アンハッピーコンデンサ10


私は気付いていた.

虎太くんは,私のことを止めたがっている.

どうしてだろう….

わからない,わかりたくないよ.


「…私に,死んでほしい…とか」


まさか,そんな…ことはないよね?

不安も混じる中で,今日も1人ぼっちで学校に行かなければならない.

敵だらけ,駒になるのは校長くらいか.

スキャンダル写真のネタは,カッターシャツの下に着た服のポケットに入れて持ち歩いている.



「おはよう」



しんっと静まった教室で,注がれる視線.

明らかに,不穏な空気は私が作り出してしまった.

幸いなことかどうかはわからないけれど,凰壮くんと竜持くんはいない.

まだ,マシな朝だったのかもしれない.



「…シェリアさん」

「?」

「あのさ,何やったのか知らないけど…私達を巻き込まないでよね」

「飛び火とか,マジ勘弁」



皆が口を付いて,私に小言をぶつけてくる.

イライラ,募る感情はどす黒く渦巻いていった.

大体吐ききったクラスの鬱憤は,私の悪口に発展していた.



「嫌なら消えればいいのに」



ぽつん,そう言う私に凍り付いた教室.

失言だっただろうか.

私や降矢兄弟を疎むのは勝手だけど,別にテストの点が下がったり,先生の言葉がうざかったり,そんなの私には関係がない.

結局,自分が可愛いだけの発言をしてるだけじゃないか.



「…サイテー」

「シェリアってこういうやつだったんだな」

「お前が消えろよ」



広まった悪口と,私の携帯がリンクしたように揺れる.

今のは,結構ポイント高かったかな?

たった一言だけで,こんなに稼ぐことが出来るなんて.

クラスメイトに完全に嫌われた私は,皆の不幸を得たのだ.







「…シェリア君」

「校長先生?」

「…あのこと,誰にも言っていないだろうね?」

「勿論,私の胸の中に仕舞ってありますけれど.何か?」

「それならいいんだが.困っていることがあればすぐにでも,手を貸そう.だから,くれぐれも頼むよ」

「なら,話が早いですね.サッカー部と,バレー部の部費を切ってください」

「は…」


私だって生きた人間な以上,感情だって湧く.

言われっぱなしでは腹も立つから,仕返しだってしたい.

校長を使えば,簡単にそれも出来るから.

受けた仕打ちをただ倍で返すなんて,温いのだ.

きっと緩んだ頬は,いやらしい笑みをしていたに違いないだろう.





「人間,割り切れるものだなぁ…」





屋上は,唯一羽を伸ばしても大丈夫な場所.

誰も居ないと思っているし,居たところで私が居れば去るだろう.

携帯を確認しようと,画面を操作する.

すると,後ろから携帯を持ち上げられた.


「よ,ブス」

「…何か,用事?」

「なんだよ,つまんねぇな.もっと動揺しろよ」

「携帯,どうするつもり?」

「…どーもしねぇよ」


凰壮くんは,私に何をしに来たんだろうか.

携帯を壊されるかと思ったけれど,ぽいっと返された.

拍子抜けする.


「俺は,別にお前が嫌いなわけじゃねぇ」

「だから?」

「むしろ,気に入ってるんだぜ.度胸のある女は,嫌いじゃないしな」

「話の趣旨がわからないよ」

「…単直に言うが,お前,ホントに虎太のこと裏切ったのかよ」


今更,こんな質問をされる理由がわからなかった.

だから降矢くんたちは私を苛めるんじゃないの?

原点に還りたいのなら,問いただすのは私じゃなくて虎太くんだよね.


「本当だよ」

「何をした?」

「…親切にも私に手を貸してくれた虎太くんの私物を刻んだり,泥棒の罪着せたり,かなぁ」

「…俺には,どうにも信じられねぇんだがな」

「信じないのは勝手だけど,足らない頭で考えるよりも,貴方のずる賢いお兄さんに聞いて真意を確かめてみたら?」

「なっ…!?」

「私さ,暇じゃないんだ.言いたいことはもうない?用が済んだならさよなら」


足音のたつように,その場を離れた.

ここで,私の立場を揺るがすわけにはいかない.

凰壮くんが私に疑問を持っているのは,本当なら嬉しい事のはずなのに.

それを無碍にして,私は前に進まなくてはならないのだ.



「あのクソ女…やっぱり,信じられねぇ…」



私の知らないところで,私に迫る危機.

凰壮くんの声は,私の耳に入ることのないまま,空に消えた.



タイムリミットまで,あと18日.



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