追いかけて




この及川徹ともあろうものが、女の子の一言で再起不能にまで叩きのめされるとは。


「及川、最近二年の教室行かねぇのな」
「…んー」
「振られたんだろ」
「ありゃ可哀想に」


三年間を供に戦ってきた仲間たちとは、時々こうして放課後に寄り道をする。勉強会と銘打ってはいるが、結局こんなふうに話しているだけだ。



「告白もしてないんですけど」
「告白してないのに振られるってこういうことか」
「どうせまたバカなこと言ったんだろ」
「…何が悪かったのかなー」


ファミレスのテーブルの上で頭を抱える。いつもなら茶化してくる仲間たちが今日は静かだ。


「今回は真剣っぽかったもんな」
「本気なんだなーとは思ってたけど、マジで落ち込んでんなあ」
「いっそ告白してみればいいじゃねえか」
「…会いたくないって言われたのに、怖いよ」


そう。今までの恋愛だって別に遊びでしていたわけじゃないけど、今回は別格。それくらいになまえちゃんに惹かれたんだ。
そんな彼女の決定的な拒絶の言葉に、いつものようにポジティブになれるわけもない。

皆もそれが分かっているのかからかいの言葉はなく、恐らく真剣にアドバイスを考えてくれてるんだろう。



そんなとき、机の上で携帯が震えた。


「矢巾からだぞ」
「矢巾?なんだろうな」
「及川にってことはセッターの相談とかじゃねえの」


仲間たちが口々にこぼす中、テーブル上にだらけたまま応答ボタンを押す。


「もしもし?」
『あ、及川さんですか?今学校ですか?』
「及川さんですけど学校ではないです」
『あの、要らない情報かもしれないんですけど、一応言っておきたいことがあって』
「ん、何?部活のこと?」


どことなく焦っているように聞こえる後輩の声。


『みょうじさんのことなんですけど』
「…なまえちゃんがどうかした?」


ついさっきまで話題になっていた彼女の名前を声に出すと、聞き耳を立てていた仲間たちが顔を見合わせている。


『さっき女子数人で校舎裏の方に歩いていくの見かけたんですが』
「うん」


俺の見ていた限り、そんなに仲いい友達が多いようにも見えなかったけどな、なんて考えながら話に耳を傾けていると、次に出てきた発言に驚愕した。


『それがみょうじさん以外は全員三年生の女子で…確か及川さんの追っかけの人たちだと思います』
「それほんと?」


聞いた瞬間体を起こす。心臓が心拍数をあげている。


『はい。何度か練習とか試合会場で見たので覚えてます』
「わかった、ありがとう」


電話を切ってすぐに席から立ちあがる。皆も内容が聞こえていたのか、どことなく真剣な表情になっていて。

「早く行け」

相棒の台詞に弾かれるように店を飛び出した。






今までもこんなことがなかったわけじゃない。だけどそれなりに上手く立ち回ってきたつもりだった。まさかなまえちゃんにまで飛び火するとは、と守り切れていなかった自分の無力さを呪いながら学校へと走る。


(校舎裏…この辺りのはず、)


息を切らしながら角を曲がると、見えた女子の固まり。彼女を囲うようにして立つ数人の同級生女子たちを見て頭に血が上る。



「…ちょっと、何してんの?!」


息をきらしながら声を上げると、全員が一斉にこちらを振り向く。


「お、及川くん!」
「これは、別になんでもなくて」
「ただお話してるだけだよ!」


焦ったように言い訳を口にする女子たちの隙間からやっと彼女の顔が見えて目があった瞬間、

「なまえちゃん!待って!」

反対側へと走り出した彼女。



媚びるような笑顔で近寄ってくる女子たちをひと睨みしながらすり抜けて、自分も駆け出す。

“もう会いたくない”

あの台詞は君の本心だったのか。それとも言わされたものだったのか。


そんなことは今はどうでもいい。会いたくないと思われていようと、嫌われていようと、今はただ彼女に触れたい。

走る速度をあげて、彼女の腕を掴んだ。



「…つかまえた、」





そして懇願する
(お願い。話、させて)
(…っ、)



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