していたとしたら,まず間違いなく僕は青砥くんを街中引きずりまわして,磔にした挙句,野良犬の餌にすべく切り刻んで「竜持!」…冗談ですよ」



いや,竜持ならやりかねんだろう.

俺もそこまではいかないが,殴るくらいなら…していたかもしれない.

後日凰壮にそれを話したら,アレに比べれば殴るなんて可愛いもんだなと笑われてしまった.

可愛いか?



「青砥に会ってくる」

「「え」」

「…ちょうど,借りてたモンがあるから返しにいくだけだ」

「…一発ぐらいお見舞してきてもいいと思いますよ,いってらっしゃい」

「いや殴ったら駄目だからな!いってら,虎太」



なんやかんやで送り出すのか.








で,青砥の家に来てしまったわけだが.

靴に,見覚えのあるのがあるんだが.

可愛いミュールだよな,そうだよ,俺が選んだんだもんな.

可愛いはずだよ.

じゃなくて,なんでここにあるんだ.



「…何」

「コレ,返しにきた」

「あ,うん」



出迎えた青砥の,無愛想な顔.

おまけに,不機嫌もプラスされているのだろうか.



「ありがとな」

「別に」

「…シェリア,来てるのか」

「…」

「何で答えないんだ」

「来てるよ」



やっぱりいるんだな!

高校生という名の野獣でもある男の家に上がりこむなんて…!

危険だろう!



「…あのさ,別に俺が呼んだわけじゃないから.そんなに睨まれても困る」

「シェリアが押しかけたのか?」

「いや,そういうわけでもないんだけど,前から約束してたんだよ」

「約束?」

「…これ以上は俺とシェリアの問題だから別に話す義理ないよね?用が済んだなら帰れば」

「なっ!?か,帰らないぞ俺は!」

「いや,帰れよ」



わーわーと口論になった末,騒いでいたらシェリア登場.

顔をひょこっと出してこっちを見た.

そして気まずそうにまた引っ込んでいく.



「シェリア!」

「…虎太兄,なんでいるわけ」

「お前,泣いてるのか!青砥,貴様!」

「いやいやいや!濡れ衣だし!」

「じゃあなんで「うるさいんだけど!今いいとこなのにっ!!」…シェリア?」

「…はぁ,まぁいいや.とりあえず上がれば」



玄関でこれ以上騒ぐわけにもいかなくなって,青砥はしぶしぶ俺を上げた.

さっきのシェリア,泣いてたぞ.

まさか酷い事をされたんじゃないだろうな.

なんて考えながら,通された部屋.

巨大なテレビに,響く音響.




「うぅっ…ジョセフィーヌぅ…死んじゃやぁ…」

「…は,どういう…」

「映画だよ.シェリアと見る約束してたから,一緒に見てたんだけど」

「ジョセフィーヌ…」



いやジョセフィーヌってなんだ.

誰だよ,と思ってしばらく見ていたらどうにも鳥のことらしい.

なんだ鳥かよ,と呟いたらシェリアに怖い顔で睨まれた.

そして青砥に鼻で笑われた.



「…はぁ,感動したぁ…流石全米を泣かせただけある…名作…」

「とりあえず,俺にわかるように説明してくれ青砥」

「なんで俺」

「シェリアに聞くより絶対分かりやすい」

「…さっきも言ったけど,シェリアと映画見る約束したんだけどさ,予定が合わなくて映画館で見れなくなったから,DVD借りて見ることにしたんだ.それだけ」

「だったらうちでもいいじゃないか」

「だって!うちで見ても,誰も英語わかんないし,お兄ちゃん達は絶対作り話だとか,こういうのは有り得ないとか言ってくるもん!」

「う…それは…」

「だからシェリアが俺に頼んで,一緒に見ようってことになったわけ.誰かさんと違って,俺は吹き替えも字幕もなしで英語わかるし」



うぬぬ,言い返せないだけに俺はもにょった.

いや,英語はちんぷんかんぷんなんだ.

わからないとかそういう問題じゃないけど,俺達三つ子は感動名作とかにはよくケチをつけてたしな.

シェリアの言ってることもわからなくはない.



「というわけで,今回はお咎めナシにしてあげなよ」

「お前に言われる筋合いは「虎太兄がでしゃばって怒るとこでもナイでしょ!」…」



御尤もだ.

確かに俺が叱るのもおかしいが,妹が男の家に転がり込んでるんだぞ.

しかも自分のライバル的存在のところに.

黙ってられるわけがない.

が,シェリアによって黙らされたので,しぶしぶ引き下がった.



「見終わったなら,帰るぞシェリア」

「はぁい」

「妹が世話になったな」

「気にしないでいいよ.ずっといい子にしてたから」

「そうか」

「また今度ね,琢馬兄!」

「うん,またおいでよ.暇な時にでも連絡して」

「All Right!Good Bye!」

「Bye」



俺に宛てつけたような英語で挨拶を交わして,帰路.

ヤキモチでもないが,俺はシェリアにお小言を漏らした.



「シェリア」

「何?」

「あのさ,お前も女の子なんだから…もっとこう,自分を大切にしろよ」

「どういうコト?」

「相手は仮にも男なんだ.青砥だから安心はしてるが,襲われても文句言えないぞ」

「心配?」

「心配だ」

「…気を付けるヨ」

「お前は天然に可愛さを備えた最強の妹だから,青砥でも気を付けろよ」

「はいはい」

「なんだその軽い返事」



シェリアは,あしらうように返事をした.

むすっとしてたら,クスクスと笑う声.

先を歩くシェリアが俺を見て笑っている.



「これじゃあ私,お嫁さんにもいけないね」

「い,行かせない!」

「えー…」

「お,お前が幸せになれる相手じゃないと俺は認めないぞ」

「はいはい,じゃあそれまでは,しっかり守ってね」

「…おう」

「しっかりしてよー虎太兄ってば…」



きゃっきゃとじゃれ合っていれば,心も静まってくる.

不思議だよな,この妹って存在は.

男の影なんて結局はどうでも良くて,俺はシェリアが楽しければそれいいのかもしれない.

…別に青砥のことを認めたわけじゃないけどな.

これだけはハッキリしておくが,俺は青砥が嫌いだからな.

断じてシェリアとの交際は認めないつもりだぞ.





今日を通して,どこまでも妹が手放せないシスコンだと自覚させられた高3の出来事.













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