本日の日付は皆様のご想像にお任せします



「ねえ苗木くん、エイプリルフールを知っているかしら?」

朝の食堂でそう言った霧切さんの言葉から、ボクの災難は始まったんだと思う。
思うというか…間違いなくそうだ。




「エイプリルフール…って唯一嘘をついてもいい日…のことだったよね」
「ええ。…それ、今日なのよ」
「…へ?」

とても普段の霧切さんから出るような話題ではないことに驚いて間抜けな声を出してしまったけれど、霧切さんの表情はいたって真面目だった。

校内にはカレンダーがあるけど、外が見えないうえ空調だって完璧だから、今がいつの時期なんていうのは分からない。

「でもどうして突然そんな…?」
「実はそのことで、苗木くんにお願いがあるの」
「お願い?」


すると霧切さんは紙袋を差し出した。


「これを着て、十神くんを驚かせてほしいの」
「えぇっ!?」


と、十神クンを…!?
思いもよらない人物の名前を出されて驚いたボクは、とりあえずその紙袋の中を覗いた。


そして後悔すると同時に、さらに驚いた。

「こ、これ…って…まさかと思うけど…」
「まさかと思わなくても、スカートよ」

間違いなくボクの表情はひきつっている。それでも霧切さんは真剣な面持ちのままだ。

「でも、どうしてボクなの?驚かせるなら他にもっと方法が…」
「それは、俺の占いでそう出たからだべ!」
「は、葉隠クン!?」

唐突に背後に現れたのは葉隠クンだった。
自身に満ち溢れた顔で言ってのけた葉隠クンは、念を押すようにビシっとボクを指差して叫ぶ。

「俺の占いは3割当たる!」
「それとこれと何の関係が!?」
「諦めて苗木くん。もうみんなの賛成意見はもらっているの」


い、いつの間に…!?
さらに葉隠クンに続くように、山田君とセレスさんが食堂へ入ってきた。


「いやはや、安心してくれて構いませんぞ苗木誠殿。似合いそうな服をボクとセレス殿で見繕ってきましたからね!」
「ええ。わたくしのお気に入りのひとつですわ。……まさか、ここまでされて着ないなどと…言いませんわよね?」
「うっ…」

セレスさんの笑顔が怖い…。
ここで「着ない」なんて言える勇気は、ボクには無かった。


そんな中、食堂へ江ノ島さんが入ってきた。
一瞬驚いた顔をした江ノ島さんは、すぐに笑顔に戻って、小さな袋をボクに渡す。
いやな予感がする…


「あの、江ノ島さん、これって…」
「え、これ?昨日言ってたヤツ!ほら、ウィッグ!」

ど、どれだけ本格的にするつもりなんだ…!

「ちょ、ちょっと待ってよ!ボク、こんな服着かたがわからないし、ウィッグだって…!」
「問題ないわ。私が責任を持って着替えさせるもの。さあ、浴場に行きましょうか」


一瞬にしてボクの反論を論破した霧切さんがボクの腕を掴んで浴場の更衣室へ向かおうとした時、それを阻止する声があった。

「待ってください!」
「ま、舞園さん…!」

ああ良かった。やっぱりボクが女装するなんて変だよな。
誰か一人くらい止める人が居てくれたっておかしくない――

「私は苗木君の助手ですから、苗木くんの着替えは私が手伝います!」
「……はい?」

あまりにも予想外すぎて、ボクは言葉を失った。
そんなボクに追い討ちをかけるように、のんきな声が割って入ってきた。

「あー、待って待って!ほらこれ必要でしょ、胸パッドと化粧道具!」
「モノクマ…お前まで…!」
「うぷぷぷ。どうしたの苗木君、そんなに嬉しいの?感謝の言葉はいらないよ、だってボクは、オマエラの喜ぶ顔が見たいだけだからね!」

感謝どころか恨むぞモノクマ…!山田くんは親指立てて「グッジョブ!」って言ってる…

ボクがショックでうなだれているうちに、霧切さんと舞園さんは何故か握手をしていた。
不思議に思っていると、二人がボクの両脇を固めて、ずるずると引きずっていく。

「あ、あのー…霧切さん、舞園さん?」
「心配しなくてもいいですよ、苗木君」
「今、彼女とは協定を結んだの。だから安心して」

何を安心しろっていうんだよ!?

