アンハッピーコンデンサ22


やっと手に入れた手掛り.

手に入ったはいいものの,活用方法を未だに見出せて居ない.

活用方法っていうか,素直に言えばこのプログラム全部読むこと.

これ,結構しんどいぞ.



「目が疲れる…」

「ドライアイには注意だよ」

「目薬持ってきてるから平気だ」

「用意がいいね」



プログラムに注釈があるとはいえ,その内容は優しくなかった.

○○の定理を用いて演算,××の法則より変数の値を変化させる,もはや未知のレベルだ.

数学?物理?何がなんだかわからない.


「虎太くん,これをもっと分かりやすく自分達で書きかえていかない?なんちゃらの定理とかは無視してさ」

「賛成.このままひとつひとつ調べてても埒が明かない」


紙にまとめながら,プログラムを読み解いていく.

噛み砕いて噛み砕いて,それでも分からないものは検索エンジンを頼って.

コピー用紙びっしりに書いて,やっと1枚.

まだ先は長い.



「…お?」

「どうしたの?」

「ここ,ちょっと重要そうじゃないか?」



見つけた一文を指した.

プログラムのコメントを掻い摘んで,俺がまとめた言葉を,シェリアはしっかりメモを取った.

”条件(経過日数が30日,且つ,変数Condenserが100%の状態)ならば接触”.



「接触?」

「何と?」

「…恐らく,お前じゃないか?」

「私?」

「ちょっとだけ読み下げるから待てよ.えっと…」



”条件クリアならば,解除コードを送信,アプリケーションを削除”.

つまり,直接会ってアプリを消すってことだろうか?



「ここから下は,ゲームオーバーの条件かな…」

「30日経過時点で100%ではない場合,ターゲットと接触できなかった場合,アプリを削除できなかった場合…targer="death"…つまり,死」

「そんな…」

「つまり,生き残るには絶対にクリアしなきゃいけないことが結構あるってことだな.箇条書きにでもしてまとめとけよ」

「うん」


まず,30日以内にコンデンサを100%にする.

30日時点でコンデンサが100%のままならば,相手に接触する.

そしてその相手にアプリを消してもらう.

これが出来なきゃ死ぬってことだな.

そして,勿論30日以内に100%になってなくても,死.



「…是が非でも100%だけはクリアしなきゃいけないね」

「おう」



まず目指すべきはシェリアの言う通り,コンデンサを100%にすることだろう.

優先順位をよく考えて,動く必要がありそうだ.



「でも,誰と接触するんだろうな…」

「私と,でしょ?」

「そうじゃねぇ.相手だよ.このプログラムを作った奴か,それともこのアプリを配信してる奴なのか,あるいは全く違う第三者なのか…これじゃ分からないだろ?」

「あ,そっかぁ…確かに…」

「それに,会うってのは結構リスクが高い.最悪,ソイツに殺されても終わるんだぜ」

「!」

「ゲームクリアした奴がいないっていうのも,ソイツにもみ消されたとしたら…有り得なくはない」



最も,そこに行きつけるかが問題だけど.

その辺りは,もう少しプログラムを解読していけば分かるかもしれない.

手を休めるわけにはいかないな.

時間が限られてるとなると,1分1秒でも疎かにはできない.

シェリアは,そう思ってないんだろうけども.



「虎太くん…」

「大丈夫だよ.とにかく,今日は集中して3分の1くらいは済ませる」

「…うん」



シェリアと俺の感覚には多少のずれもあるとは思う.

俺は,俺に信頼を寄せてくれているシェリアを絶対に助けたい.

だけど,それを念頭におけば俺にとって焦りにしかならないだろう.

その反対に,シェリアは時間をあまり気にしてないような気がする.

とにかく精一杯やりきることに重点を置いてるんだろう.



「…しっかりメモとれよ」

「任せて!私,頑張る」



死ぬか生きるか,当の本人がこんな笑顔を見せてるんだもんな.

皮肉にも,俺がシェリアの立場じゃないからこうして手が貸せる.

本当にシェリアが大事だったとしても”代わること”なんてできっこないだろう.

俺もうだうだ言ってらんねぇ.

前に,シェリアに教えた言葉がそのまんま俺にぶつかる.

”落ち着け,状況を見ろ”.

その言葉がずんっと重たく,肩に落ちた.





タイムリミットまで,あと6日.




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