一番近くて遠い




もうすぐ昼休みも終わるけど、とても授業を受ける気分じゃない。

足早に人の波を通り抜け、今はほとんど使われていない旧校舎へと足を向ける。中へ中へと進めば人気もなくなり、適当な無人の教室へと入ろうとすると、止まった足。

止まった、というより止められた。


そう気づいて、ぎゅっと掴まれた手首に思わず振り向く。



「まつ、かわ」
「うん」


心なしか息の切れてる彼を見上げて、何故ここにいるの。思ったけれど、うまく言葉に出ない。


「…なん、で?」
「なんで、はこっちの台詞。お前、なんで泣いてんの」


手首を掴む力が強くなる。


「泣いてない」
「なんですぐばれる嘘つくの」


顔を俯けていると

「…とりあえずこっち」

と、そのまま空き教室へと引き込まれる。

後ろ手で扉も閉められ、ふたりきり。


思わず無言になると、授業の始まりを告げる本鈴が鳴った。


「松川、授業…」
「いいよ、サボり。泣いてるなまえをほっとけないでしょ」
「だから泣いてない、」


空いている手で目元を隠そうとすると、その手まで塞がれる。両手首とも松川の大きな手に掴まれて、なぜかまた涙が零れた。

「ほら泣いた」

松川の手に力がこもる。


「もう一回聞く。なんで泣いてんの」
「…っ」


自分でもわからない。辛いのか悲しいのか、情けないのか。



「あ、っ」
「俺には言えねぇの?」

答えられずにいると、掴まれていた手首が壁に縫い付けられた。閉められたカーテンで暗めの教室の中、松川の瞳がぎらりと光る。


「俺、お前の男友達の中では一番仲いいと思ってたけど、違った?なんも話してくんねーのかよ」

心なしか、口調が荒い。珍しく怒っているような気配がして、体が硬直する。


「…そう、だね。松川以上に仲いい男友達なんていない」
「だったら、」
「でも、松川はそうじゃないでしょ。私より一緒に居て楽しい子がいるんじゃないの?もう私より、距離が近い女の子がいるんじゃないの?」


ああなんてめんどくさい女だと思いながらも、涙は止まらないし言葉も止まらない。


「あんなに近かったのに…最近、松川が遠い」





震える声で、言った





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