アンハッピーコンデンサ29


シェリアと,連絡が繋がらない.

6時間前には繋がっていた携帯が,今は不通になっていた.

電源が入ってない可能性がある.



「…虎太,落ち着けよ」

「わかってる.でも,なんで…」



朝6時に学校前に集合.

その言葉どおりに俺達三つ子は校門の前に立っている.

しかし,定刻を過ぎてもシェリアは来なかった.

募る不安,過るのは嫌な妄想ばかりだ.



「…っ,俺,シェリアの家に行ってみる」

「…そうですね,なら僕と凰壮くんはここで待ってみます.入れ違いになっても困りますから」

「頼んだ」



俺は,シェリアの家の方向に向かって走り出す.

無事でいてくれればいいのだが,どうにも心に余裕がない.

不安しか生まれてこないのだ.

情けなくも,何もできない自分が歯痒くてたまらなかった.



「…っち」



ふと気付けば,もう少しでシェリアの家についてしまうところまで来ていた.

でも,俺はシェリアに出会ってない.

学校にいる竜持に連絡したが,まだシェリアは来ていないと言う.

…じゃあ,シェリアはどこに?

まさか,俺達に相談もないまま1人で行動をしているのか?



「…どこに,いるんだよあの馬鹿」



だぁんと,壁を殴れば手に痛みがじんじんと伝わる.

だけど,それを痛がってる場合でもないのだ.

シェリアに連絡しても,繋がらない.

俺は,とりあえず来た道を帰ることにした.


「…これは…まさか,な」


少し細くなった,曲がり角.

本来なら学校に行く道ではないそこに,ふと視線がいった.

落ちているのは見覚えのある手袋.

シェリアの付けていた,薄紫のボーダー柄に似ている.

でも,これがシェリアのだという確証はない.



「…この先は確か」



街外れに,繋がっている.

あの辺りは,今や廃れた場所で人の多いところじゃない.

俺の中に多くの疑問が残った.

こういうときは,ひとつより多くの知恵を使うべき…だと分かっているのに,俺は何故かそのまま細い道を1人で歩き始めた.





*****


「シェリア来ねぇなぁ」

「凰壮くん,虎太くんに連絡してみてくださいよ」

「ん,ちょっと待てよ?…あり?」

「どうしたんですか」

「虎太も繋がらないんだけど」

「え?」

「いや…電源入ってないか圏外です…って」

「この地域にそもそも電波の悪い場所がありましたっけ」


*****





「…なんだここ,圏外?」


迷い込んだその場所は,廃屋の多い工業地.

工場に倉庫に,テレビでやってる犯罪臭がしてきそうな場所.

シェリアは,ここにいるんだろうか?


「…っても,1人で来るような場所じゃねぇよな」


シェリアなら,そんな無謀はしないと思う.

だから,逆に怖い.

シェリアに何かあったんじゃないのか,そういう考えに行きついてしまうから.

だいぶ日が昇ってうすく,靄のような白さが辺りを包む.




「ちょっと戻って,あいつらに連絡いれとくか…」



少し冷静になるべきだな….

確か,この細い路地を俺は歩いてきた.

携帯の画面を見ながら,電波を確認する.

道を半分…いや,3分の2くらい戻ったところだろうか.

不意に鳴った携帯.

着信:シェリアの文字に俺は素早く反応し,電話に出た.





『…虎太くん…?』

「シェリアか!今何処にいるんだ!!」

『よく…らない…の……らへん…で…』

「何て?もう一回言ってくれ」

『…で,…の工場……突然,知ら…に……れて,今…ないの』

「シェリア?」

『…で,だめよ…あ,…切るね…みつかっ……きゃあああああああああああ!』

「シェリア!シェリア!!!」



プツリ,シェリアの悲鳴が聞えて,途切れた電話.

電波の悪さのせいか,ほとんどシェリアの言葉はわからなかった.

せいぜい分かったのは,工場.

この辺の工場,虱潰しに当たる他ないってことかよ.

俺は,地面を強く蹴りながら路地をひたすら走った.






タイムリミットまで,あと10時間.






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