アンハッピーコンデンサ08
翌朝,俺は竜持と凰壮に周りを固められて登校.
クソ熱いサンドイッチ状態.
今日の課題としては校長室の前でシェリアと一緒に乗り込む予定.
なのに,コイツらは離れない.
「あ,シェリア…」
「…虎太く「どけよ,ブス」」
凰壮が肩を手で弾く.
あからさまな態度に,分かりやすい言葉.
「朝から貴女の顔を見るなんて,今日は最悪ですね.消えてくれればいいのに」
「…っ,それはご生憎様だね.私も二人には会いたくなかったなぁ」
「なんだと?喧嘩売ってんのか!ぶっとばすぞ」
「やれるもんならやれば?ここ,校長室の前だし.なんなら叫ぼうか?降矢くんが暴力を振るってきます助けてぇって」
「てめぇ…!」
「凰壮くん,挑発ですよ.簡単に乗っからないでください.僕達まで次元が低くみられるなんてごめんですから」
会って早々に,この始末.
俺が口を挟む間なんてない.
それにしてもシェリアのくせに,よくあんな態度が取れたもんだ.
だけど,今までのシェリアを知っている俺には,今にも逃げたそうにして頑張ってるのがわかった.
「君達!何を騒いでる!」
先生が向こうから来ているので,強制的に言い合いは止まった.
凰壮と竜持はしぶしぶ教室に戻り,俺とシェリアの最終打ち合わせ.
「虎太くん,何があっても私に合わせてね」
「おい,作戦は?」
「これ…デジカメ渡すから,私が撮ってって言ったらすぐに写真に収めて」
「…どういうことだ?」
「私,先に校長室入るよ.呼ぶまで入っちゃ駄目だからね!」
「あ,おいっ!」
シェリアは,単身で校長室に入っていった.
…どうすればいい,俺はこのまま待機か.
校長室の中が,静かすぎてなんだか妙な空気を出している.
「虎太くん!今だよ!」
「あ,あぁ!」
声が聞えて,俺は急いでカメラを構えた.
戸を開けて目に写ったのは,校長に組み敷かれたシェリア.
既に連射になっていたカメラのフラッシュは,それを何度も捕らえた.
「…校長センセ,これはスクープですよね?」
「君…まさか最初から…」
「ごめんなさい,こうでもしないと…言う事聞いてくれないでしょ,センセ?」
「く,クソがあああああこの小娘!貴様もそれを寄越せ!」
「駄目よ,虎太くん.絶対に渡さないで」
太った校長を避けるは容易い.
転がった豚を踏みつけるように,俺は睨み付ける.
「校長センセ…私達二人の処分は,どうなさいます?」
「ぐぬぬ…」
「この写真,マスコミは良い値段で買ってくれるかなぁ…」
「ひっ!やめてくれ!何でも言う事を聞こうじゃないか!それだけは,それだけは…」
「話の分かる人で助かります.じゃあ,今後この学校で私に起こることにも目を瞑って頂けますか?」
「な,何が起こると言うんだ!これ以上メディアの餌になるようなことは…」
まるで今のシェリアは,俺の知ってるシェリアではないような気がした.
酷く歪んで見えるその笑顔は,あの笑顔とは正反対だ.
俺の心臓は,1人で勝手に鼓動が早まっていく.
恐ろしいのは,竜持でも凰壮でもない.
今や,このシェリアだった.
「このデータは,事が終わるまで預かりますね.後に処分はしますけど」
「何でも言うことを聞く…だからマスコミには…」
「渡しませんよ,ご安心ください.なんなら約束に一発ヤらせてあげましょうか?」
「シェリア!」
「冗談だよ,虎太くん?本気にしないでよ」
「…お前,ちょっと変だぞ」
「変ってどこが?私は普通だよ」
ふにゃっと笑うのはシェリアのはずなのに,俺にはそうは見えない.
そこに立っている女は,シェリアの顔した別の生き物のようだ.
「校長センセ,余計なことしたら…分かってますよね」
「あ,あぁ…私は何も知らない.君達は無罪,処分なしだ!」
「良かったね,虎太くん.そうと決まれば,教室に戻ろう」
「…そう,だな」
手を引かれて校長室を出ると,シェリアはその場にしゃがみ込んで溜息を零した.
「こわ,かったぁ…」
「大丈夫か?何もされてないか?」
「…うん,未遂だから平気だよ.ごめんなさい,心配かけちゃって…」
「こういうことするなら,事前に話しとけよ」
「だって,虎太くん絶対反対するでしょ…言えるわけないよ」
「当たり前だろ!」
「それに決めたんだよ.1人でやれることはやらなきゃ,辛いことも割り切らなきゃって」
なんだよ,それ.
なんでも1人で背負い込んでいくってか.
昨日俺が言いたかったのは,そんなことじゃない.
俺とシェリアの考えに,大きなズレを見つけてしまった.
「でも,これで分かったよ.私,頑張れば何でも出来るんだってことが」
それは,この状況で適合して欲しくない言葉.
違うだろ,そんな頑張りなんていらないんだ.
なのにコイツは,間違った方向を見つめているのに気付いていない.
「見て!コンデンサだってこーんなに増えたよ?」
確かに,今朝の喧嘩に校長への脅し,効果は抜群だろう.
不幸を呼ぶには十分な条件すぎる.
一気に増えたコンデンサは,40%近くにまで達していた.
「シェリア,俺は…」
「虎太くんが味方してくれるからね,私,こんなに頑張れるんだよ.ありがとう,冷静になって考えればいろんなことを思い付くことができるの」
俺が好きな笑顔で,そんなこと言うなよ.
お前は間違ってると言えない自分を殴りたい.
シェリアは頭がいい,でもきっとそれは隠された牙だ.
俺が,俺がその牙を研いでいるというなら,笑えない状況に違いないな.
「…お前の罰は,俺の罰だ.俺派,お前と運命共同体だ」
「虎太くんってば,大袈裟だよ」
シェリアをこんなふうにしてしまったのは,間違いなく俺.
だからせめて,コイツの生んだ悪意が,どうか俺に返ってきますように.
タイムリミットまであと20日.