別れた道




最近通い慣れた道を今日も歩く。と言っても同じ校舎内の階段を昇るくらいだけど。
そしてそんな自分の足取りが軽く感じるのも、きっと勘違いではないのだろう。


「やっほーなまえちゃん」
「…及川先輩」
「ん?どしたー?元気なくない?」
「いえ…今日はどうしたんですか?」
「なんかなきゃ来ちゃいけない?」
「そんなことはないですけど…」


どうしたんだろう。最近のなまえちゃんは、前ほど笑ってくれなくなった気がする。元々表情の出にくい子ではあるけれど、それを差し引いても元気がないような。


「なまえちゃんさ、放課後時間ある?」
「どうしてですか?」
「よかったら一緒に帰らない?」
「…今日はちょっと、用事があるので」
「うーん、そっか。わかった。また誘うね」


誘った瞬間には少し見開いた瞳が、すぐに陰ったように見えたのは気のせいだろうか。
なんて彼女に問う勇気もなく、聞こえたチャイムに教室を後にした。







5限が始まっても俺の意識は授業へ向かず、つい彼女のことを考える。
部活を引退して、進路も大体決まって。なんだか少し落ち着いてしまっていた生活に、色を与えてくれたのは間違いなく彼女で。
これが恋なのかと言われると正直まだわからないけれど、少なくとも昼休みが楽しみになった。

嫌われているようには思えないけれど、なんだか一線を張られているように思う。その線が最近の彼女の元気のなさに関係があるのだろうか。でもその線を超えるきっかけすらわからなくてもどかしい。


「あーもう…わかんない」


机に突っ伏して、誰にも聞こえないように呟いた。









放課後、なんとなく帰る気分にならなくて、校内を歩いてみる。人がどんどん減って静まりかえっていく校舎をさらに人が少ない方に歩いてみると、たどり着いたのはあの場所。

「…どれだけ気にしてんだか」

無意識に足が向いていたのだろうか。苦笑してなんとなしに扉を開けるとすぐさま感じる消毒の匂い。
中へと足を踏み入れてみると、そこには誰もいなくて、ただのシンとした白い部屋。こんな場所が好きなんて、本当に変わってるよなあと思ってつい笑いが零れた。



「及川先輩…?」
「え…なまえちゃん?」

名前を呼ばれて振り返ると、ちょうど考えていた彼女がそこにいて。


「なんでここに居るんですか?」
「いや、なんとなく…っていうか、顔色悪くない?」
「ああ、ちょっと貧血で…」
「大丈夫?!ベッド空いてるからこっち、」
「、触らないで、ください」


ふらっと足取りがおぼつかない彼女に手を差し伸べると、告げられた言葉。
出された拒否の言葉に一瞬思考が止まったところに、次いで言葉がかけられる。


「…及川先輩に話があったので、ちょうどよかったです」
「え?」
「あの…もう、会いに来ないでください。元々用事もないんですし、」
「え、待って、急になんで?俺なんかした?」
「及川先輩は悪くありません。ただ…私はもう会いたくありません。さよなら」
「ちょっと、」


くるっと踵を返して保健室を出ていった彼女を、なんで追いかけなかったのか。
体調が悪いのもわかっていて、どうして無理やりにでも捕まえて休ませなかったのか。
なんで、もっと理由を尋ねなかったのか。


「…なんで」


床に縫い付けられたように動かない足と冷えていく体が、思考力を奪っていく。
そんな中で、よりによってこんな時に自分の気持ちに気づくんだ。






これは、間違いなく恋


なのに



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