おうちにようじょがやってきた 番外‐青砥03‐


シェリアが直視できない.

それは彼女の笑顔が,ものすごく眩しいからだ.



「…琢馬兄っ!」

「わっ」

「驚いた?」

「うん…」



急に現れたことにじゃなく,急に抱きつかれたことに.

スキンシップが激しいというか,くっつくシェリアにドキドキしてしまう自分がいた.

だけどよく考えてみれば,シェリアはまだ小5という現実が待っている.

ようこそロリコン,さよならノーマル.



「琢馬兄に最近会えなかったでしょ,だから寂しかった」

「ぶっ…な,何言ってんの」

「だって1ヶ月くらい顔見てなかったよ?」

「…俺だって忙しいんだ」

「やっぱり,高校に入ると皆忙しいんだね…お兄ちゃんたちも,皆そうなんだよ」



しゅんっとしか顔をされると,こっちもたじたじになってしまう.

可愛いとか綺麗とか,そういう感情は今までに何度となく抱いたことはある.

でも,ここしばらく会えなかったのは俺も辛かったんだ.



「勉強,そんなに難しいの?」

「俺はどっちかっていうと部活だよ.サッカー三昧」

「まるで虎太兄だね…」

「一緒にしないでくれるかな」

「相変わらずお兄ちゃんのこと敵視しすぎだよ…もうっ」



シェリアと仲が良くても,兄と仲が良いわけではない.

あくまで,シェリアだけが好きなんだよ?



「小学生の頃ってさ」

「ん?」

「本当に楽しかったな」

「…へぇ,琢馬兄,もしかしてナーバスになってるの?」

「違うって.俺が言いたいのはそういうことじゃなくてさ」


わしゃわしゃと頭を撫でれば,やめてよっと抵抗された.

むすっとしたほっぺたは赤い.


「今のうちに楽しめることは楽しんでおきなってこと」

「楽しいよ,私」

「違うだろ.凰壮から聞いたんだけど…人間関係に悩んでるんでしょ」

「!」


俺の言葉に,目を伏せたシェリアは急にしおらしくなった.

ちょっとだけ俺を見上げて,きっとつり目で睨む.


「凰壮兄が何言ったのかは知らないけど,私,平気」

「いじめ,酷いんだって?」

「いじめられてない!」

「じゃあ何が平気なの?」

「え,えっと…それは…皆と一緒にいること…とか」

「シェリアさぁ,もうちょっと素直になれば?」

「…琢馬兄には,関係ないもん」


拗ねたような素振りを見せたシェリアは,くるっと向きを変えて俺から目を逸らした.

泣きそうなのか,声が上ずっている.

今度は優しく頭をぽんっと叩く.


「はぁ…どうせ暇でしょ,デート行くよ」

「は?え?琢馬兄?!」

「俺,部活休みだからさ」

「ええっ待って,ちょっと,Wait!」

「却下」


そのまま引っ張るように,シェリアを連れて歩いた.

慌てるシェリアだったけれど,抵抗する気がないのか,素直に俺に付いてきた.

兄はともかく,他の男にはこうであってほしくないね.





「…私,お金持ってないの」

「俺の奢りだから」


知り合いの経営する喫茶店に入って,シェリアを座らせた.

閑古鳥の鳴くような閑散とした店で,俺達以外に客なんていない.


「で,何を意地張ってるわけ?俺に言えないの?」

「…意地張ってない」

「なんで君の兄達に報告しないの?竜持とか絶対,乗り込んで行くと思うけど」

「…何もされてないから」

「靴隠されたり,わざと転ばされて泥だらけにされたり,悪口言われたり,ノートめちゃくちゃにされても?」

「お,凰壮兄が全部話したの!?」


あ,その驚き様ってことは図星なんだ.

俺,半分口から出任せだったんだけどな.


「ってことはやっぱ本当なんだ.あ,半分は俺の勘だったんだけど」

「カマかけたなんて酷いよ!」

「はいはい,悪かったよ.でも,これって全部立派な苛めだよ.なんで苛められてるの?心当たりは?」

「…羨ましいんだと思うの,たぶん」

「羨ましい?」

「私,皆と髪の毛の色違ったり,勉強もちょっと皆より出来るし…それに」

「それに?」

「ボーイフレンド,多いから」

「がっ…げほっごぼっ…そ,そう」

「琢馬兄汚いよ…!ボーイフレンドって言っても,本当に男子のお友達なんだから…勘違いしないでね」

「…うん」



ボーイフレンド…ね,つまるところ,女の嫉妬ってことか.

