アンハッピーコンデンサ20
携帯電話に届く,コンデンサの増加を知らせる通知.
どうやっても逃れられない運命にあったこの恐怖のメールも,今や挑発的なものに感じる私がいる.
それだけ,前向きになれたのかもしれない.
「シェリア」
「あ,虎太くん!」
教室でも,教室の外でも,一緒の時間を過ごす.
付き合ってるわけじゃないのに,まるで恋人のように.
水面下にあるこの感情を,私は分かってるつもりだ.
「今日はまぁまぁの収穫だな」
「うん.喜んじゃ駄目なんだけど,目的に一歩ずつ近づいてるね」
「だが,気を抜くなよ」
「そうだね…」
私は虎太くんが告げてくれた想いに,応えてない.
あの時,返事をする前に虎太くんが制してしまったから.
でも,それで良かったと思うの.
「100%溜ったら,一体何があるんだろうな?」
「解放,されるのかな」
「だといいが…未だにこのゲームを達成した奴が居ないってのがどうにも引っ掛かるんだよな」
「私もあれからネットで探してるけど…なかなか見つからないよ,手がかり」
「まぁ,簡単に見つかったら誰でもクリア出来るはずだし」
「現段階でこのゲームをしてる人は何人か見かけたけど,コンタクトを取れそうな感じじゃなかったよ」
「やっぱり,同じような目に遭ってる奴いるのかよ…」
このゲームをきっかけに,虎太くんと知り合いになれた.
泣きついた私の話を聞いてくれたのが虎太くんだったね.
あの時,正直に全て虎太くんに話したからこうして今がある.
それが喜ばしいことなのか,どうなのか…正直に言えばわかんない.
だって私は助かってないし,虎太くんも巻き込んでしまっているから.
「そいつらの為にも,俺らが生き残って助かるってことを証明してやろうな」
「…うん」
「暗い顔するなよ.陰気なのはごめんだ」
「ごめんね,こういうときパッと笑い飛ばせるような性格なら…前向きにもっと行動起こしたりできるんだろうけど…」
「あのなぁ」
「わわっ危ないって」
「危なくねぇよ,俺が支えてんだぞ」
足場の悪い階段で,虎太くんは私の腕を引いた.
ぽすっと頭が,虎太くんにもたれかかる.
転んじゃう,だけどきっと虎太くんが支えてくれてるから大丈夫かもしれない.
「お前がこういう性格じゃなきゃ,俺達出会ってなかったんだぞ」
「それは,そうだけど」
「確かに泣き虫で根暗なのは正直うざいし,面倒だよ」
「うぇ…そ,そんな…」
「ほら言ってるそばから泣くな馬鹿!最後までちゃんと聞けよ!」
虎太くんの言葉に一喜一憂してしまうこのノミの心臓.
「全部…その,ちゃんと好きだから,今は…ほら」
「何?どういうこと?」
「鈍感すぎるとこもイラッとするな」
「ひいいごめんなさいっ」
「だからもう謝るな!それも含めて好きって言ってるだろうが!」
「ひいいいいごめんなさいっ!!!」
「だーっ!!お前な…」
好き,好き,そんなに言われると私はどうしていいのかわからないよ!
出来るなら私も今すぐ返事がしたい!
好きです,そう伝えてしまいたい.
こうやって触れて,会話して,笑って,幸せを掴みはじめてしまった.
行きつく先が死だったとしても,私,幸せかもしれないなぁ.
「こうやって,虎太くんとあと何日話せるかな」
「8日間は確かだな」
「それ以降は!?」
「それ以降は…そりゃ,生きてたらだろ.最も,死んでも側にいるつもりだけどな」
「じゃあ,一生?」
「不服なら,来世までって言えば問題ないのか?」
「いやいや…それは嬉しいけど,そういう意味じゃないよ…もう」
冗談でも,冗談じゃないかもしれないこの境界線は誰が引く?
私か,虎太くんか,あるいは….
アンハッピーコンデンサという,目に見えない未知の脅威なのか.
立向う相手すら未だに掴めない私達が進むこの道は,一方通行.
「まだ出来ることなんていっぱいある」
虎太くんは,私の頭を強めに撫でて言う.
「8日間?上等!やるっきゃねぇんだよ」
今は何よりも,この手が,声が,存在が愛おしい.
だから甘えるんだ,残された時間がわずかでも.
それが何よりも,私の頑張る糧になるから.
タイムリミットまで,あと8日.