初恋前の初カレ




私の彼氏は完璧な人。見た目もかっこよくて優しくて、人望もあるし頭もいい。


校内でも公認のカップルで、端から見れば順風満帆。ただし、本当は“ニセモノ”ということを除けば。



「彼氏彼女のフリをする」


それが、あの日松川先輩と私が交わした約束。 






ある日の青城高校、“男子バレー部にマネージャーが入った”という噂はすぐに広がり、校内を一時騒然とさせた。


「なまえ、男バレのマネージャーになったってマジ?!」


昼休み、親友が机の前までやってくる。


「うん、念願のね」


「だって男バレってマネ禁止じゃ…」


「そうなんだけど…あ、松川先輩」



親友にだけは事情を説明しようとしたけれど、


「お昼一緒に食べよ」


教室の扉に半身を預けから手を振る先輩を見て話を止めた。


「え、誰?」
「えっと…彼氏、かな」


お弁当を掴んで、「マネージャーのこと、後で話すね」と先輩の方へ駆け出す。
「…はあー?!」背後で響く彼女の声に苦笑した。




「いいの?友達」
「大丈夫です」


くすくす笑いながら廊下を歩き出す。


「あ、弁当教室に忘れたから取りに行っていい?」
「え?あ、はい」
「ん、じゃあ手」
「…手?」

「俺らカップル、でしょ?」


にやりと笑う先輩に適わないなと思って手を差し出すと、すっと躊躇なく取られる手。


「…緊張しすぎ」


思わず強張った手を握ってくつくつと笑われた。




「あ、まっつんとなまえちゃん!」
「おう」
「及川先輩、こんにちは」


三年の廊下に入ると、すぐに声をかけてきた主将。


「昼休みも一緒なんてラブラブだね〜」
「まあな」
「何、松川の彼女?!」
「てことは噂のマネージャー?」


先輩のクラスメイトを名乗る人たちが周りを囲う。  


「そう。手ぇ出すなよ」
「お前の彼女とか怖くて手出せねぇよ」
「んじゃ、弁当取ってくるから待ってて」


周りの先輩達を手で押しながら教室へ入っていく。と、すぐに

「松川と付き合ってるってほんとだったんだね〜」
「じゃあマジで及川狙いじゃないんだ」


女の先輩たちのひそひそ話が聞こえてきた。

ああ、作戦はうまくいっているようだ。そもそも、松川先輩はお弁当を忘れるなんてミスしそうにない。多分、三年生の廊下を通るためにわざとだろう。



「これで少なくとも三年女子は大丈夫だと思うよ」


いつの間にか戻ってきていた先輩に耳元で囁かれた。



そう、これが私たちが約束を交わした理由。



初恋もまだな私に、彼氏ができた理由。






作戦成功

(次は人前でイチャイチャしてみる?)
(えっ…それは恥ずかしいです)
(わかってるよ、冗談)
(またからかった!)





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