あなたの笑顔が好きでした。
あなたが笑ってくれると、心の中があたたかいもので満たされていくようでした。
ああ、でも今は、もう
夜。皆が寝静まった後、こっそりと抜け出す金色を見つけた。
どうやら眠れないらしい。
どこかに行こうとする彼の腕を掴んで、「何処へ行くのです?エミル」と問えば、眠れないから、風にでも当たろうと思っていた。と予想通りの言葉が返ってくる。
しかし、何も単に眠れないだけでは無いことは、分かっていた。
何故ならそれは、
彼が夢に、記憶に魘されるからだ。
遡る数十分前。
眠る彼が魘される。
悪夢だろうか。
いつもぼんやりしていたり、悲しそうな顔をしたり、笑ったりと忙しい表情は悲しげな苦悶を浮かべ、目尻にはうっすらと涙が月光に照らされている。
そして、紡がれた言葉。
「リヒ、ター…さ、ん…どうして…」
我ながら、夢での寝言に腹を立てるなど馬鹿らしいとは思ったが、どうしても奴に憎しみに近い苛立ちと怒りを感じる。
何故だと。
何故、かつての亡き友に影を重ねて彼に接していたのだ。
敵だと理解しながら、彼を揺れさせるのか。
これもまた、くだらない嫉妬心だとわかりつつも、そう思わずには居られなかった。
彼の苦しげな表情を少しでも和らげようと、頭をなでる。
「リ……さ、ん」
分かっていながらも、報われない恋心を抱く自分はなんと愚かなのだろうか。
「エミル…」
「ん…」
うっすらと、瞳が開かれた。
「…てね、ぶらえ?」
寝ぼけて呂律は回って居ないが、瞳の中に怯えと混乱が混じっている。以前彼の言っていた奴に殺される夢でも見たのだろうか。
「魘されていましたよ。悪い夢でもみたのですか?」
「う、ううん。大丈夫だよ。」
彼は笑って首を横に振る。
その度に少しはねてしまっている髪がひょこりと動くのも愛らしい。
「本当ですか?エミルの事だから、きっとお化けにおどかされる夢でも見たんでしょう?」
おどけて言ってみせれば、「ち、違うよ!」と返す。
「隠さなくても良いんですよ?ほら、横についていてあげますから」
そう言えば、「もう、テネブラェの陰険っ」と、おなじみとなってしまった台詞を言ってくれた。
そしてもう一度、布団代わりの厚手のマントを羽織り木にもたれた。
しかし眠れないようで、なんども寝返りを繰り返していた。
そして今、ここに至る。
「エミル」
「だ、大丈夫だよ!すぐそこまでだし…」
無理して笑顔をつくる彼を、思わず抱きしめそうになる。
やめておきなさい、と
言ってしまいたい。
ああ、きっとそれは無理なのでしょう。
あなたが、奴を思っている限りは。
いつから、あなたの笑顔を見るのが辛くなったのだろう。
「エミル」
「なに、テネブラエ?」
お願いですから、今だけは。
「エミル」
これは愚かで馬鹿馬鹿しい恋心。
これは滑稽でくだらない嫉妬心。
それでも、
今だけは、私のために
「笑っていて、ください。エミル」
あなたが笑ってくれるなら、
(僕はどんな努力でもしましょう。たとえそれが僕以外の誰かに向けられるものでも)
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