割り切れない気持ち
朝、見事に寝坊して通学路を走る。
昨日は結局なんとかごまかして(松川相手にごまかせたかはともかく)電話を切った。
あんなの、冗談に過ぎないに決まっている。真に受けちゃ駄目だ。自分に言い聞かせながらも、中々眠りにはつけなかった。
息を切らしながら下駄箱に手をかける。なんとか間に合った。
「オハヨ」
また背後から声がして、頭の上に大きな手が乗る。
「松川、」 「寝坊?珍しいじゃん」
ニヤっと笑う彼はいつも通りの態度で、動揺する自分が恥ずかしくなる。
「まあ、ちょっとね」
靴を履き替えて、松川の方へ向き直る。
「当ててやろうか。考えすぎて寝れなかったんだろ」 「…っ」
図星を突かれて言葉に詰まる。
「考えてたのってさ、昨日のアイツのこと?それとも、俺のこと?」 「それは…」 「なに、答えらんねぇの?」
また昨日のような低い声で問われて、余裕がなくなっていった。
あれはどういう意味だった?なんであんな事言ったの?
今も、なんでそんなこと聞くの? 聞きたいのは、こっちの方だ。
「…松川のばか」
頭がいっぱいになってなにも考えられなくなり、そこから逃げ出した。
予鈴と同時に教室へ滑り込む。心臓がうるさいのは走ったせいだ。
そしてすぐに先ほどの言葉を後悔する。
「なんであんなこと言っちゃったんだろう…」
松川は何も悪いことなんてしてない。ただ私が自分の気持ちを素直に言えない八つ当たりをしただけだ。
「…謝ろう」
そう決心して午前授業を終え、昼休みには急いでお昼を済ませ、勇気を出して1組へと向かう。
開きっ放しの扉からそっと中を覗き込むと、すぐに見つけた想い人。背中を向けている彼に松川、と声をかけようとすると、すっと彼に近づいた女の子が松川の腕に両手で触れた。
笑顔で話しかけている姿を見て、声が出なくなる。
「…っ」
彼女の方を見下ろして会話をする彼を見て、また胸がぎゅうっと締め付けられた。
私はあんなに可愛く松川に笑いかけられない。
触れたくてたまらないその腕にも触れられない。
素直に、なれない。
声を出せずに固まっていると、ふとこちらを向いた松川とばちっと目が合った。
一瞬目を見開いて口を開きかけた気がしたけれど、松川の腕に触れたままの彼女の手を見て、すぐに踵を返した。
見たくないから
(でも、また逃げることしかできないなんて)
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