03
コレットのおかげでロイドたちと一緒に行動できるようにはなったが、まだぴりぴりと警戒されているのが分かって、少しだけ、さびしかった。
前衛に立ち、剣を振るう。
炎を纏う、不思議な姿をした魔物…ファイアスピリットが苦悶の声をあげ、光となって消えてしまった。
ちらりと後ろをうかがう。
「…この先です。」
それだけ言うと、前を向いて、また歩き出す。
そうしないと、『ここ』へ来る前のロイド達を思い出してしまうからだ。
考え事をしながら歩いていたせいか、目の前の障害物に気がつかないまま、ぶつかってしまった。
「うわっ…!?」
見上げると、巨大な木の魔物が眠っている。見覚えがあった。たしか「前の旅」でここを訪れたときにも、この魔物はいた。
「なんだこいつ…!?」
ロイドが驚いた声を上げた。
「この魔物は…」
「エミル、あなたこの魔物を知っているの?」
「ええと、はい。この魔物はデナイドっていう名前で…本来なら暖かい所を好む魔物なんです。きっと、地上の寒さに耐えられなくて、ここに降りてきたんだと思います。でも…」
「でも?」
ジーニアスが首をかしげる。
「この魔物、眠っている間はどんな属性の攻撃でも吸収してしまうんです。」
「えぇっ!?じゃあどうするんだよ?」
ロイドが驚くのも無理は無かった。
初めて自分達が行ったときも、この魔物には苦労させられた。
「餌を与えれば良いのでは無いか?」
確か、クラトスと呼ばれていた傭兵の人だ。
「餌、ですか?」
コレットが頭上にクエスチョンマークを浮かべる。
「そうですね。それが一番でしょう。」
エミルは頷いたが、そこへリフィルが待ったをかけた。
「だったら、餌はどうするの?取りに行くのかしら?」
「いえ。…ここは、魔物の力を借りましょう。」
「魔物の力を?」
ジーニアスが、エミルの袖をくい、と引っ張った。
「ねえ、魔物の力を借りるって、どういうことなの?」
「えっと、それは…」
これは、言うべきなのだろうか。
魔物との契約。
これは普通の人には出来ないことなのだ。
(でも…)
やるしか、ない。
意を決し、再びジーニアスに視線を合わす。
「魔物と…契約するんだ。」
「契約ですって?」
リフィルが訝しげにこちらに視線を送る。探るような目線だ。
できるかどうかはわからなかったが、契約した魔物を呼び出すしか無い。
契約だってできたのだ。魔物に関してはテネブラエに頼りきりであったことを改めて思い知る。
(とにかく、落ち着ちつくんだ。お願い、僕に力を貸して…!)
トリエットから出る際、襲い掛かってきた魔物と偶然にも契約をしていたことは幸運であった。
いったんは(何故か居た)ねこにん達に預けていたが。
ぼう、と魔方陣が浮かぶ。
その中心から、アーケロンが現れた。
「ヴィラール!」
おもわず駆け寄って抱きしめる。
ヴィラールとは、アーケロンの名前だった。
「ありがとう、来てくれて」
「ま…魔物がっ!大丈夫なのか、エミル?」
ロイドが剣に手をかける。
「うん。この魔物は僕の仲間だから。平気だよ?えっと、それじゃあヴィラール、ちょっと引き付けてもらえるかな?」
ヴィラールは一鳴きすると、どす、どすと歩いていく。
その足音と、おそらくは餌の匂いに反応したデナイドが、目をばちりと開け、ヴィラールを追いかけはじめる。
「皆さんは今のうちに中へ!魔物は僕が仕留めます!」
剣を鞘から抜く。
「ヴィラール!」
掛け声に反応したヴィラールが、デナイドに体当たりをくらわせる。
ひるんだところへ秋沙雨をくらわせる。最後の一突きで巨体はどう、と倒れ、そこへヴィラールの魔術・・スプラッシュが発動した。
しかし、弱点の水の魔術を喰らったデナイドは、ひるんでそのまま逃げていってしまい、とどめをさすことは無かった。。
「ふう・・・」
戦いを終え、一息つくと、ロイドがこちらへ駆けてきた。
「エミル!大丈夫なのか?」
「ロイド…さん。えっと、はい。大丈夫です。」
「さんはいらねーよ…エミルって強いんだな」
少し、落ち込んでいるようにも見える。
前とはなんだか立場が逆だなあ、と思いつつ、そんなこと無いよ、と返した。
その時。
「エミル!!貴様、魔物を使役できるのか!?」
がし、と方を掴まれ振り返れば、やたらと目をぎらぎらとさせたリフィルの姿が。
「あ…あの、リフィルさん?」
そのままがくがくと揺さぶられてしまう。
「ね、姉さんの遺跡モードが…」
「遺跡以外でもなるんだな…」
ジーニアスとロイドの声だが、視界がゆれるためにどこで誰が喋っているのかはわからない。
「あああの、ここ、答えます!答えますから、揺さぶるのやめてくださいぃっ!」
半ば涙目になりながら懇願すると、ようやく開放される。
けほ、と少し咳き込む。
「さあ、話せ!」
揺するのは止まったが、肩は掴まれたままだ。
リフィルの目はいまだぎらぎらとしており、その上男言葉であり。
はっきり言うと、怖い。
「ええと、あのっ、」
おろおろとしていると、思わぬ助け舟が入った。
「質問はそのぐらいにして、先に進んだほうが良いのではないか?」
