おうちにようじょがやってきた 番外‐虎太02‐


俺は,部活に打ち込む日々を送っていた.

朝は早いし,帰りは遅いし,シェリアとすれ違う生活だ.

前と違うのは,シェリアは小学4年生になって,だいぶ大きくなったことくらいか.


「虎太兄っ!お弁当忘れてるよ」

「あ」

「もう,せっかくママが作ってくれたんだから忘れないでよね」

「そうだな.うっかりしてた」


最近は家事の手伝いを始めたらしく,自慢気に竜持が語ってくる.

言っておくが,シェリアはそういうのを自分から喋らないぞ?

あくまで竜持がべた褒めして,いろんなところに話しているそうだ.

あいつ,相当のシスコンだからな.







そんな俺にも,妹が鬱陶しい時期がやってきてしまったのだ.

今思えば,俺は何て非道な兄だろう.

健気で可愛らしい妹を邪険に思ってしまうなんて!


「虎太兄,制服皺になるからハンガーに掛けなきゃダメだよ」


些細な事なのだが,面倒でしょうがなかった.

ちょっと小言を貰うことに嫌気が指してしまったのだ.

シェリアの言うことが最もなだけに,反論はできないのだが.



「…わかったよ」

「あと,洗濯物は早めに出さないと.サッカーの泥,落ちにくいってママが言ってたカラ…」

「あぁ」

「凰壮兄がお風呂上がったら,次虎太兄だから絶対洗濯物持って降りてよ?」

「わかったって」

「それとね…「もういいだろ!あっちいけよ!」ぁ…ご,ごめんなさい」

「ちょっと虎太くん!シェリアさんに何怒ってるんですか!」

「っち…」

「ご,ごめんね…!」



シェリアは謝った後,バタバタと走り出して自分の部屋に戻っていった.

声を荒立ててしまえば,俺に味方なんていない.

竜持が目くじらを立てて,俺を叱る.

うちは基本的に,シェリアにだけ甘いからな.



「あのですね,虎太くん…シェリアさんが悪いならともかく,機嫌が悪いのを八つ当たりしないでください」

「うるせぇ.なんでお前にそんなこと言われないといけないんだよ」

「そらそうやってまた,…言葉にするならもっと言い方があるでしょう」



まぁ俺が悪いのは百も承知だけど,素直になれないもんなのだ.

幼いシェリアは,よくわからなかったから何でも喋れたのに.

今や素直に謝ることさえも,難しい.






「…ぁ!」

「…」

「お,オハヨ…」

「…あぁ」


朝,気まずそうに遭遇するも何も言えず.



「ただいま」

「…ぁ,おかえり…」

「なんだよ」

「なんでもナイ!ごめん!」



夕方,出会うも逃げられる.



「…」

「…」

「シェリアさんの作ったハンバーグ美味しいですね」

「ありがと」

「…虎太,今度地区大会出るんだろ?」

「おう」

「へぇ,やるじゃないですか,ねぇ,シェリアさん?」

「…そだね」

「…いや,ホントこのハンバーグうめぇな!虎太もそう思うだろ?」

「…まぁ」

「「「「…」」」」



夕食,竜持と凰壮のフォロー虚しく撃沈.

とにかく気まずいってもんじゃない.

でも,あれから1日経ったのにそんなに引きずるなんて….




「…なぁ虎太,いい加減仲直りしろよ.俺まで気まずいんだけど」

「そう言われても…」

「第一なぁ,お前がちゃんとしてないからシェリアが気を利かせてくれてるのに…これだからサッカー馬鹿は…」

「おい」

「いいか?これ以上溝が深くなる前にさっさと謝ってしまえ!じゃなきゃ,俺は是が非でもシェリアの味方してシェリアの代わりにお前にずっと小言を言い続けるからな」


凰壮も相当参っていたようで,怒られた.

早く謝らないと,どんどん険悪になっていく.

それは分かっているのに….



「あっ」

「…シェリア」

「ご,ごめん…お兄ちゃんたちの洗濯物,箪笥に入れたらすぐ出てく…」

「いや,ゆっくりでいい,から.というか,ちょっと話が…」

「…え?」



風呂上りに,シェリアが俺達の部屋にいた.

3人分の大量の洗濯物を畳んでは,箪笥の引き出しに仕舞っている.

ちょうど,竜持と凰壮はいない.

今しかないと思って,俺は話を切り出した.



「その…この前は…「ごめんなさいっ」…は?」



俺が謝る前に,何故だか深々と頭を下げるシェリア.

いや,なんでお前が謝るんだよ.



「私,いっぱい虎太兄に言ったから…キライになったのかなって.謝りたかったケド,虎太兄ずっと怒ってて言えなくて…もうこんな妹イラナイって思われてたらどうしようって…ふぇっひぐっ」

「なな泣くな!!!」

「だ,だってぇ…こたにいが,あんなに怒ったの,はじめてで,こわかったし…イヤになられたと,思って…」

「思ってない!それは断じてない!!!」



この状況,俺は動揺と危機感に襲われていた.

前者はどうしていいかわからないせいで,後者は竜持と凰壮が戻ってきたら俺がミンチにされるんじゃないかという恐怖.

シェリアが泣くと,うちでは緊急事態と同様に扱われ,総動員で行動を起こす.

以前,ゴキブリ事件という大きな事件があってだな,その時はもう大変で…あ,これはまたの機会にでも話そう.




「俺の方こそ,すまなかった」

「!」

「ちょっとだけ虫の居所が悪くてさ,お前に八つ当たりして…本当にごめん」

「…キライになってないの?」

「当たり前だろ…!」

「こ,虎太兄っ」

「どわああ」



飛びついたシェリアを受け止めきれずに,俺はベッドになだれ込んだ.

せっかく畳んだ洗濯物も,ぐしゃっとなってしまっている.

だけど,そんなことはどうでもよかった.



「虎太兄のばかっ!すごい,こわかったんだからね…うぇぇえん」

「馬鹿はお前もだ」

「ふぎゃっ」



覆いかぶさったシェリアを反対に,下にして俺は抱き締める.

バタバタ暴れながらも,シェリアは俺の首から手を離そうとはしなかった.



「お前が俺のこと嫌になったって,俺は絶対に嫌いになんかならねーよ」

「うそついたら,ハリ千本のます」

「千本でも万本でも飲んでやるよ」



ベッドで抱き締めあったまま,じゃれ合ううちに,お互いに笑みがこぼれた.

そして,俺達は無事に仲直りしたのだ.




「虎太お前…何やって…」

「お,凰壮!」

「お前…俺に散々シスコンロリコンとか言いながら,自分も妹に手ぇ出してんじゃねえか!」


廊下から俺達を見た凰壮が,明らかに勘違いをしたようだった.

まぁ無理もない.

どうみても,俺が押し倒してるように見えるだろう.


「いやちが…これにはわけが」

「凰壮兄,ウラヤマシーでしょ?私と虎太兄,らっぶらぶなのよ」

「シェリア!」

「…ったく,これひとつ貸しな.竜持には黙っといてやるから,俺も混ぜろっ」

「わあああっ」

「ぐえっ!重いよ,凰壮兄!」


俺とシェリアに乱入するようにとびかかった凰壮.

そしてまたきゃっきゃっと騒ぐ.

なんだこれ,まるで猫みたいだな.




「…何やってるんですか」



そして騒ぎすぎて俺達は案の定,怒られた.






これは,やっぱりまだまだ兄失格だなと実感してしまった,高1の出来事.





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