俺,こういうのあんまり好きじゃないんだよなぁ.

女の子の考えてることなんて,わかりっこないし.



「でも,それってシェリアが悪いわけじゃないよね.なんで黙ってるの?」

「…私が,すっごく嫌な子だなって思うから」

「ごめん,わかるように言って」

「だって私,損得で異性の友達作ってるわけじゃない.向こうが私のことを嫌いでも,私は別に嫌いじゃないし…そもそも恋とかに興味がないっていうのかな…だから,別に今のままでもいいんじゃないかって心のどこかで思ってるの」

「それがどうなって嫌な子になるの?」

「…でもそれって結局,周りの人が自分の事で騒ぐのが嫌なだけで…黙ってればわからないよね….あのね,こういうこと考えてる時点で,私嫌な子なの.素直に仲良くなろうって思えないし,別にあの子たちに嫌われても他の人がいてくれるからって」



シェリアが,長く話すのはめずらしいことだ.

幼い頃の影響なのか,あんまり自分の事を話したがらないのに.

”家族”という言葉はシェリアにとって重すぎるのは俺も知ってる.



「私,自己中心的でしょう?だから,嫌い」

「シェリアって,可愛いね」

「琢馬兄何言ってるの?意味わかんない!」

「いや,俺にこうして話してくれるってことは,少なくとも俺は信用してもらってるって受け取っていいよね?」

「…馬鹿にしてる?」

「違うよ.まぁ,俺が偉そうに言えたことじゃないけど,シェリアは極端なんだよ」

「きょくたん?」

「そう,好きでも嫌いでもないものを興味ないって思ってるだけ」


ちゅーっとストローでジュースを飲み干すシェリアの不満気な顔.

せっかくの可愛い顔,台無しになっちゃうだろ.


「隙と嫌いで割り切れるものの方が少ないんだから,そうやって悩むのは誰にだってあることだし,皆好き好んでそんな悩み抱えてるわけじゃない」

「…琢馬兄も?」

「俺だってあるよ.例えば,シェリアのことだって」

「私?」

「うん.俺,シェリアのこと好きだけど,泣き顔とかそうやってしかめっ面したりしてるのは嫌い」

「!」

「でも,しかめっ面でも,泣き虫でも,シェリアのことを嫌いにはならない.これってすっごく矛盾してると思わない?」

「…笑った顔は好きなの?」

「勿論.だから,どうやったらシェリアが笑うかなって今考えてる.なかなか思い浮かばないけど」

「…私,間違ってた?」

「間違ってはないけど,それだけが正しいとは限らないってことだよ」

「…そっか」

「うん」



シェリアは,何かを思いついたのか,ぼんやりと空を見つめた.

カランと氷の落ちたコップが,音を立てる.



「なんだか,ちょっと話したらすっきりした」

「そう?」

「お兄ちゃん達には,言いたくなかったから」

「…ま,聞いた途端に学校に乗り込んで行くだろうからね.あるいは苛めてる生徒に直接殴りこみに行きそう」

「でも,琢馬兄なら安心だね」

「…なんで」

「なんでだろ,でも,なんとなく!」



そしてまた,えへへとはにかんで俺を見つめる.

俺だって,シェリアを苛める奴は許せないし,どうにかできるならどうにかしてやりたい.

それを望まないシェリアが,俺に何を求めてるのかわからないけど…これって信頼されてると思っていいのかな.

お兄ちゃんには言えなくて,俺には言えること,だし.



「さっき俺がシェリアのこと好きって行ったけど,シェリアは俺のこと好き?」

「うんっ!大好きだよ」

「ありがと…今は,これでもいっか」

「?」

「なんでもないよ」



やっぱりシェリアから出た台詞は俺の望んだ答えじゃない.

それなのに,そんな台詞に満たされてる俺は案外単純だなと,思うよ.

…恋って,意外に楽しいね.

障害も多いけど,俺,諦めるつもりないから.



恋だと自覚して楽しくなってきた,そんな俺の高1の出来事.



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