類は恋を呼ぶ
掴まれた腕が、熱い。
「…ごめん。俺のせいで」
重い空気の中、及川先輩が口を開く。
「別に、及川先輩のせいじゃありません」 「でも」 「及川先輩が、なにをしたって言うんですか?」
この間も、今日も。私を呼び出したのはさっきの女の先輩たちだ。
「先輩は、ただ二年生の教室に遊びに来てただけでしょう。それに怒ったのか妬いたのかは知らないけれど、私を呼び出したのは彼女たちの勝手です」 「…それでも、俺のせいだよ」 「先輩がけしかけたとでも?そうじゃないのなら、もう謝らないでください」
無意識に語気が強くなる。先輩のせいだと思っていないのは本心だ。 だけど、なんでこの人がここに居るのか。なんで、助けに来てくれたのか。
会いに来ないで、もう会いたくない、なんて、勝手に突き放したこんな私を。それが頭の中をぐるぐると周り、冷静になれない。
だって、来てくれて嬉しいだなんて。
「…じゃあせめて、聞かせて」 「…なんですか」 「俺に会いたくないって言ったのは、あの子たちのせい?」 「…っ」 「それとも、俺のせい?」
先輩の顔を見れない。
「あの人たちは…きっかけにはなったけど」 「けど?」 「及川先輩といると、辛い」 「それは、どうして?」
もう片方の手もそっと取られ、大きな両手に包まれる。
「どうしてこんな気持ちになるのか、分からなくて」 「うん」 「及川先輩といると、なんか泣きたくなって…」 「うん」
まるで子供のように、言い訳よりなんてできずにただ本心が溢れる。
「だから、嫌い。きらいです」
その言葉を発した瞬間、涙が頬を伝った。
「ねえなまえちゃん。俺も、なまえちゃんと同じ気持ち」 「だったらどうして、」 「最後の言葉以外はね」
先輩の言葉の意味が分からなくて、頬から落ちていく雫をぼんやりと視界で捉える。
「俺もなまえちゃんといると、胸が苦しくなる。無性に泣きたくなるときもある。自分の気持ちが、コントロールできなくなるときがある」 「……」 「でもね、それは、好きだからだよ」
及川先輩の手に力がこもる。
「及川先輩が…私を、好き?」 「うん。好き」 「うそ。そんなの、信じられない」
「最初は、変わった子だなって思っただけだった」 「…」 「でも、それからたくさん話をして…似てると思った」 「先輩と、私が?」
うん、と頷く彼。まさか、同じことを考えていたなんて。
「俺は、自分のやることややってきたことに誇りもプライドもある。けどやっぱりどこかで自信がないんだ」
「天才なんかじゃないし、周りが言うほど完璧でもない」
「俺を青城バレー部の及川徹とか、女の子にモテる及川徹とか、そんな目で見られることばっかりの中で、少し疲れることだってあった。でもなまえちゃんは最初から、そんな飾りじゃなくて俺を俺として見てくれた」
「…だって、及川先輩は及川先輩です」 「うん」 「かっこいいところも、おせっかいなところも、努力家なところも、そうやって少しだけ弱いところも、それを隠そうとするところも」 「うん」 「全部、それが及川徹なんでしょう」
「そうだよ。なまえちゃんのかわいいところも、変わってるところも、人を傷つけないように人を避けるところも。全部がなまえちゃんで、その全部が好きだよ」 「私はそんないい子じゃない。自分が傷つきたくないから…勝手に及川先輩を傷つけた」 「それは俺が、なまえちゃんを守れなかったからだよ」 「ちが、っ」
否定の言葉を発しようとした瞬間手を引かれて、気づけば及川先輩の腕の中に閉じ込められていた。
「…せんぱ、」 「もう、離れるなんて俺が無理だよ」 「…っ」 「お願いだから、側にいさせて」
私の肩に顔を埋め、ぎゅうっと抱きしめられる。
「…私、及川先輩みたいに強くないですよ」 「俺だって、なまえちゃんみたいに優しくないよ」 「でも、似てるんですね」 「うん。似たもの同士、一緒に進んでいこうよ」 「−…」
きっとこれからも今日みたいなこともあるだろうし、傷つくことも傷つけられることもあるだろう。
でも、この人となら。
及川先輩となら、大丈夫だと思えたから。
長年背負っていたものが軽くなった気がして、やっと笑える気がした。
ゆっくり先輩の背中に腕を回して、はい、と頷いた。
君に惹かれた理由がわかったんだ (でも一つだけ、訂正してほしい言葉があるんだけど) (はい。…好きです、及川先輩) (嬉しすぎて泣きそう。大好き)
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