憧憬


溢れ出す力の奔流が、全身を駆け巡る。
その勢いに任せて放った一撃で、魔獣の巨体がぐらりと傾いた。

「みんな!畳み掛けるぞ!」

そう叫ぶ自分の声は聞こえていた。
だが、仲間たちの応じる声は遠く感じる。もうそろそろ限界が近いのかもしれない。

もう一度魔獣へと攻撃を叩き込み距離をとる。
銃声と共に、数発の銃弾が確実にその体力を奪っていく。
ロイドのすぐ傍を駆け抜け、ランディがスタンハルバードを振り下ろす。重い一撃に、魔獣が苦悶の声をあげた。
「そこです!」というティオの声。魔導杖から放たれたエネルギー弾を弱った状態で避けれるはずもなく、魔獣は消滅した。


「はぁっ…これで、終わりか?みんな、大丈っ…」

大丈夫か。そう言おうとしたが、足がふらつき、バランスを崩してしまう。
しかし、背後にいたランディが支えてくれたため、その場に倒れることは無かった。


「おっと。大丈夫かロイド?……随分顔色が悪いな、立ってられるか?」
「あ、ああ…ありがとう。それより、皆も怪我は無いか?」
「私は平気よ、ティオちゃんはどう?」
「問題ありません。ロイドさん、回復アーツをかけますから、傷を見せてください」

ティオに言われて初めて、自分が腕に負っている怪我に気がついた。
柔らかな光に包まれ、痛みが引いていく。エリィが冷えた缶ジュースを4つ取り出して、そのうちの一つを差し出してくれた。

礼を言って受け取ろうとしたが、できなかった。
全身から力が抜けていく。支えてくれているランディが、慌てた声で自分の名を呼ぶのを、ロイドは薄れ行く意識の中で聞いた。



その後、目を覚ましたのは自室のベッドだった。
散々エリィとティオに無理を咎められ、ようやく解放された時には、もう夕食には丁度いい時間だった。
今日は自分の当番だ、と立ち上がろうとすると、ランディによって椅子に押し戻される。

「ランディ、何するんだよ」
「お前なあ。無理するなって言われた直後にそれか」
「へ…?」

エリィたちの方へ目を向ければ、二人ともうんうんと頷いている。
キーアにも、「ロイド、ムリしちゃダメだよー!」と怒られてしまった。

「俺って、そんなに信用ないのかな…」
「そういう訳じゃないさ。こういう場合を除いてだがな。…そんなに焦らなくても、俺はここに居るぜ」

思わず顔をばっと上げて、ランディを見つめる。彼は微笑んでいた。
自分は少なからず焦っていたのだろう。追いつきたいと、置いていかれてしまうのを、無意識の内に恐れていたのかもしれない。

「…ありがとう、ランディ」
「どういたしまして…っと、できたみたいだな」

いい匂いとともに、料理が運ばれてきた。
ロイドの頭をくしゃりと撫でると、自分の席へとランディは戻った。

「ロイド、どうかしたの?」
「え?」
料理を並べていくエリィの疑問に、首を傾げる。

「ロイド、顔まっ赤ー!」
「……ランディさん?」
ロイドの疑問に答えたキーアは笑顔だったが、ティオがランディに冷たい眼差しを向けた。

「悪いな、どうやらロイドくんはお兄さんの優しさに惚れちまったらしい。いやーモテる男は辛いぜ」

いつもの調子で交わされる会話に、ロイドは笑顔を浮かべた。


そして食事を終えると、ランディがすっと立ち上がり、ロイドの背後へと回った。

「お、おいランディ?」
「さて、罰ゲームがまだだったな」

そう言うが早いか、ロイドを椅子から立たせ、驚くロイドの隙をついて、ランディ抱き上げられてしまった。
いわゆる横抱きという状況だが、体勢が体勢であるし、女性陣の前ということもあって、恥ずかしさがこみ上げる。

「なっ…!」
「はいはい暴れるなよー」

エリィたちは、「まったく男の子って…」と呆れながらも、「仕方ないですね」とランディを止める気配も無い。
抵抗もろくにできず、部屋に連行されていく。

「そんなに恥ずかしがらなくてもいいだろ?お前が倒れたときもこうして運んだんだからな」

その光景を想像してしまい、余計に恥ずかしくなる。顔の赤さなどとっくにばれているけれど、これ以上見られたくなくて、ランディの肩に頭を預けるように押し付けた。
甘えている自覚はあったが、とにかく今はそうしたかった。ランディが笑った気配がした。だがとても今この状態で彼の顔を見れる気はしなかった。

「ランディ…その、もう部屋についたし降ろしてくれないか」
「ダメだ。寝るまで罰ゲーム続行だからな」

優しい声が降りてくる。こういう時のランデイは、卑怯だと思った。
部屋の鍵はあけてあったため、ランディは片足で、少し開いていた隙間から扉を開けた。
ベッドにそっと下ろされ、毛布をかけられた。
何もそこまでしなくてもと思ったが、抵抗する必要もないのでおとなしくしていることにした。

「…さ、安心して寝ていいぜ。寝るまで傍にいてやるからな」

優しく頭を撫でられる。
疲れが溜まっていたのか、安心しているのか、眠気はすぐに襲ってきた。



「おやすみ、ちゃんと休めよ」
その言葉と共に、柔らかな感触を額に感じたが、それを確認する前に意識は眠りに落ちいった。




憧憬の
(閉じられた瞳にキスを)




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