無自覚しんどろーむ


※限りなく終盤のネタばれ



「ラタトスク様…」
「僕は、エミルだよ。」

何故か、「ラタトスク様」と呼ばれると、もやりとした気持ちが広がる。
それは、「エミル」であった僕を否定されるのが嫌なのか、それとも・・・、

それとも、何?

ちくり、と胸を刺す感覚。

「(何、なんだろ、ほんとに)」

じわりじわりと胸を蝕んでいく。

「あ、っ…」


気づけば、涙が頬を伝っている。
止めようとしても止まる事はなく、ただただエミルの服を濡らしていくだけだった。

「エミル様?どうかなされたのですか?」

そこへ声がかかる。
おそらく胸の奥にある痛みの、原因である、

「てね、ブラエ」


Side:T


彼の顔を見た時、テネブラエは驚いた。

自分が「ラタトスク様」と彼を呼んだ時、ひどく傷ついた顔をした。

さらにそのうえ、現在。
彼は泣いていたのだ。

もう旅も終わりに近く、いまだに怖がりな所もあるが、芯は強く、めったに涙など見せなくなっていた彼が、大粒の涙をぼろぼろと。


「どうかされたのですか?」

そう声をかければ、潤んだ瞳がこちらを捉える。

しかし、視線はすぐに逸らされる。覗き込んでもまた逸らされる。

「どうしたのですか?」
もう一度聞いてみても、返事が返ってくることはない。

「テネブラエは、」
「はい?」

呟き、というより、囁きに近い小さな声。
不安気に揺れる瞳と声。

「…テネブラエは…テネブラエが僕に仕えてくれてるのは、僕がラタトスクだから、だよね?」


思わず、思考がとまりかけた。

Side:E

テネブラエが、止まった。

何というか、テネブラエの周りの時間が止まっちゃったように感じるくらいに、ぴたりと。

自分が言った言葉を、ひたすら後悔してしまう。
「はい」と肯定されるのが怖い。

どうしよう。
そう思ったときだった。

「そうですね、最初はそうでした。」
「え…」
「私は最初、あなたが「ラタトスク様」だから仕えていました。」
「っ!」
息が、つまる感覚。
今にも眩暈に襲われ倒れそうなくらいだ。

「しかし今、私は貴方がラタトスク様だから仕えている訳では無いのです。
…「エミル」様…「あなた」に仕えているのです。」

Side:T

らしくないと、思った。
しかし、自分が「エミル」という人格に惹かれた事は事実だった。
(これでは、アクアの事も笑えない)

「…!!」

彼が、驚いた顔をした。
驚いたひょうしに、涙も止まったらしい。

「せめて、せめてあなたが「エミル」様の間だけでも、私は「あなた」のセンチュリオンでいさせて、ください。」

そう言って、彼の傍に座った。



この恋が許されないものだとしても
(この心を持つことだけはどうか、許してください)





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