凰壮09


「おーうぞーくーん,お暇なう?」

「暇じゃねぇな,課題やってんだよ」

「遊ぼう」

「お前俺の話聞いてたか」

「ううん,凰壮くんの返事なんてどうでもいいの.私が遊びたいから遊ぼうって言ってるのよ」

「…何して遊ぶんだ?」

「そうだ,しりとりしよう」


見た目は清楚に見せかけた,悪逆非道の女王様.

黙っていれば皆が口を揃えて,普通の女の子だと言うだろう.

口を開けば,誰もが服従さざるを得ないような性格.

性格が悪いだけならば論破して負かしてしまえばいいのだが,如何せん頭が良いせいで弁が立つ.

彼女を論破するは容易じゃない.


「凰壮くんからね」

「んー…じゃあ,無難にしりとりの"り"」

「竜持くんは今日は一緒じゃないの?」

「見ればわかるだろ」

「違うでしょ,しりとしなんだからちゃんと答えなきゃ…ね?」


そして踏まれた足.

上履きとはいえ,ぐりぐりされるのは痛い.

そう,常人ならばそう思うのかもしれないが….


「ご,ごめん」

「いいわ,次は気を付けてね?"の"から始めて」

「の,海苔」

「理由は言わなくていいけど,質問するわよ」

「よ,喜んで?」

「では単刀直入に聞くんだけど,昨日一緒に歩いていた女の子はだぁれ?」

「れ…練習帰りにたまたま一緒になったんだ…」

「誰って聞いてるの」


踏まれた足に,更に力を加えられた.

思わず声を挙げそうになって,堪える.

目も声も笑ってない.

シェリアは怒っているんだろう.


「乗ってる足を退けてください…」

「い・や」

「奴は…高遠って言って,サッカーのクラブのチームメイト」

「とっても仲が良さそうに見えたけれど」

「ど,どんなことがあっても,俺にはお前が一番だよ」

「よしてくれる?冗談言うなんて柄じゃないでしょ.まぁ凰壮くんでも,お世辞言えるのは評価するけれどね」

「願ったり叶ったり…じゃないのか」

「勘違いしないで.調子に乗ってるとどうなるかわかってるのかしら?」

「乱暴はやめてください」


そう答えた俺の頬をぶったシェリア.

ぱちんっと乾いた音がして,目の前のシェリアが嬉しそうな笑顔を見せる.

すごく嬉しそう.

女王に加えて,ドの付くSだとお分かりいただけただろうか.


「痛いくらいじゃないと,凰壮くんはわかんないじゃない」

「いやいやいや!わかってる!言葉で十分わかるって…」

「抵抗したり,反抗したりすればどうなるかっていうのはわかってるのに,言い訳?」

「決してそういうわけじゃ…」

「やぁね,私への返事如きで判断ミスなんかしてたら,サッカー選手なんて務まらないわよ?」

「よ,よっぽど嫉妬してくれたってことか…?」

「かもしれないわねぇ….嫉妬で狂ったこの私をどうやって鎮めてくれるのかな?」

「何でも,言う事…聞きます…」

「素直でよろしい」


そしてやっと退けて貰えた足.

シェリアは俺の顔を両手で包む.

キスされるのかと思えば,寸止めのところで止まった.

えっ?


「?」

「…しりとりが止まると,会話も続きも出来ないわね」

「えっ,えっ!?」

「ゲームオーバーよ.残念ね,お預けみたい」

「えええ!?」


お,お預けって…ここまで付き合ったのに?

足踏まれて,ぶたれたのに,お預け?

そりゃないだろ.


「…不満そうな顔」

「お,お前のせいだろ」

「碌にしりとりも出来ないお馬鹿な子に私がキスしてあげるとでも思った?」

「単純なんだから,期待くらいしたっていいじゃねーか…」

「可愛い」

「いででででっ」


つねられた手の甲.

ぎりぎりと,捻り挙げられて手よりも先に俺が悲鳴を挙げた.


「でも,可愛いからってキスするわけないでしょ」

「喜ばせて叩き落とすなんて酷いな…」

「泣いた顔が好きなの,痛がる顔も好きなの,絶望した顔が一番だけど」

「ドSで鬼畜…」

「苦しむ凰壮くんの顔も好きだなぁ…」

「あ,愛が痛すぎると思うんだよ.俺,このままだと怪我だらけ」

「怪我のひとつひとつも私が付けたと思うと,愛おしく思えちゃうからやめられない」


そう言うと,抓った手に唇を落とすシェリア.

これは愛情表現,きっとそれが形を変えた行為.

傷も痛みも全部俺を愛してくれるのに,俺に権利を与えない.

寂しい,そう一言言えば俺だって抱きしめてやれるのに.

それも許されない言葉遊び.



「…しりとりはもうおしまい」

「お,おう」

「…でもね,これだけは覚えておいてくれる?」



触れた唇に痛みが走って,がりりっと噛まれたのが分かった.



「私以外に,愛されないでね」



ぽたっと落ちた血の雫は,机に染み込んでいく.

彼女は寂しい,それが言えないが為にこうやって俺を縛る.

縛られて,手の上で遊ばれて,俺って一体なんなんだろう.

かつて,そんな無駄な思考を働かせていた脳は今やもう”彼女は俺以外を愛せない”,そんな風に覚えてしまった.

侵食された俺の脳が下した判断は,彼女を愛せるのは俺だけだって.

だから,俺も彼女に応える.

粉骨砕身,爪の一片,髪の1本すら,好きに愛してほしいと.



痛いのも愛,そう思い混んでいる俺は噛まれた唇にも熱を感じる.

愚かなシェリアの愛すべき馬鹿は,俺1人で十分だ.






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