彼の欲しいもの




昨日、潔子と(半強制だけど)プリクラを撮った。出てきたシールを2つに分けて、ひとり8枚ずつのツーショット。潔子綺麗!とにやにやしながら帰路についた。

翌日の部活後にまたシールを見つめていたら、めざとく見つけた田中と西谷に1枚ずつ奪いとられる。まあ彼らの潔子好きは重々承知しているからいいか、と特に気にせず部室に向かう。


「潔子、一緒に帰ろ!」
「いいわよ。ちょっと待ってね」


着替えた後、珍しく部室に居た彼女の手元を見てみると、一枚減ったシール。


「あ、それ。潔子も誰かにあげたの?」
「ああ…まあ。どーしてもって言うから。ねえ、澤村?」


潔子がいつもと変わらぬトーンでそう言うと、少し離れたとこにいた澤村くんが顔を真っ赤にしていた。


「清水…あれほど言うなって…っ!」
「えーと…澤村くんも潔子のが欲しかった、の?」
「ちがっ…清水じゃなくて!」


潔子の写真が欲しかったんだ、と思ったときは一瞬ちくり、と痛んだ胸を少し不思議に思ったけれど、すぐさま否定された言葉にその痛みはすぐに消えた。

そんなことを考えつつ澤村くんを見ると、彼の顔はさっきよりもっと真っ赤で。


「簡単な消去法よ、なまえ。ごめん、やっぱり一人で帰るわ。また明日ね」


潔子にしては珍しく悪戯っぽく笑って、部室を出ていく。


「えっと…」


二人きりになった部室で、言葉に詰まる。澤村くんが、私達2人だけの写真が欲しくて、でも目的は潔子じゃなくて。いくら鈍いと言われる私でもその意味はわかる気がするけど、自惚れなんだろうか


「…とりあえず、よかったら一緒に帰らない、か?」


赤い顔のまま澤村くんがそう言って、私は無言で頷く。暗くなり始めた二人だけの帰り道で彼が言った一言と、さっき自覚したばかりの自分の気持ちに、顔が赤くなるのはこっちの番だった。






紡がれた言葉は

(なまえのが欲しかった。ずっと前から好きだったんだ)


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