伝わる優しさ





「どした?今日のデート楽しくない?」


久しぶりの徹とのデート中、街を歩いているとかけられた言葉。


「え?楽しいよ!」
「…そっか。あ、ちょっとカフェ入らない?」
「うん」


いけない、デートはもちろん楽しいのに。
ちゃんとしなきゃ、と笑顔を作って席に着く。


「俺トイレ行ってくるね。コーヒー頼んどいて」


このビルの中にあるカフェはトイレが店外にあるらしく、席を立ってお店から出て行った。


「遅いな…」


注文を終えて飲み物も来た。なんとなく手をつけずにぼーっと待っていると、帰ってきた彼の手には小さなビニール袋。


「はい、これ」


なんだろうと渡された袋の中身を覗くと、それは絆創膏と消毒液で


「…気づいてたの」


靴擦れに痛む足をちらりと見れば、


「まあね」


なんでもないことのようにふっと笑う。


「ごめんね、気使わせちゃって…」


せっかくのデートなのに、と自分を責めていると


「なんで?俺のためにオシャレしてくれたんでしょ?」


すごい嬉しいよ、ありがとう
なんて、本当に嬉しそうな顔で、向かいから頭を撫でてくれる。


「今日はここでのんびりお喋りしよっか。あ、ケーキも頼も?」


私に気を使わせないような提案までしてくれる彼は、どこまでも甘い。





「あそこのケーキおいしかったね〜また行こうね」
「うん!」


カフェでたくさんの話をして、家へと送ってくれる。
普段は手を繋ぎたがる徹が、今日は腕を組むように手を取って。


「…徹は優しいね」


まだ少しひりひりと痛む傷口。きっと、足を庇って歩く私が少しでも彼に体重を預けられるように腕を絡ませてくれたんだと。


「なんのことかな。俺は胸が当たって気持ちいいからこうしてるだけだけど」
「ばか!」


冗談めかして答える彼に悪態をつきながらも、とことん甘やかしてくれる彼へのお礼はなにをしようかなと考えた。




せめてものお返しは

(あの、家…寄ってかない?)
(…もう優しくできなくなるけどいいの?)




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