いつからか、君を




昨日、学年だけでも聞けてよかった。

「あ、二年保健室組のみょうじなまえちゃん?」



昼休みも真ん中にさしかかったところ。二年生の廊下を歩きつつある教室を目指す。目的地にはすぐにたどり着いて、目的の人物も見つけた。

失礼しまーす、とだけ言って、すぐに目的の机の前まで歩み寄ると、目を落としていた本から顔をあげた、保健室組の彼女。



「…及川先輩?」
「ハーイ」


昨日と同じように、片手をひらりとあげて答えた。


「なんでここに?」
「探してたんだよ」
「なんで私の名前知ってるんです?」
「二年の後輩に聞いたらすぐわかったよ。 なまえちゃんも中々有名人じゃん」
「…なんで私を探してたんですか?」
「さて、なんででしょう?」


昨日と同じの、物怖じしない感じの受け答え。


“よく保健室にいる二年生の綺麗な子。あと少し変わってるかも“なんてバレー部の二年生に聞いてみれば、すぐに出てきた答えだった。



「私は特に用はないですけど…」
「そうかなー?会いたくなかった?」
「うーん…特に思いませんでしたね」
「つれないなあ」


昨日と同じように、心ばかり微笑んで答える彼女の、すっとこちらを見あげてくる視線はまっすぐで。なんだかこちらが恥ずかしくなる。


今日の目的を取り出して、机の上にコツンと置いた。


「落し物だよ」
「あ…」


昨日彼女が保健室を出てから見つけた髪留め。おそらく熟睡するのに邪魔だったんだろうと思って少しおかしかった。


「これはどうも、ありがとうございます」
「いいえ〜お礼はこれでどう?」


そうして彼女の目の前に出したのは、番号を表示した俺のスマートフォン。彼女は少し間を空けた後、


「…やめときます」
「えー?!なんでさ?」
「お会いするの二回目ですよね。そんな簡単に連絡先って交換するものじゃないと思うし、それよりも私の連絡先なんてお礼にならないです」


と、微笑みながらもはっきりと言った。謙遜じゃなく、本当にそう思ってそうだ。

「…そっか、わかった」
「今度、なにか別の形でお礼させてください」
「いや、気にしないで!まあそのうちなまえちゃんから聞きたくなるかもしれないけどね」


冗談めかして笑って言うと、「人気者は大変ですよね」とさらりと返された。


「どういう意味?」
「いえ、なんでもないです」


その時の俺は、さっとトーンを変えてまた元の表情に彼女の本心がわからなくて、やっぱり変わってるなぁなんて思いながらも、とりあえず携帯をポケットへ戻した。




その日は予鈴に邪魔されてなんとなく会話は終わったけれど、それからも気になってちょくちょく彼女の教室へ通うようになった。いつも他愛ない話しかしないし、他の女の子みたいに俺をちやほやしてくれる訳ではないけど、それでも彼女の側がなんだか心地いい。

また来たんですか、とあの表情で言われるけど、あの心ばかりの微笑みが少しずつ大きくなっていく気がして。



それを見る俺の気持ちも、少しずつ大きくなっていく気がしたんだ。






この気持ちを何て呼ぶ?

(ねえ、そろそろ番号聞きたくならない?)
(ほぼ毎日来てるのに要ります?)



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