04
コアの光が、いっそう強くなったと思うと、エミルの額にあるラタトスク・コアへと吸い込まれた。
「テネブラエ…」
きみは、何を知ってるの?
つぶやきは部屋の静寂に吸い込まれた。
エミルは呆然としているロイドたちを振り返る。
「…手間を取らせてしまってすみませんでした。早く出ましょう?」
「あ、ああ」
足音だけが響き、妙な沈黙が流れる。そこで、ふとエミルの頭に疑問が浮かんだ。
いつもこういう時でも、コレットは微笑んでいて、自然と明るい空気が出来るほどだった。
振り返ってコレットの顔を見れば、顔色は青を通り越して白く、唇の色は紫で、立っているのもやっと、という状態に見えた。
「…コレット?」
目線が合うと、にこりとコレットは微笑んだ。
しかし、次の瞬間にぐらりと足元から崩れ落ちるように体が傾いた。
「コレット!」
なんとか受け止めることに成功したが、コレットは苦しそうなままだった。
「おい、コレット!」
ロイドもジーニアスも慌ててコレットの顔を覗き込む。
その様子を見たリフィルが、「天使疾患ね」と呟いた。
「天使、疾患?」
エミルが疑問を口にすれば、ジーニアスとロイドもリフィルに視線を向ける。
しかし、クラトスが早くこの場所を抜けたほうが良いと提案したために、その会話は断ち切られた。
コレットを抱きかかえ、なるべく揺らさないように走る。
ようやくトリエットについた頃には、すでに日は落ちていた。
宿屋でチェックインを済ませると、それぞれの部屋に入った。
最初は断ったのだが、結局押し切られてしまった。
「なあ、エミル」
隣のベッドに転がったロイドが、宿屋の天井に視線を向けながら、話しかけてくる。
「な…、何?」
エミルは体を起こし、ロイドの方を向く。
すると、ロイドも同じようにエミルの方を向いた。
「お前ってさ、何か不思議な奴だな」
「え?」
てっきり、神殿でのことでも聞かれるかと思っていたため、この質問には少し意表をつかれた。
「ふ、不思議?僕が?」
「ああ。だってあんなところに一人でいたし、やたらと強いし…なにかと気を使ってる、って感じがするんだよなー」
その一言に、どきりとした。
ばれていた?あの短い時間で?
「そうかな…それに、「僕」は強くなんか、無いよ」
絞りだした言葉は、ひどく弱弱しくて、情けなかった。
「でも、俺は強いと思うぜ?見ず知らずのコレット…っていうか俺達を必死に護ろうと戦ってたし、コレットが倒れたときも、すげえ心配そうな顔してたしな」
本当に、鋭いなあ…
苦笑いでごまかして、布団にもぐる。
「…おやすみ、ロイド」
「ああ、おやすみ」
そして翌日、思い切ってパルマコスタまでの同行を申し出た。
コレットに快諾され、エミルの同行は決定した。
さくり、と雪と土を踏む音。
つい昨日まで薄暗く曇っていた空は、その面影すらなく晴れ渡っていた。
「すごいや…本当に雪がやんでる…」
ジーニアスが、どこか呆然としたようにつぶやいた。
「うん。すごいねー」
昨日の事が嘘のように、体調の回復したコレットが微笑み、ジーニアスに同意する。
リフィルの探るような目線は変わらない。遺跡モードで迫られるよりは遥かにましかなと、エミルは思い、目線を前へ向けた。
「あれがオサ山道か?」
ロイドが指をさした先には、緑の、木の影で暑い日差しのやわらいだ、道だった。
パルマコスタに続く道、オサ山道。
初めは、なんともない(とはいっても魔物がいるが)、ただの通り道程度にしか、エミルは思っていなかったのだ。
木々の間から感じる僅かな殺気に、警戒してエミルは剣に手をかける。
そこから現れたのは、女性。
「この中に、再生の神子は…」
いるか、と続けようとしたが、それは止まる。
「…アステル?」
「!!!」
体が強張るのが分かる。
「…っあぁ…」
震えが止まらない。
しかし、はっと自分がすべきことを思い出した女性…暗殺者は、一番近くに居たコレットに札を向ける。
「と、とにかく、覚悟!」
が、悲劇はその直後に起こった。
攻撃に驚いたコレットが転び、レバーを切り替えたのだ。
そして切り替えられたレバーに連動し、しいなと、そしてエミルの足元に、暗く深い闇が口を開けた。
「う、わぁあああぁあっ!?」
「きゃぁああああぁっ!」
闇が静かに目を閉じる
(けれども光が差し込むことは無くて、)
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