アンハッピーコンデンサ12


シェリアは,俺から距離をとって服を直していた.

こっちとしては,閉じ込められた時点で完全に意欲喪失.

ヤる気なんて今更ないっつーの.


「…おい」


俺の問いかけは,空気に消える.

シェリアの怒りも最もではあるが,無視かよ.


「悪かったよ,俺が悪かった」

「…最低」

「なんだよ,お前が素直に言わないからだろ?」

「わ,私のせいにしないでよ!貴方が,こんなところに呼び出すから…」


俺もシェリアも,生憎な事に携帯を不携帯.

連絡の取り様がない上に,出口もない.

窓1個くらいあれば,俺だけでも出れたかもしれねぇのに.


「…あれ,嘘でしょう」

「何が」

「虎太くんが貴方に全部話したっていうのは」

「へー…よくわかったな?」


やっぱり,シェリアと虎太には何かある.

シェリアが虎太をまだ信じていることが,何よりの証拠だ.

俺の推測では,コイツらは両片想い.

もちろん経緯はわからないが,そうだとすれば,全てのことに納得する.


「虎太が口を割らないもんで.お前にカマかければ尻尾を出すかと思ったんだけど」

「…で,このザマなの?」

「まさか,こんなことになるとは俺も思ってなかったぜ」

「…来るんじゃなかったな」

「諦めろよ,とりあえずいい加減こっち来いよ.もう襲ったりしねぇし」

「その言葉が信じられると思うの?」

「俺だって,いろいろ考えてんだよ.事と次第じゃお前の手助けをしてやってもいいと思ってるんだぜ」


勿論,俺の興味に沿った話なら,だ.



「信じられない」

「…全てが順調に進んでるなんて,思わない方がいいぜ.竜持はともかく,俺はお前らの思い通りになるつもりはねぇ」

「…何が,言いたいの」

「さぁ?お前が先に話せば俺も話してやるよ」

「…ならいいよ.時間と体力の無駄」



シェリアは,それっきり俯いたまま.

どうにも出ることは放棄したようだった.

少し寒くなってきたけれど,温もることの出来そうなものがない.



「信じないのは勝手だけど,いっこ教えておいてやるよ」

「…」

「虎太は,お前の考えてるほどイイ奴じゃねぇ.汚い部分だってあるし,欲だって持ってる.俺が思うに,このままだとアイツ,絶対暴走する」

「虎太くんは,そんなことしない」

「だったら,賭けるか?」

「…賭け?」

「おう.そうだな,虎太がここに助けにくるかどうか」

「来ないよ!気付くわけ…」

「俺は来るほうに賭けるぜ.もし俺が勝ったら,そうだな…俺に一発ヤらせろよ」

「なっ…馬鹿言わないで!そんな条件飲むわけないでしょう!」

「その反応って,もしかしてお前処女なのか?」

「っ,貴方…本当に最低!虎太くんとは大違い…」



なるほど,コイツ案外動揺してんだな.

不安そうな声が,よく耳に残る.



「なら,全部話しな.俺が賭けに勝ったらよ」

「…来ないもん」

「大体今の時刻から考えて…あと3時間.それ以内に来なければ,俺の負けでいいぜ」

「勝手に,すればいいでしょ」

「言ったな?良い様に解釈するぞ」


薄暗い倉庫だが,物が詰まっている圧迫感だけがある.

マットに寝転がって,目を閉じる.

シェリアは,俺を決して見ようとはしなかった.

近づく気配もない.





「くしゅっ」

「…寒いのか」

「べ,別に」

「着とけ,何もねぇよりはマシだろ」

「いらないよ」


俺が近づけば,シェリアは逃げようとする.

だから,断るシェリアに無理矢理被せて,すぐに離れた.

せっかくの善意くらい,黙って受け取れクソ女.


「…お礼,言わないから」

「へいへい.ったく,可愛くねー女だな」

「貴方に可愛いと思われても,なんとも思わない」

「へー…せいぜい愛しい愛しい虎太きゅんにそう言って貰えるといいですねー」

「なんなの,貴方…ホント,嫌い!ひとでなし!」


それっきり,シェリアはまた黙りこんでいた.

時間と寒さの両方に耐えて,体力も気力も限界なんだろう.

俺は鍛え方が違うし,どうってことないが,退屈なだけ.

どうしようもなくなったまま,俺は少し眠った.






「ねぇ…起きて,ちょっと,起きてってば」

「あ?」


どのくらい経ったか,シェリアは俺を起こした.

腹に,貸したはずの上着がかけてある.

コイツがやったとしか思えないが,本当にコイツが悪人なのか疑わしい行動だ.


「誰か,近くにいる」

「…みたいだな」


足音ひとつ,相当近い.

今が一体何時かはわからないが,有難いことには変わりなかった.

外の人物は,体育倉庫を開けようとしているようだ.

だけど,その行動を含めて俺には確信があった.



「なっ!?何するの…!」

「悪いな.ちょっとばかり俺に付き合ってもらうぜ」

「や,やめっ…降矢くっ…」


扉が開くと同時に,俺はシェリアを組み敷いた.

勿論,本気じゃなくこれは演技だが.

シェリアの抵抗した声が聞えたのか,外の鍵がガチャガチャと荒々しく鳴る.

勢い良く開いた扉から入ってきたのは,俺のよーく知った奴.


「シェリア!!…凰壮!?」

「こた,くん……」

「よぉ,遅かったじゃねーか」

「凰壮,お前…!」


虎太は迷わず俺を殴って,ふっとばす.

いってぇな,コイツ,本気かよ.

加減のない拳は,俺の頬を容赦なく捉えていた.


「シェリア,大丈夫か!?怪我は?」

「大丈夫だよ,でも…なんで」

「それは後でいい.凰壮,どういうことだ.何してた,シェリアと」

「…一晩,ここで過ごしただけだぜ.ま,ちょっと乱暴はしたけどな」

「お前…!」


首元をガッと持たれて,俺はされるがままに睨み付けられた.

裏切られたにしちゃ,おかしな行動しやがるぜ.

思わず口元が歪んで,半月を描く.

賭け,俺の勝ちだな.



「ま,目的達成だな.これでお前らの思惑がぶち壊れたっぽいし,俺は帰るわ」

「…シェリアに何をした」

「別に何も.本人にも聞いてみな」


俺は,砂埃を払って1日振りの朝日を浴びた.

まだ薄寒いが,帰って風呂に入って寝よう…勿論学校は,自主休講ってな.

一晩耐えて得た功績を考えれば,そのくらい有り余る報酬だ.

それに,シェリアが馬鹿じゃなければ,次の一手を打つはずだしな.

これからが楽しくなりそうだ,そんなことを考えながら薄暗い道を1人で歩いた.





タイムリミットまで,あと16日.



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