※現パロ










私の近所には少し困ったクセをもつ男の子がいる。私よりも三つ下で、平均より背が小さい上にとてもかわいい顔立ちだったから、私は彼をひどく可愛がっていた。彼は一人っ子でよく私の家に泊まったりしていたから、彼もすごく私に懐いてくれていると思う。毎日わざわざ私の部屋に忍び込んで起こしに来てくれるのだから、多分、懐かれてる。


そして彼の困ったクセというのは、小さい頃からのものが治らずにきたもので。



「、った!」

「んむ」

「っもう、ナルト!噛まないの!」

「んー、むいらってば」

「そのクセ治してよ…」

「やら」



指先に走ったするどい小さな刺激に思わず声をあげても、ナルトは片眉をひょいとあげるだけでその口にくわえた私の指はいまだもごもごとしゃぶられるだけ。いつも通りの感覚に、いつも通りそのまま放置した。いまさら恥ずかしがったり、頭ごなしに叱ったりしても無駄だろう。さっきまで大人しく隣で一緒にバラエティを見ていたはずなのに、何か彼を不安にさせるようなことがあったのか。


彼の困ったクセ、というのは、噛み癖だ。本人曰く「おいしそう」と思ったものにパッと噛み付いてしまうらしい。もちろんガリッと痛いようなものじゃなく、チクリとする甘噛み。幼い頃はそれこそおままごとに使うにんじんのオモチャにすら噛み付いていた彼だけど、中学、高校と学年が上がっていくにつれてどんどん噛む範囲が狭まっていった。そりゃあ、少なくとも私より大きくなったら誰彼かまわず噛み付いていたら怖いもの。まあその、外でやらなくなったはいいのだけど、彼は、私にだけ噛み付くようになったのだ。1番一緒にいて手っ取り早いから、というのは分かるし、甘噛みだからちょっと跡が残るだけなのだけど、最近はすこし頻発している気がしてならない。



「…あの、ナルト?」

「む?」

「も、もういいんじゃない、の?」

「わり、痛かったってば?」

「いや、ちょっとくすぐったいくらいだけと…」

「ならいいじゃねェか。姉ちゃんうまいから止められないんだってばよ」

「え…えぇ…」



そんな食べ物みたいに言うものなのだろうか。しかも人がおいしいってどういうことだ…、なんて考えるのもいまさらだ。昔から、なぜか私に噛み付いたあとだけ「おいしかった」と感想を述べていたのだからあまり珍しいことじゃない。人に噛み付いておいしいと感じるのは世間的にすこしいただけないかもしれないけど、私にしては、ナルトが唯一私にだけ甘えているような勘違いを呼び起こすので、嫌じゃない。私はマゾヒストでもないけど、ナルトからの愛情表現が噛み付くことならそれはそれでいい気もするのだ。


「…姉ちゃん」いつの間にか私のパーカーを脱がしにきていたナルトの手を制止したら、多少不機嫌そうな声とともにじとりと睨まれた。よくわからずに首を傾げれば、ますます眉間にシワが寄る。声もどんどんドスのきいた声音になってきた。



「いま何考えてたってば」

「と、特になにも…」

「…ふぅん」

「、わ!ちょっ、ナルト!」

「ん?」

「何して…っちょっと!どこ噛んでんの!」

「くび」

「はあ!?」

「姉ちゃんってばうまそうだからさァ」



顔は見えないけれど、嬉しそうにくすくす笑ってるのはわかった。無邪気で、昔とまったく変わらない金色の髪。首元っていう急所を噛まれたからだろうか、それとも別のなにかか、私の腰は完全に引いていて。思わずのけ反るとますますナルトが覆いかぶさってくるだけだった。逃げ場がない、そのことが拍車をかけるように焦らせる。じわりと背中になにかが流れた。


私のささやかな抵抗も、ナルトは関係ないと言わんばかりにすべて一蹴する。右肩だけ脱がされてしまった肩はさっきの噛み付きとは反対に、上下の唇で優しくはさみこむように食まれていた。



「なる、っぅあ」

「…なんで逃げるんだってば?」

「に、逃げてなんか、」

「こわい?」

「っ、」

「オレのこと、怖い?」



疑問符が付く命令。暗にしのばされた言葉の意味。首筋に、優しく宛がわれた固い犬歯が食い込む。どくりと高鳴った心臓は、焦って何をしたいのか分からなくなったようで、ぎゅうと縮こまっているようだった。足が震えているのが、視覚でしかわからない。もう感覚が麻痺しているのだ。ふ、と首にあたる生温い吐息だけがやんわりと本能的な危険を察知していた。ざらざらした感触がねっとりと肌にはりつく。



「姉ちゃんうまいから、オレってば喰っちまいそう」



冗談ぽく跳ね上がった語尾とは正反対の重さで首元を流れていくそれは、血か、唾液か、汗か。いずれにせよ、彼の歪んだ愛情表現を具現化したものだということに変わりはなかった。










(110916/↑)
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