アンハッピーコンデンサ21


繰り返す日々は,俺達を一体どこに向かわせているんだろうか.



「それにしても本当に何も出てこないな」

「基本的にデタラメばっかりだから…宛てにならないものが多いよ」

「どっかで俺達を見張ってるんだろ?気配も痕跡もねぇんだぜ」

「お化けとか…妖怪とかの類?」

「まさか!非科学的だろ」

「でも,実際このゲーム自体が非科学的でしょう?」

「あのな,こういうゲームってのはプログラムで出来てんだ.プログラマが作ってるんだよ…っと,あ…ちょっと待て」

「え?」


そうだ,何で今までそこに気が付かなかったんだ.

これは携帯を媒体に動くアプリケーションソフト.

当然,箱もとい携帯を開ければプログラムがあるに決まってる.



「そうだよ!プログラム,なんでそこに気が付かなかったんだ!」

「え?何?」

「ソースコードを解読すれば,何か手掛りあるかもしれねぇ」

「そ,そーす?わ,わかんないってば」

「こういうのは基本竜持が詳しいんだけど…流石に頼れないな…誰か他の…」

「ストーップ!虎太くん,私にも分かるように説明して?」



危ない,1人で先走ってしまいそうになる.

シェリアの声で我に返れば,困った顔を浮かべて俺を見ている.

俺も詳しいわけじゃないが,とりあえず噛み砕いて説明した.



「こういうゲームは,基本的にプログラムで出来てるんだ.わかるか?」

「なんとなく」

「つまり,このアプリケーションにはプログラムが存在する」

「うん」

「それを展開すれば,このコンデンサの仕組みがわかるかもしれない!」

「ホント!?」

「ただ,それを読み解くには専門的知識が居る.俺も流石にプログラムは読めない」

「…じゃあ,どうするの?」

「誰かの手を借りるか,今から独学で学ぶかだけど…それははっきり言って時間が足りない」



プログラムを即席で読めるわけがない.

プログラムを開く方法は,ネットで探せばすぐにあるだろう.

だが,それを読み解くとなると話は別だ.

誰か頼れる奴を探した方が早いし,確実だ.



「誰かこういうのに詳しい奴で,話しても大丈夫そうなのが居れば…」

「それってパソコンでするの?」

「まぁ,タブレットでも出来なくはないと思うが」

「あ,そういうのに詳しいのなら一人知ってるよ」

「本当か!誰なんだ!?」

「…うーん,でも」

「藁にもすがる気持ちでいいだろ.心当たりがあるなら賭けてみようぜ」

「虎太くん…….わかった,ちょっと話を聞いてみる」



そう言うと,シェリアは携帯で誰かに連絡をとり始めた.

電話は,妙に親しそうな相手.

シェリアの軽い口調と,へりくだった態度を見れば察せた.






「…ってわけなの」


しどろもどろで説明を終えたシェリアは,電話を切った.

そして,行こうと俺の手を引っ張る.


「どこへ?」

「うち」

「お前のか?」

「そうだよ?」

「…誰に電話掛けたんだ?」

「妹」

「大丈夫なのか?」

「…まぁ,その.うん」



シェリアに導かれるまま,家に招かれた俺はちょっと戸惑っていた.

付き合ってもない,ましてやシェリアの両親に面識のないまま,その敷居を跨いでいいものか.

だが,幸いなことにシェリアの母親がいてくれたので,その心配はいらなさそうだ.

それとなく猫を被って,言うなれば竜持のように振舞って,挨拶を済ませた.



「…虎太くん,こっちが私の部屋」

「あ,あぁ」

「汚いけど,ごめんね」



シェリアの部屋は,ちょっと本が散らかっていたけど綺麗な方だ.

凰壮の部屋なんて,放っておいたら足の踏み場がないくらいだぞ.

家具や持ち物がやっぱり女の子っていう感じがした.



「おかえり,お姉ちゃん」

「ただいま」

「…誰このイケメン,お姉ちゃんの彼氏?」

「え,いや,ちが…」

「厳密に言えば,彼氏に立候補中だな.お前が,シェリアの妹か?」

「お姉ちゃんってばやるね!あ,私シェリアの妹です」



妹といえば,前に俺の教科書を裂こうとしたところを見られたことがあるって言ってなかったか?

