悪戯な羊は戯れた


柔らかい髪の毛が,僕の頬をくすぐってこそばゆいんです.

隣で眠った彼女の寝顔に,ついつい軽く口元が緩みます.

もう日が暮れる時間だというのに.

かれこれ僕は,2時間くらいこうしているのでしょうか.

時計を見るのが勿体なくて,目を閉じたり開けたりを繰り返しているんです.



「…んにゃ?もう,夕方…なの?」

「はい」

「…ずっと寝てた?」

「ここに座ってから,すぐに眠ってしまいましたね.お疲れでしたか?」

「ううん,そんなことないよ!疲れてないよ?」

「それにしてはよく眠ってらっしゃいましたよ」

「あー…なんていうか,竜ちゃんの横にくっついてると安心するんだろうなぁ」

「ふふ,それは嬉しいですね」


目を覚ます彼女とは,今日は一緒に出かけてきたんです.

俗に言う,デート.

天真爛漫で,どこかちょっと幼い彼女は,とっても可愛いんです.

今はちょうど帰りの電車の中.

空いた車内,どこでも座れるのに,僕達は隣同士.


「あと何駅くらい?」

「4駅ですね」

「じゃあ30分は裕にあるなぁ」

「まだ寝てても構いませんよ」

「だって,竜ちゃん暇じゃない…?」

「僕はシェリアさんを見てますから,平気ですよ」

「むぅ…それは駄目!恥ずかしいもん」


ぷくっと膨れたその表情は,まるで小さな子供のよう.

せっかくの可愛い顔が台無しじゃないですか.

そう思って,頬を突けばくすぐったいと言われました.


「あのさ,竜ちゃん」

「なんでしょう」

「私,明日提出の課題やってない」


そして突然の,カミングアウト.

何を言い出すかと思えば.


「…だいぶ前に提出してしまいましたよ,僕は」

「ええっ!どうしよう!」

「最初から僕を頼る気まんまんですか…ちょっとは努力しなさい」

「だって,勉強嫌いなんだもん.でも,竜ちゃんの教え方はわかりやすいから別ね」

「おだてたって駄目ですから.今晩ちゃんとやって,明日学校に来てください」

「サボったら…だめ?」

「駄目です.僕が昼に1人でご飯を食べてもいいと?」

「そ,それは…えっと…」

「虎太くんは部活の仲間と学食,凰壮くんは彼女と屋上.あぁ,僕だけぼっち飯ですか…それは寂しいですねぇ」

「竜ちゃんがぼっち飯とか言うなんて思わなかった」

「変ですか?」

「似合わないね」

「じゃあ言わせないでくださいよ.シェリアさんが明日学校にくれば済む話です」

「…自力で出来なかったとこ,教えてくれる?」

「そういうことでしたら,喜んで」

「が,頑張るっ…」


まぁ結局,僕がほとんどやることにはなりそうですけどね.





「よし,じゃあ前払いで,竜ちゃんに肩貸してあげる」

「えっ」


軽く引かれて,ぽすっと頭をシェリアさんの肩へ.

身長差があるから,ちょうどよく乗っかって.

誰も居ないからいいですけど,誰かに見られたら恥ずかしいですね.

窓から見える景色に,僕とシェリアさんのシルエットは溶けていくのでしょう.


「眠っていいよ.はい,眼鏡は預かっておくからさ」

「…前払いにしては,奮発ですね」

「だって,竜ちゃん紳士なんだもん.私のこといっつもお姫様みたいに扱ってくれるでしょ?だから,たまには私も仕返し」

「シェリアさんだからですよ」

「だから,私がお返しするの!」

「はいはい,それでは有難く頂きます.…こうやってると,とても心地良い」

「うんっ」


揺れる電車と,歩いた距離が,僕に軽い睡魔を与えてくるもので.

おまけに,大好きな香りとゼロ距離の温もりですから,うとうとしてしまいますね.


「おやすみ,竜ちゃん」

「はい…少しだけ…」


目を閉じて,彼女に身体を預け,時間が経つのを待ちましょう.

きっと,彼女も眠ってしまうでしょうけど.

そんなことを考えながら,まどろんだ意識は,ゆっくりと落ちていきました.

彼女のやすらかな寝息を聞きながら.



気が付けば,終点.

薄いブランケットを掛けられていた僕達を起こしたのは車掌さん.


「すみません,お二人とも,ここが終点なんですよ」

「えっあれっ…寝過ごし…てしまいましたか…」

「もうしばらく乗ってくれてますよね.どこで降りる予定でしたか?」

「2つ前の駅です.あの,これを掛けてくれたのは…?」

「私です.あまりにも微笑ましかったので,つい」


車掌さんは,頭を掻きながらすいませんでした,と漏らします.

眠っていた僕達を見守ってくれていたこの車掌さん.

ぱっと見,穏やかで,とても人の良さそうなおじさん.


「彼女さん…よく寝てらっしゃいますね」

「はい…すいません…」

「2つ前の駅ですよね.今から私,退勤なので送ってあげますよ」

「えっ!」

「この仕事してると,たまにお二人のような幸せな乗客を見るのが楽しみで仕方ないんですよ.だから,そのお礼に」


帰る手段を失った僕達に,微笑んだ車掌さんがそう言ってくれたのです.

僕は急に恥ずかしさで,頬に熱が集まってきてしまいました.

まだ夢の中の彼女をおぶった僕は,お願いしますと小さく呟いて.

それを見た車掌さんが目を細めて独り言のように零していました.



「若いっていいですねぇ,青春ですね〜」



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10/21
(リク内容)
竜持(高校生,恋人同士,甘甘,一緒に眠る)



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