アンハッピーコンデンサ07


あいつが部屋に飛び込んできたとき,俺は激しい動揺に襲われた.

なんで,ここにいるんだ.

おまけに,騒いで自殺まがいのことを言い出す始末.

驚きのショックで死にそうになったのはこっちだぞ.


「あのね,私に考えがあるんだけど…」

「それはいいが,その前に…約束してほしいことがある」

「ん?」

「今後一切,死ぬとか言うな」


それは,俺達のゴールでもあった言葉.

こいつが死んでしまえば,俺が頑張ってる意味もなくなる.

勿論自分だけのためじゃない.

おかしいだろ,少し前まで…こんなこと思うことなんてなかったのにな.

今では,死んで欲しくない.

いや,死なせないっていう使命感まで湧いてくるんだ.


「それが守れないってなら,俺はもう二度と手を貸さない」

「ごめんなさい…あれはその,勢いで口走ったりしたんだけど,もう二度と言わない」

「信じるぞ」

「約束破ったら,針千本飲むもん!」

「…ばーか」


デコを突いて,シェリアを少し怯ませた.

泣き腫らした目で,作ったように無理な笑いを見せて,ちょっと腹が立つ.

なんで,俺はこいつにこんな顔をさせてるんだろうな.


「で,考えってのは?」

「私がものすごく悪い事をすればいい.友達も家族からも嫌われて,居るだけで最悪な人になればいいんだよ」

「…それは無理があるだろ」

「ううん,出来るよ.虎太くんの力を貸してもらえるなら,絶対に上手くいく」

「確信でもあるのか?」

「…虎太くんの弟を利用させてもらう」

「あいつらを?」


シェリアは,いつになく落ち着いた雰囲気を纏っていた.

こいつ,普段は相当抜けてるけど,実はキレ者なのかもしれないな.

というか,本当にあのシェリアなのかっていうくらいだぞ.


「虎太くんが二人に言えばいいんだよ.シェリアに裏切られたって」

「お前…それは!」

「そうすれば絶対に釣れるから.二人が虎太くんを思う気持ちを利用するっていうのは本当に申し訳ないんだけど…これなら確実に上手くいくよ」

「それで,お前が嫌われてどうするんだ」

「三つ子に目を付けられた私ってだけで,側に居て欲しくないでしょう?」

「…お前はそれでいいのかよ.本気で言ってるのか?」

「うん.私ね,死ぬのは怖いけど傷つくことは怖くないよ.だから,手を貸してくれないかな…」


そう言ったシェリアは,曇った表情だ.

心中を察する,とは言いきれない.

でも,あんなに弱かったシェリアがその覚悟を口にするのを考えれば,きっと精一杯悩んだ答えなんだろう.


「わかった.だけど,今までみたいに学校では会うことはなくなるだろうな」

「ちょっと寂しいけど,耐えられないことじゃない」

「…強くなったな,急に.何がそんなにお前を変えてるんだ?」

「内緒…というか上手く言葉に出来ないんだ.でも,一番は虎太くんだよ.私にとって虎太くんの存在が一番大きな変化をもたらしてると思う」

「…お前,ホント空気読んで今そういうこと言うなよ」

「えっ!私またマズイこと言った!?」


俺の影響…か.

馬鹿だろコイツ,なんで俺の決心を鈍らせるんだ.

せっかく,俺だって一人で頑張ろうってのに.


「離れられねぇだろうが」

「ひゃああ」

「いいか,何があってもまずは俺に連絡しろ.離れてても俺達は一緒だ.いつでも傍にる」

「…うんっ!」


ぐいっと引き寄せて,しばらく腕の中に閉じ込める.

こんなにも華奢な身体と繊細な心が,これからくる重圧に潰されないようにと祈って.






「竜持,凰壮…少し話がある」


シェリアと別れて,真っ先に家に向かう.

二人は俺から話を始めたことに驚いた様子だった.

だけど,俺が一言シェリアのことを口に出せば,その表情が見る見る険しくなっていった.


「シェリアに裏切られたんだ」

「「!!」」


その言葉を言った瞬間,二人の目がとても冷たいものになった.

嘘八百を並べて,シェリアをとにかく悪く言う.

最低だな,最低だけど,俺にはこうすることしかできなかった.

あいつの気持ちと覚悟を支えてやれるのは俺だけだ.

俺がここで妙な気を起して,あいつを裏切るわけにはいかない.


「シェリアさんが…!許せませんね」

「やっぱりアイツが悪いんじゃねぇか…!クソが…こんなことなら一発くらい殴ってやれば…」

「どういうことだ?」

「凰壮くん!」

「あ,いや…なんでもねぇよ」

「お前ら,シェリアに何かしたのか?」

「いいえ,虎太くんの耳に入れるようなことは何も.そうですよね,凰壮くん」

「あぁ…」


シェリアが言わなかっただけで,コイツはコイツらで動いてるんだな.

凰壮も竜持も俺の言葉は信じてくれたみたいだ.


「…安心してください,虎太くん」

「あ?」

「僕が,必ず彼女に復讐してあげますから」

「…俺だって黙ってるつもりはねぇぜ.ま,悪いようにはしねぇよ」


笑ったこの二人が描く地獄絵図.

俺は,後悔に膝を付きたくなってしまった.

…ごめん,シェリア.

本当は止めるべきだったのかもしれない,こんなこと.

時間が戻らないこの歯痒さが,今の俺の足枷になるばかりだった.




タイムリミットまであと21日.






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