そんなボクの叫びはむなしく、浴場でやたらとコンビネーションのいい二人に着替えさせられてしまった。

そして…


「こら、苗木!動いちゃ駄目だってば!」

朝日奈さんがボクの肩を押さえながら言う。
後から合流してきた朝日奈さん、大神さん、不二咲さん、桑田クン、大和田クン、石丸クン…そして何故かジェノサイダー化している腐川さんの6人がそれぞれ色んな表情をしてこっちを見ていた。

ボクは今、江ノ島さんに化粧をされている真っ最中だ。

朝日奈さんはボクが動かないように肩をおさえていて、大神さんは静かにこちらを見ている。おろおろしている不二咲さんを、大和田クンがなだめてるし、桑田クンは笑うのを我慢してるみたいでぷるぷる震えていた。石丸クンは、「学園の催し物には真剣に取り組みたまえよ、苗木君!」と何故か張り切っている。
それでジェノサイダーは…

……

一瞬目があったけど、すぐに逸らした。
危ない…なんか目つきがギラギラしてるし…それにしても、十神くんを驚かすっていう計画なのによく協力してくれたなー…

「それは、普段見れない十神くんの姿を見れますよってお話ししたからです」
「どうして分かるのっ!?」
「エスパーですから」

きっぱり言い放つ舞園さん…普段ならかわいいと思えるし、今だってそうなんだけど、こんな格好をしている恥ずかしさがそれを上回る。

「よーっし完成!これでいいんじゃない?」

江ノ島さんの言葉に、それまで周りで時間を潰していた皆も集まってきた。

「わあ、すっごい苗木!似合ってるよ!」
「うん。ぜんぜん嬉しくないよ…大神さんまで頷かないで…!」

他の皆も満足しているみたいだった。
唯一戸惑いを示しているみたいだった不二咲さんの方をちらりと見ると、

「すごい…ホントに似合ってるね…」
とどこか気遣うような響きの言葉をかけられた。

男子が女子の格好をするなんて不健全だ、と言いそうな石丸クンは、「これも皆の努力が実った結果だ!」と笑顔だ。満面の笑みだ…
さっきからじっと黙っているジェノサイダーの息遣いが荒くて怖いし。

「さて、そろそろ十神くんが来る頃ね」
「ほ、ホントにするの…?」
「もちろんよ、エイプリルフールだもの。『実は女の子だった』という言葉もつけてね」
「うう…」

皆からの圧力が凄い…

妙な静けさの中、不機嫌が伝わってくる足音が聞こえて、ボクの心拍数が一気に上昇した。

「来たわね…」

霧切さんの言葉通り、十神君が食堂に現れた。


「おい、なんのつもりだこのメモは…」

十神クンが見せたのは、12時…ちょうど今ごろの時間に、食堂に来いという内容のメモだった。
でも、ボクの方を見た瞬間、彼にしては珍しい驚いた表情になった。それもすぐに不機嫌なものに戻ったけれど。

「苗木…なんだその格好は。ふざけているのか」
「そ、そうじゃないんだ…ええと、その…」

もうここまでやってしまったんだ。今さら逃げたところで何も変わらない。
何故か「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ」って言いそうになったけれど、ぐっと決意を固めて、ボクは十神くんを見上げた。

「ボ、ボク……実はお、女の子だったんだ!」


静寂だった。
離れたところにあるはずの時計の秒針ががち、こちと時を刻む音すら聞こえるほどだ。
永遠とも思えるそれは一瞬だったようで、十神くんは見下しきった目でこっちを見ている。

「何を馬鹿なことを…」

思いっきり失敗したよ、霧切さん…
でも霧切さんは気にした風も無くボクの背後に歩み寄り…

「ひゃっ、うわぁ!?」

…何故か胸を鷲づかみにされた。

「どうしてそう言いきれるのかしら、嘘だと思うのなら触ってみたらどうかしら」
「何だと…?」

正直言って、この状況は凄くつらい…この二人に挟まれて、なんだか火花が散ってるように見えて、加えて霧切さんの手はそのままだし…

後ろのほうで、石丸クンが「不健全だー!」と飛び出しかけたのを、「同姓同士ですもの、問題ありませんわ」と宥めるセレスさんの声。
そしてぼそっと「霧切っち、それセクハラだべ…」と葉隠クンが呟いている。

「おい苗木、お前の言っていることは本当なのか」
「えーと…」
「さっきから言っているじゃない、気になるなら、確かめればいいのよ」
「ちッ…苗木、来い!」
「へ、うわっ!」

ぐいっと引っ張られて、ボクは十神くんの部屋に引っ張られていった。


その後のことは……言いたくない。


ただ、あの日以来ジェノサイダーのテンションが高くて、モノクマが生暖かい目線をボクに向けてくるということだけは、付け加えておこう。




残念ながらカレンダーが行方不明です

(さて、今日は何月何日?)


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