名前は尋ねられなかったから,俺ってばれてないんだろう.

とりあえず,第一印象はシェリアよりも気さくな性格だと感じた.

人懐っこそうな,そんな印象.



「プログラムだよね,なんでまた急にそんなことを?」

「ちょっとね」

「…まぁ,いいけどさ」

「これなんだけど…できそう?」

「ちょっと待ってね」



妹は,パソコンに手慣れてるみたいだ.

あっという間に,カタカタと動かしていくもんだから,何がなんだかさっぱりだな.



「これは,割とスタンダードなやつだね…Javaって知ってる?うーん,構造が結構複雑だけど,このくらいならたぶん大丈夫」

「…じゃば?」

「そういうプログラミング言語があるんだよ.シェリア,ホントに何も知らないんだな」

「なんで虎太くんは知ってるのよ….私,こういうのは苦手なの!」

「お姉ちゃんはむかしっからパソコンとか機械とか,からっきしだもの.それよりもこのプログラム…日本語でコメントちゃんと書いてあるから,私が読まなくても分かるんじゃないの?」



見せられたプログラムには,丁寧にコメントがあった.

これなら,プログラムが分からなくても何をしているのかくらいは読むのも簡単だろう.

シェリアはわかってないみたいだったが.



「お姉ちゃんはいいや,教えてもたぶん覚えられないだろうから.お兄さんに教えておくね.ここをこうやって,こーすれば…プログラムが開けるの」

「あぁ」

「コピペしてテキストにしておけば,すぐ開けるよ」

「そうか」


妹は俺に扱いだけ教えると,マウスを手放した.

後は自分でやれってか.


「ってことで,お邪魔虫は退散させてもーらおっと!」

「お,お邪魔虫だなんて別に…」

「お兄さん,次は彼氏になってからまた遊びにおいでよね」

「…頑張るよ」

「お姉ちゃんってば鈍いから,よろしく頼みます」

「あぁ,全力で守る」

「守るだって,お姉ちゃん愛されてるー」

「こら!いい加減にしなさい!」

「わわっ,それじゃ今度こそホントに退散するわ.まったねー!」


シェリアと妹,間逆の性格なんだな.

見るからに妹のほうが一枚上手なんだろう.

どことなく,三つ子にはない姉妹らしさというか,微笑ましいものがある.

あ,うらやましいわけではないぞ.





「…ふぅ」

「お前の妹,キャラが濃いんだな」

「私が薄いんだと思うよ.それより,これをどうするんだっけ…虎太くんやってくれる?」

「お前は一体今までこのパソコンとどういう付き合い方をしてきたんだ.コピペも出来ないなんて…」

「だって…苦手なんだもの.基本的に写真とか取り込んだり,インターネットでお買い物するくらいだよ」

「…はぁ」



機械音痴だなんて,今日まで知らなかったな.

それなのに,よくアプリなんてダウンロードできたなコイツ.

妹に言われた通り,プログラムをコピーしてテキスト形式にした.

あとは,これを読むだけだが.



「長いね」

「…膨大な量があるから,一日じゃ無理だろ.ちょっとずつでもいいから毎日やってこうぜ」

「そうだね」

「とりあえず,今日はお前の家族に怪しまれないように俺は帰る.長居して変な誤解が生まれたら困るしな」

「わかった.じゃあ,明日このデータを学校に持っていけばいい?」

「そうだな…俺の家でもいいが,それだと帰りも困るし,それでいい」

「えっと,じゃあ…虎太くん,これ,コピーの仕方わからないから,お願いします」

「…お前なぁ」



差し出されたUSBに,肩の力ががくっと降りる.

ファイルコピーもできないのか.

困った機械音痴だ…全く.

だけど,これでまた真実に一歩近づいたんだ.

課題はまだまだあるけど,着実に踏み込んだ地面はしっかりとしていた.





タイムリミットまで,あと7日.




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