07
「う…」
エミルがうっすらと目を開けると、そこは見慣れない天井だった。
体を起こし、周囲を見回す。
体のだるさに、一体自分はどのくらい寝ていたのだろう、と目を閉じて考えた。
(確か僕、しいなとの戦いで気を失って…)
項垂れて、頭を右手で支えるように、額に添える。
(もしかして、意識を失う前の、あの声は…、)
その考えまで辿り着いた瞬間、部屋の扉が開かれた。
「あ、ロイド…それにコレットも」
顔を上げると、二人がほっとしたような表情を見せた。
「エミル、気がついたんだね。よかった…」
そう言ったコレットに同調して、ロイドも頷く。
「ああ、本当に良かったぜ。あの後からずっと眠りっぱなしだったからな」
「あの後って、」
「コレット、ロイド!僕達もう準備終わったよ…って、エミル!目が覚めたんだ!」
割って入って来た声はジーニアスだった。
ジーニアスもエミルを見て、笑顔を見せる。
「ねえジーニアス、準備って?」
エミルが尋ねると、ジーニアスは「そうだ!」と言って、慌てて部屋に置いてある荷物を指差した。
「パルマコスタ行きの船が見つかったから、準備してたんだよ。エミルが目覚め次第出発しよう、って」
「そうだったんだ…」
エミルはうつむく。
コレット達と共に行けるのはパルマコスタまでなのだ。
(僕がここに居て良い理由なんて無い。それに、早くテネブラエ達を目覚めさせないと…)
「エミル?」
はっと気がつけば、ジーニアスが不思議そうに見ている。
「まだ、気分悪かったりする?」
「ううん、大丈夫だよ。準備だよね?」
慌ててベッドから降りて、自分の荷物に手を伸ばした。
ざぷん、と揺れた水面にリフィルの顔色がさあっと青くなった。
「リフィルさん、大丈夫…ですか?」
「え、ええ…」
船の前で立ちつくしているリフィルに、エミルは遠慮がちに話しかける。
「どうしたんだ、先生?」
「顔色が悪いですよ〜?」
表情がわくわくしており、顔に「早く船に乗りたい」と書いているような表情をしたロイドとコレットは、リフィルを見て首をかしげる。
「ああ、姉さんは水が怖…いたっ!」
「ジーニアス?」
拳骨でジーニアスの言葉を中断させたリフィルは、自分から船の方へ歩いていった。
「えっと…、とりあえず僕達も乗ろう?」
エミルの一言で、全員が船へと乗り込んだ。
「うわあ!すっごい綺麗だよ!」
ロイド達は、海の方を見てはしゃいでいる。
リフィルはノイシュにしがみついて震えており、クラトスはいつものように無表情で海を眺めていた。
そんな中で、エミルは顔を上げ、思い切って切り出した。
「その…、皆さんに話したいことがあるんです。聞いてもらえませんか?」
全員がエミルに注目する。
「話したいこと?」
「うん。僕が遺跡の中に入れた理由、僕の旅の…理由を。」
エミルは、リフィルの方を向いた。
「リフィルさん、あなたは僕が魔物を行使できる事、そしてあの遺跡にいた事で、僕を疑っていた。」
リフィルは頷く。
「僕は…とある精霊を目覚めさせるために、旅をしているんです。だから、コレットを狙っているんじゃないんです。もちろん、狙っていないっていう証拠はありません。
でも…信じて欲しいんです。」
さぶん、という水の音と共に、船が揺れる。
しかし、リフィルが青ざめることは無かった。
心と共に、揺れる。
(きっと君が水面を揺らしたから。)
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