おうちにようじょがやってきた36


俺は常々疑問に思っていた.

なんでシェリアは俺達に敬語なんだろう,と.



「ことば?いんちょセンセにおしえてもらったデス」

「…それで敬語なのか?」

「けいご?」

「その…語尾にですとかますとか付けたりすることだよ」

「ごび?」

「話の最後にってこと.文章とか言葉の終わりにつけるだろ?」

「…むずかしいはなし,わからない」

「あー…うーんと…だな」


駄目だった.

こういうのは竜持向きだ.

俺は世話好きだが,教えるのは得意じゃない.


「なんていうのが,せいかいデスか?」

「正解はないけど,気になったんだよ.なんでお前はそんな口調なんだろうなって」

「…なんで?」

「俺が聞きたいんだって」


オウム返しが得意なシェリアの質問に答えてやれるわけがない.

というか,竜持も敬語だもんな.

意味とかないと思うんだ.




「で,凰壮は俺に聞くのか」

「おう」

「俺が知ってるとでも思うか?」

「…まぁ,一応念のためだよ.あんまり期待は…」

「なら他所を当たれ」


虎太に一蹴されて向かうのは竜持.

しかし,同じように一蹴されて聞く宛てをなくした.

父さんに効くのは癪だったのでやめたというのは内緒だぞ.



「おーぞにい!」

「どうした」

「あのね,デスとマスやめたら,うれしい?」

「そりゃ嬉しいだろ!なんていうか,堅苦しい敬語なんてのは他人行儀に聞えなくもないしな」

「たに…ぎょぎ?」

「他人行儀ってのは,あー…なんか家族なのに家族じゃないみたいとか,壁を感じるっていうか…その,まぁアレだ」

「アレ?」

「俺にも上手く言えないから忘れろ」

「うん?」


というのは嘘で,後でちゃんと意味を調べて教えてやろう.

もしくは竜持に頼んで説明してもらうかだな.

自分で蒔いた種くらいは回収しておかねば.


「で,僕のところにまた来たんですか」

「いや…うん」

「おい竜持.俺のくつ下しらないか」

「虎太くんのは見てませんよ.洗濯物に紛れてるんじゃないですか?よく探してくださいよ…」

「あ,虎太」


三つ子大集合.

そうだよな,言葉に壁を感じるとか感じないとかって俺の偏見なのかもしれないけど.

でも,やっぱり慣れとか習慣ならしょうがないもんな.

諦めかけて,縁側に腰を降ろす.



「おい,おーぞにい!」

「「「えっ」」」

「きけ!」



おい!??

今シェリアが俺においって言わなかったか?



「シェリアさん!?」

「おやつつくれ」

「な………生意気な物言いだな……」

「こたにい」

「どうした」

「だっこしろ!」

「お安い御用だ」


いや,虎太はなんでそんなナチュラルに受け止めてるんだ.

竜持のハラハラした顔も相当だが,虎太の天然にも驚きだった.



「どっどどどうしたんですか,そんな言葉遣いして!めっ!」

「おーぞにいがゆった.けいご…やめると,うれしい」

「おーうーぞーうーくーん?」

「ちょ,俺は決してそういう意味で言ってない!誤解だ!誤解してるんだ!」

「シェリアさん,駄目ですよ.そんな言葉遣いは,よろしくありません」

「うるさい!るーじにいは,せんたくをたため!」

「!」

「おい,竜持!?おい,しっかりしろ!」


竜持がノックアウト.

虎太に抱っこされたシェリアが満足げに言う.

思ったよりも命令口調がストレートに刺さるようだ.

俺もおやつ作れって言われたしな.


「シェリア,そういうときにはな,言葉の最後になのとかだよとか付ければいいんだぞ」

「なの?だよ?」

「そうだ」

「わかったなのー?」

「惜しいぞ.わかったのだったり,わかったよって言えばいいんだ」

「わかったのよ」

「…まぁそれでもいいか」


虎太とシェリアがほのぼのしている.

あれこれ丸く収まるんじゃね?

しばらく見守ろうとしたが,蘇った竜持が断固反対した.


「ちょっと,やめましょうよ!こういうのは良くないです」

「それ,お前が敬語だからシェリアとお揃いで嬉しいなーとか思ってるからじゃねぇのか?」


まさにグサッとささる一言を,今度は虎太に言われてしまった竜持.

怯んでみせたが,すぐに反論を繰り出す.


「いやいや!そうはいきません.将来の事を考えた上で,僕は今までの口調を推奨してるんです!確かに敬語以外も必要ではあると思いますが,日常生活になんら問題をきたすわけでもありません!だから敬語のまま,シェリアさんの話しやすい方法が一番なんです!!」

「落ち着け竜持」

「おちつけるーじにい」

「言ってる側からぁああああ駄目ですってば!!」

「俺はこっちの方が可愛いと思うんだがな」

「俺も」

「多数決の原理を使おうだなんて非道ですね…」

「三つ子だからな」

「三つ子だしな」

「みつごだからなのよ」

「シェリアさんまで!」


散々に竜持を打ちのめして,結局収まりがつかないまま.

出した答えは,シェリアの好きにさせるということ.

敬語使いたいときは使っていいし,言葉に捕われずに遠慮なく何でも話せばいいということになった.






―妹は,壁を跨ぐも壊すも良し―





数日後,俺は竜持とシェリアの会話を聞いてしまった.


「あのね,るーじにい」

「はい?」

「ワタシ,るーじにいのおしゃべりことば,すきよ」

「…シェリアさんっ!」

「けいごとそうでないことばのちがい,わからないケド,わたし,いろんなことばしるのたのしいデス」

「そうですねっ!何事も知ることは大事ですもんね!シェリアさんの好きなように好きな言葉を使えばいいんですよ!そうすれば,わかることもたくさんありますから」

「うんっ」


なんやかんやで,甘いな竜持も.

シェリアに好きって言われたのはちょっと妬けるけど.

妹の自然なフォローで俺達三つ子はこうやってまとまれる.

まるで,これじゃあ俺らが弟みてぇだな….



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