ノーマルライン02
※台詞括弧の前に!が付いている場合は,主人公が男子になっています.
「あ,あわわ…誰!?ええ!?」
!「エリカちゃん」
「ひゃうぅっ」
ど,どういうことなん?
うち,シェリアちゃんと一緒にお泊り会やって,楽しく過ごしてたんやけど.
それであんまりにもシェリアちゃんが可愛いから,軽くキスした.
すると,どういうこっちゃ.
可愛らしい彼女はそこにおらへん.
!「あ,悪い.あのさ,とりあえず落ち着いてくれないか?」
「はっ!…あ,あの,自分,どちらさん?」
!「俺は…シェリア」
「シェリア…って,んなわけあるかい!どっから入ってきたんや!そしてシェリアちゃんはどないしてん!」
!「だから,俺がシェリアなんだよ.…一先ず話を聞いてくれないか?」
低音ボイスに,整った顔,まさに美少年と言う容貌や.
ちょっとタイプなだけに,ドキッとしてまうやん?
!「ずっと隠してきたんだけど,俺は特殊な体質を持ってるんだ.見てわかる通り,さっきまでは女だったけど,ある行動をすると男になる」
「…は?」
!「キスすると,性別が入れ替わるんだ」
「んな馬鹿な…!有り得へんやろ」
!「なら,もう一回キスしてみな.分かるから」
「何言ってんねん!ちょっとイケメンでタイプな顔してるからって,流石にアカンわ!」
いやいやいや,できるわけないやろ!
うちが,嫌だ嫌だとごねとったら,目の前のイケメンはうちの後頭部を押さえた.
そして,触れるだけのキスをされる.
ええええ!?
「!!!?」
「…ね,分かったでしょ?」
軽い混乱を起した頭は,目の前の事実を受け入れることができひん.
確かに,シェリアちゃんがそこのおる.
うちの目の前で,さっきのイケメンが,シェリアちゃんになったんや.
有り得えへんと分かってても,実際に目撃してしまった以上,有り得ることになってしもた.
「…ごめんなさい,できれば,ずっと隠してたかったの」
「…え?あの,特殊な体質ってことは…生まれつき?」
「うん.だから,私,自分が生まれた時の本当の性別がわからないの.両親や祖父母がキスしまくったみたいで,誰もわかんなくて」
「…マジなん」
「マジ,だよ」
シェリアちゃんがうつむいて,そう言うから,信じざるを得ないっちゅーか.
いや,うちも親友を疑いとうないし,第一自分の目で見てしもうたし.
「自分でも本当の性別がわからへんの?」
「うん….で,でもね!女の子の時と男の子の時の感性が全然違うの.だから,誤解されるような事実は全くないよ!」
「せやったら,前の学校でもこういうことがあったん?」
「…私,1年置きに学校変わってるの.性別を入れ替えて」
「…ごめん,ようわからへんわ.どういうこと?」
「前の学校では,男の子として学校に通ってて,その前の学校では女の子だったの.転校するたびに,男女を入れ替えて,私の体質がばれないように頑張ってたんだけど…まさか,こんなところで,ばれるなんて」
悲鳴染みたシェリアちゃんの声は,こっちがもらい泣きしそうになるわ.
いや,可憐な少女やねん.
泣かれたらこっちも心が痛いんやけど.
「…ごめんなさい,ごめんね,引くよね…」
「いやいやいや!ちょ,ちょっと驚いたけど…事情があるやん?ほら,うちは気にしてへんよ」
めっちゃ気にしてるわ!
事実,シェリアちゃんともキスしたけど,あのイケメンとキスしたんやで!
意識せんわけないやろ!
「でも…」
「うちが黙ってれば,これからも学校におれるんやろ?うちが軽はずみにキスしたりしたからこんなことになってしもて,ホンマごめんな」
「エリカちゃんは,悪くないよ…私こそ…」
あ,駄目や…こういう女の子なんや.
自分を責めてまうから,下手な態度はアカンねんな.
深呼吸深呼吸,うちも落ち着いて会話をリードせな….
「よし,じゃあおあいこやで.んで,うちらはこれからも親友や!シェリアちゃんの性別なんか関係あらへん!せやろ!」
「ありがとぅう…エリカちゃ〜ん…うぇぇん」
あー…可愛いなぁ,ホンマに可愛いから,どうしよ.
うちかてな,衝撃的なことすぎて驚きはあるよ?
でも,シェリアちゃんが悪いわけやないやん.
「それにしても,さっきは見事に性別変わるから…ビックリしてん.家族は何て言うてんの?」
「両親は,とってもよくしてくれるの.私がどっちでも生きていけるようにって,両方の性別を受け入れてくれて」
「なんでそうなったのかは,わからへんねんな?」
「医者が匙投げちゃったから,原因も,勿論治す方法もわからない.ひとつの性別でいようと思ったら,キスしなければいいんだけど」
「…そんなしょっちゅうキスしててん?」
「住民登録とかの関係で,性別は一応女で登録してあるから…学校とかと上手く切り替えてるの.だけど,別に誰かとキスするわけじゃなくて,鏡に写った自分とでも性別変わるから…」
そりゃ,この世には性別をハッキリせんとアカンもんがたくさんあるな.
普通じゃないっていうのは,誰もが憧れることであっても,本人は辛そうやで….
って,シェリアちゃんを見てて思ったわ.
「へー…鏡か.鏡でもええんや」
「そう,だから,必要なときは自分で変えてるけど,今日みたいなアクシデントは…初めてで,ごめんなさい」
「もう謝らんでええって」
この話題は,触れない方がええのかな?
とりあえず,時計を見ればもう日付けが変わりそうやったから,うちは適当に言葉を並べた.
「ほら,もう12時になるわ!明日学校やからもう寝よう」
「え,あ,うん」
「起きてからでも十分時間あるんやし,続きは明日!」
せやないと,うちの頭がパンクしてしまいそうやったから.
…お互いに,落ち着く必要がある.
適当な理由を付けて,電気を消した.
明日,うち,ちゃんとシェリアちゃんに接することできるやろか.
「ほなシェリアちゃん,おやすみ」
「おやすみ,エリカちゃん」
いや,シェリアちゃんは,シェリアちゃんやもん.
きっと,大丈夫.
だって,こんなことがあっても,シェリアちゃんと築いた信頼と友情は,確かなものだと確信があるねん.
そう思ったうちは,考えることを放棄して,目を閉じた.