冷静な声。
神殿内は凍っており、寒い。
そのため体力を無駄に消費しない方がいい、という事だろう。
渋々といった感じで、リフィルは手を離した。
ほっと一息つくと、一瞬クラトスと目があったような気がした。
仕掛けを解いた先にあったのは、ワープをするための機械だった。
「この、奥だと思います。きっと封印の先に、この異常気象の原因が…」
コレットが、胸の前で組んだ手を、強く握り締める。
青く光を放つ装置の上へと、足を踏み入れると、広い部屋へと飛ばされた。
「おおおお!この壁!この祭壇!すばらしい!」
「り、リフィルさん…?」
「エミル、駄目だよ。姉さんはこうなると誰にも止められないから…」
ジーニアスは肩を落とす。
そんな会話をしていると、祭壇に赤い光が収束する。
そこから現れたのは、紅い、マグマをまとったような獣と、それよりは小さいが、似たような姿をした魔物が数匹だった。
「…どうやらこれが試練のようだな。」
クラトスが剣を抜く。
それに習い、全員が武器を構えた。
近づくだけでも熱気を感じるその獣は、凍り付いている神殿にあまりも不釣合いだった。
「瞬連刃!」
すばやく数回斬りつけると、ぐらりと獣の体が僅かに傾く。
そこへ畳み掛けるようにクラトスとロイドが切りつける。
どう、と今度こそ巨体が横へと倒れる。
「エミル!後ろ!」
「っ!」
振り向くと同時に、背後の魔物を斬りつける。
吹き飛ばされ、床に体を叩きつけられ、その魔物が霧散するように消える。
安心したのもつかの間、地面が赤く輝く。
「しまった・・!」
地面を蹴って後ろに飛ぶが、地面から噴出したマグマが腕をかする。
「ファーストエイド!」
「アクアエッジ!」
しかし、リフィルのかけてくれたファーストエイドに、瞬時に傷は癒される。
さらに、自分の背後から飛んできた水塊が、大きな獣へと殺到する。
「レイトラスト!」
さらに、コレットの投げたチャクラムが、胴を切り裂く。
そして魔物は断末魔を上げ、先ほどの魔物のように霧散し、その光は祭壇へと集った。
荘厳な声が、空間に響き渡る。
『再生の神子よ、祭壇に祈りを捧げよ。』
「…はい」
コレットが祭壇の前まで近づき、膝をつくと、胸の前で手を組んだ。
「…大地を護り育む大いなる女神マーテルよ。御身の力を、ここに!」
すると、輝きを増した紅い光ははじけ、祭壇の上空から、黄金の球体が降りてくる。今度はその光がはじけると、そこには、羽のある男性…天使が居た。
「よく来た。我が娘、コレットよ。封印を守護する者は倒れ、第一の封印は解かれた。ほどなくイフリートも目覚めよう。約束通り、クルシスの名の下、そなたに天使の力を与えよう。」
「はい。ありがとうございます」
コレットが答えれば、四色の光が現れ、コレットへ吸い込まれて行った。
すると、コレットの背に、薄い桃色の、透き通ったガラスのような羽根が広がった。
コレットの体が宙に浮かぶ。
「天使への変化には苦しみが伴う。しかしそれも一夜のこと。絶えることだ。」
「試練なのですね。解りました。」
コレットは頷く。
「次の封印はここより遥か東。海を隔てた先にある。彼の地の祭壇で祈りを捧げよ。」
「はい。レミエル様。」
すると、レミエルは光となって、消えてしまった。あたりには白い羽根が散っているだけだ。
ジーニアスが駆け寄り、すごい、と歓声をあげる。
「…エミル。それで、あなたの目的はこの先だと言ったわね?」
「…はい。
ごめんなさい、もう少しだけ付き合ってくれますか?」
そう言って、祭壇の奥にある扉に手をかざす。
また、少し額に痛みが走り、僅かにそこが発光すると、扉が開かれた。」
「こんな扉があったのか…」
リフィルの言葉使いがまた変わっている。
…やっぱり、少し怖い。
かつ、かつ、と進んでいくと、ガラスの花のような形状をした光の上に、つぼみのような形をした『眠っている』コアが浮かんでいた。
「あれです。」
「おおおお!なんだあれは!?すばらしい輝き!エミル!あれをどうするのだ!」
「それは、また今度、説明しますね…」
もう、苦笑いしか出てこない。
そっとコアを手に取り、掲げる。すると、蕾の形をしたコアは中に浮くと、花が開くようにコアを包んでいた花びらが散り、丸い宝石がエミルの手にぽすりと落ちた。
『……ラタトスク様…いえ、エミル様…』
頭の中に、声が響いた。
「君は、イグニス…?」
『…我等は今、ほとんどの力を失っています。それゆえ…エミル様を助ける事は難しい…まことに、申し訳、ありま…せん』
「どういうこと?君は、君達は、何か知ってるの…?」
『我等は…エミル様に、幸福を……全ては、テネブラエが…どうか、エミル様は…』
「テネブラエ?…テネブラエが、どうかしたのっ!?」
尋ねるが、そのまま声は無くなってしまった。
ただただ、静寂だけがここに残った。
ずっとずっと願いつづける
(どうかあなたが、 であるように)
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