アンハッピーコンデンサ09


決めたんだ,私.

これからは誰の力も頼らずに,生き抜いてみせるって.

誰かの善意を利用して,悪意を作り出す.

例え,それが茨の道でも,全身血みどろの傷だらけになっても通らなきゃいけないの.



「…データはSDに入れてバックアップしとかなきゃ」



私は家のパソコンに例のスキャンダル写真を移動させておいた.

思いの外,上手くいった恐喝に手が震える.

捨て身の戦法で,校長相手に女を使った.

校長は,私がスカートを軽く持ち上げ,足をチラつかせて誘惑すれば簡単に堕ちた.



「そうだ…パソコンにもロックかけておかないと,妹に見られるかな…」



全ての計画が終わるまで,誰も私のこの空間に入れないように.

そうだな,パスワードは…私の好きなあの人の名前.

私を変えてくれた,最愛の人.








だけど,上手くいくということは,同時に辛いことも耐えなければならない.

分かりやすくも,その苦行は翌朝からだった.

学校の空気は昨日と違い,私にのみ冷たい.

一瞬で理解した,始まったんだなぁと.



「来たぜ,法螺吹き女が」

「あぁ,こんな人がこの学校にのうのうと居るだなんて,嫌ですよねぇ」



予想を裏切らない展開に,私は少なからず喜んでしまう.

無音で軋む心の悲しみを聞かなかったことにして.

教室に,虎太くんはいないようだ.



「おはよう,降矢くん」

「話し掛けるなよ,クズがうつるだろ」

「…もうすぐ授業始まるよ」

「あ?何指図してんだよ.うぜぇ」


降矢凰壮くん,彼はかなり態度が悪い.

こんなことをされる覚えは微塵にもないけれど,ここは耐えるしかないの.

まだ,始まったばかりで音を上げられないから.



「やば,ルーズリーフなくなっちゃった…」



何もこんな日に限っての不運で,ルーズリーフを切らすなんて.

キョロキョロと周りを見て,隣の席の子に声を掛けることにした.

いつもは,そこそこ会話もするし,仲が悪くはなかった女の子.


「…ねぇ,●●さん」

「っ!」


●●さんにお願いして一枚恵んでもらおうと,軽く声を掛ける.

だけど,目が合った瞬間に逸らされて,脇を向かれてしまった.

ならば,逆側の××くんに頼んでみようか.


「あ,あの…××くん,ルーズリー…」

「ごめんっ」


同じように,そっぽを向かれてしまった.

…あー…そっか,もうこんなに影響し始めてるんだ,早いなぁ.

今朝のアレを目撃したせいもあるのか,クラスメイトが私の存在を疎みしている.

とりあえず,しょうがないか…と,適当に使いかけのノートの最後のページを千切って使った.





「…お昼…誰も一緒に食べるわけない,か」




屋上にて,私は1人.

連れ添う友達がいるわけもなくて,お弁当を抱えてポツン.

これがハブられるって感覚なのかな.

でも,これで上手くいってるんだよね?

1人で食べるお弁当は,まるで味を無くしたかのように私の舌の感覚を奪っていた.





「シェリア,あの…ちょっと…」


耳に響いた,安らぎの声.

こんなに心地よく,私を振り向かせてくれるのなんて,一人だけしかいない.


「虎太…くん…」


会いたいと思えば,いつだって会いにきてくれる.

なんで,虎太くんはこんなに優しいの?



「ここにいると思った…1人だよな?」

「そうだよ」

「あいつらが,ごめんな」

「虎太くんが謝ることでもないし,二人は悪くないよ.兄の復讐をしてるだけで,本来は悪い事なんてひとつもないの」

「…初日なのに,散々だったろう.あいつら,相当根回ししたみたいだぜ」

「そうだね」

「辛い,よな…」

「辛いよ.でも,まだ…全然なの.こんなもんじゃ駄目.もっと,もーっとコンデンサを溜めるには,今以上にやってもらわなきゃ」


だって,まだ生きていたいんだもの.

それでもし,無事に生きていられたらね,私虎太くんに伝えたいことがあるの.

ふふっと笑えば,苦しそうな顔をする虎太くん.

どうして,そんなに悲しそうな,苦しそうな顔するんだろう.


「シェリア…」

「どうしたの?」

「お前,なんで笑ってられるんだよ…」

「だってこんなに上手くいくなんて思ってなかったもの!処分のことだって,校長のことだって,いじめのことだって,ぜーんぶ思い通りに進んでるでしょう?」


なのに,虎太くんは,どうして喜んでくれないの?

私,頑張ってるのに…まだ,足りない?

ねぇ,もっともっと頑張れば,凄いな,良くやったって褒めてくれる?



「…頼むから,これ以上は…もう」

「大丈夫!私,こんな程度で折れたりしないもん!だから,虎太くんはもう行って.今ので,すっごく元気もらったから,また頑張れそうだよ」

「シェリア…」

「一緒にいるとこ,人に見られたらまずいから,早く行って!」


虎太くんは,私に何か言おうとしていた.

でも,それを聞いちゃいけないような気がして,思わず早口で捲くし立てる.


「連絡は,携帯だけでいいよ.学校ではもう会わないからね」

「お,おい!」


誰かに二人だけでいるところを見られるわけにはいかないの.

今はまだ,その腕にすがって良い時じゃない.

半ば追い出すように虎太くんを遠ざけて,少し時間をおいてから教室に戻る.

部屋に入った瞬間,騒いでいたクラスがしんっとしてしまったけれど.

マナーモードにしている携帯が揺れるのを感じて,口元を緩ませながら席に着いた.




タイムリミットまであと19日.





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