アンハッピーコンデンサ26
竜持のおかげで,プログラムの読み解きは随分楽になった.
そして,コンデンサを溜めるのも1人より2人,2人より3人の方が多く溜ってくれる.
希望を掴んでいたも同然だ.
俺はそう錯覚していた.
「虎太くん」
「どうしたんだ?」
「…ううん,やっぱりなんでもない」
ちょっとだけ,声の小さいシェリア.
何か言いにくいことでもあったんだろうか.
ここは根気だ,そう思って問いかける.
「言いにくい事か?」
「ち,違うよ?そうじゃなくて,ちょっと…自分でもどうかしちゃってたんだと思う.とんでもないこと,言おうとしてたから」
「どんでもないこと?なんだ?」
「シェリアが言うとんでもないことなんて,どうせ甘っちょろいことだろ」
凰壮も混じって,シェリアは益々言葉を濁した.
「コンデンサを使った時に思ったんだけど…」
「おう」
「私はあの時,凰壮くんが不良のうちの1人の名前を呼んだから,使用する相手の名前がわかっているっていう条件をクリアして,それでその人に20%使えたんだよね」
「そうなるな」
「俺,相手の名前口走ってたのか?覚えてねーなぁ」
「でも,実際に使用できたってことはそうなんだろう」
「だから,明後日…私が会う人に,なんとか名前を聞きだして100%使ったら駄目かなぁって」
「「は!?」」
「あくまでカマをかけてみるっていうか…その,100%使うって相手に言えば,対応でその人が犯人かどうかわかるかもしれないと思って…ごめんね,なんでもないの.駄目だよね,人に向かってコンデンサ使おうだなんて…」
「いや,悪くねぇと思うぜ.どっちに転んでも俺達に損はないだろ」
「損得で考えるなよ.もし相手が逆上でもしてみろ,シェリアの身が危ないかもしれないんだぞ」
「俺達が付いて行けばいいじゃん」
「それが,駄目なの.指定場所には,私1人で来いって」
「それこそ危ないだろ」
「でも,ルールを守らないと何が起こるかわからないよ」
「…だったら,どうすんだよ!」
凰壮の言う事は最も.
シェリアを1人にするのが,俺は怖い.
また,不幸な目にあうんじゃなかと思うと,気が気でなかった.
「私なら平気だよ…いざとなれば,逃げちゃうから…」
「お前トロそうだから無駄な抵抗はしないほうがいいと思うぞ」
「素直に死ねって!?」
「ちげぇよ!そういうときは,会話で繋いで…なんとか生き残る方法を…」
「もし相手が問答無用って感じなら,私死ぬんじゃ…」
「それは逃げろよ!」
「凰壮くん…めちゃくちゃだよっ…どうしろっていうの!」
シェリアと凰壮の会話がどうにも噛みあってない.
おかしいのと反面,何か対策を練る算段をしていた.
どうあがいても,死以外の選択肢を選ぶ判断力が欠かせないだろう.
「あ,皆さんちょうどいいところに.興味深い事がわかりましたよ」
「竜持くん!」
「やっと全部終わりましたよ,なかなか複雑なことしてくれてました」
「で?何がわかったって?」
ファイルを片手に,竜持は俺達を探していたみたいだ.
確認してみればメールが着ていて,全くそれには気付かなかった.
悪い事したな….
「犯人はおそらく,単独だろうということが分かりました…」
「えっ」
「マジかよ!」
「プログラムの別ファイルに,隠しURLがありました.そして,そのページはパスワードが掛かっていましたが,以前シェリアさんに教えたあの掲示板と同じパスワードで開いたんです」
「それって…」
「あの掲示板を利用している人の中に,犯人がいると思われます.被害者のフリをした,狐が一匹紛れこんでるんですよ」
「「「!」」」
竜持は,ファイルを開いて俺達に見せた.
チャットの記録,会話,ログイン履歴が書かれている.
「…この中に犯人が,いる?」
「えぇ.ですが,まだその特定には至れません.現状ではこれが精一杯でして…これ以上調べようとなると,もう少し時間を頂かないと無理です」
「じゅっっぶんだぜ!すげえええ竜持,すげえな!」
「どうやって調べたんだ」
「どうもこうも,犯人のミスですよ.プログラムが,複数のファイルに分けてあったからしらみつぶしに開いていっただけです」
「まだ他のファイルがあったのか」
「…ま,程度の知れてるプログラムですからね,作った人はそんなに賢くないですよ.第一,1ヶ月もアプリのアップデートがないところを見ると,ミスにも気付いてないんでしょうから」
「う,上には上がいるもんだな」
「竜持くん,すごいねぇ…」
「全くだ」
一気に手繰り寄せたヒントは,竜持の大手柄だ.
犯人の情報は俺達を核心に近づけた.
褒められたことに少し嬉しそうな竜持は,鼻高々に語っている.
「なら,接触するってのは犯人で決まりだな」
「カマかけるなんて危ない真似しなくて済みそうだ」
「とはいえ,油断は禁物ですよ.シェリアさん,しっかり正気を保ってくださいね」
「自信ないなぁ…」
「大丈夫だ,俺がいる.それに,こいつらも」
「虎太くん…」
「だから,肩の力を抜いてしっかり目を動かせ.耳を澄ませ.なんでもいい,考える事をやめるな」
「うんっ!」
柄にもなく,熱いエールを送ってしまったが,シェリアに勇気を送れたならそれでいい.
凰壮と竜持が冷やかしてはいるが,そんなのは蚊帳の外だ.
もはや,恥ずかしいとか,照れくさいという感情はどこかへ消えてしまっている.
その度に俺はコイツのことが好きなんだなと,何度も何度も自覚する.
「お熱いなァ…ったく…シェリア,残り何%だ?」
「えっと,今は96%だから…あと4%だよ」
「おや,随分頑張ったんですね」
「そりゃあな!校長をちょちょっと動かせばあっという間だよ」
「…っても,やったのはシェリアであって凰壮じゃないが」
「うっせーな!虎太は一言多いんだよ!」
「はいはい」
「もう,けんかしちゃ駄目だよ」
「いいんですよシェリアさん,放っておきましょう」
まさか4人で笑い合える日がくるなんて.
この時の幸せは,一生の宝だろう.
同じ志を持って,戦う同士となった俺達に,もう怖いものなんてない.
全部が終わったらまたこうして4人で笑おう.
必ず,生き残る運命を掴んで.
タイムリミットまで,あと2日.