大人な彼の腕の中
「わあ…綺麗」
部屋の窓から見える景色に思わず声が零れる。
「そうだな」
そんな台詞が聞こえたかと思うと、肩越しに後ろから腕が回ってきてふわりと抱き寄せられた。
「烏養さん、連れてきてくれてありがとうございます」 「いや。むしろ嘘つかせて悪いな」 「大丈夫って言ってるじゃないですか」
ある連休、今日は烏養さんと初めての旅行に来ている。
あの日から烏養さんと付き合い始めたけれど、やっぱりお互いの立場上それを明かすわけにも行かず、まともにデートもしていなかった。まあ毎日電話したり、マネの仕事にかこつけて二人で会う機会はあるけど。
寂しいな、とぽつりと零したときに、「…遠出ならいいだろ」と旅行を提案してくれた。さすがに親には友達と行く、と嘘をつかなきゃいけなくて、烏養さんはそれを気にしているみたいで。
「うちの親、元々放任主義ですし。もしバレても逆に笑い飛ばしそうですよ」 「…そうか。」
やっとふっと笑って、抱きしめる腕の力が強くなった。小さな嘘のことよりも、今こうして烏養さんの腕の中にいる幸せの方が胸を占めている。
「ごはん楽しみです」 「海鮮づくしだからな。酒が進みそうだ」
そんな会話をしながら、海を見つめた。
ーーーーーーー
「んー、お腹いっぱい!さすが評判の旅館ですね!」 「…ん、ああ」
温泉に入って、おいしいごはんをたくさん食べて、部屋までの廊下を歩く。
「…さっきから烏養さん、なんか変じゃないです?」 「酔ってんだよ」 「ふうん?」
なんとなく目を合わせてくれなかったり、会話が少し減ってたり。本当にお酒のせいなんだろうかと考えているうちに部屋につく。
「あ、」
扉を開けてみると、きっちり並べてひかれた布団と月明かりのみの部屋。
なんだか急に空気が変わった気がして、胸がどきんと鳴った。
「…俺、酔って眠ぃから寝るわ。なまえも早く寝ろよ」
と言って、本当に素早く寝る支度を済ませ、布団に潜り込んでしまった烏養さん。私も少し遅れて布団に入ったけれど、彼は反対を向いてしまっている。
私だって色々…覚悟して来たのに。
そっと背中に寄り添ってみると、ぴくりと肩が揺れた。
「起きてます、よね?」 「…ああ」 「私、烏養さんからしたらやっぱり子供だから、ですか?」 「……。」 「うかいさ…っあ」
ぐるっと反転した体と視界。先ほどまで見えなかった烏養さんの顔が、今は目の前にあって。
「…あんま煽んな。ただでさえ風呂上がりのお前とか、浴衣が可愛くて我慢すんのしんどいんだから」 「っ我慢なんてして欲しくないです。私だって…ちゃんと考えてきました」
恥ずかしいけど、正直に言うと。
「…本当に、いいんだな?途中で止める自信ねぇぞ。今ならまだ逃してやれる」 「大丈夫です。教えてください…大人の、恋」
「あ、うかいさ、」
いつもより長くて深い口づけの後、はらりと浴衣を崩されて、身体を撫でられて。首筋から胸へと降りてきた唇に頂を含まれ、もどかしいような快感に自然と体に力が入る。
「く、ぅっ」 「…いいから声出しとけ。我慢すると余計苦しいぞ」 「ふ、あっ」 「ん、いい子だ」
ニヤっと笑って目線だけで見上げてくる彼に、羞恥心が掻き立てられる。
「んっう、あ、」 「は、勃つの早ぇな」 「やあっ」
固くした舌先でツンと弾かれたかと思えば、唇全体で被われてぬるっとした口内に含まれて。こんな快感を与えられて、身体が反応しないわけがない。
そこばかりに気を取られていると、烏養さんの掌が太腿をゆるゆると撫でて、意識が分散されていく。
「あ、ぁ…は、」 「…触るぞ」
言うが早いか、下着の上からゆっくりと触れる指。ショーツの上からでも的確に花芯を探り当てられ、指先で擦られた。
「やっあ!あ、っだめ、」 「ここも、固くなんの早ぇな」
いじわる、なんて言葉は自分の嬌声に掻き消される。すぐに下着の脇から直接指が入ってきて、入口付近を掠める。
「すげぇ濡れてんじゃねぇか」 「やだっ、言わない、でくださ…っ」 「かわいいっつってんだよ」 「やああっ」
親指で花芯を擦られながら、烏養さんのゴツゴツとした指が中に入ってきた。少しの圧迫感と、その後すぐに襲ってくる快感。
「う、あぁ…っ」 「…キツかったら言えよ」
抽送というより、ナカを拡げるように、ゆっくりと掻き回されて。力が抜ける代わりに、身体が痺れる。
「やっ!うかいさ…っ」
彼の浴衣の袖を握りしめて与えられる快感に堪える。段々とそのゆっくりな刺激が物足りなくなってきて、無意識に彼の指を締め付けた。
「…あんま煽ると、優しくしてやれねえぞ」 「も、っいいです、烏養さんのものに、して」
途切れる吐息の合間になんとか言うと、眉間に皺を寄せて動きを止める彼。
「んあっ」
ずるっと指が抜かれ、下着を抜き去られる。烏養さんも着ていた浴衣を乱暴に脱ぎ捨てて。ちょっと目瞑って待ってろ、と言われて、彼の動きに耳をすませる。
少しの身動きの音がした後、身体ごと彼の体温で覆われた。
「なまえ…こっち見て、爪たててもいいから…しがみついてろ」
耳元で掠れた優しい声に頷いて、大好きな彼の目を見つめると、
「ああぁ…っ!」 「、っ」
ぐっと腰を押し進められ、先程とは比べものにならない質量が入ってくる。一瞬頭が真っ白になったけれど、烏養さんがゆっくり慣らしてくれたから、そんなに痛みはなかった。
「…大丈夫か?」
ふっと息を吐いた烏養さんが、少し苦しそうな目で見つめてきて。
「へーき、です。」
なんとかふにゃっと笑ってみせたら、彼も微笑んで、優しい口づけをくれる。
「…動くぞ」 「ん、あっ!ああ!」
急に激しくなっていく腰の動きに、少しも余裕なんてなくなっていった。
「ふあ、っあ!、うかいさんっ」 「っは…、」
何度もキスを落として、頭を撫でて、抱きしめてくれる。その度に安心して泣きそうになりながら、快感の波にも呑まれて。
「う、っ…は、やっあ!」
だんだん勢いを増す揺さぶりに快感が強くなり、つい腰がひけてしまう。なのに、
「もう逃がせねえって、言ったろ…っ」
と、更に奥へと押し付けられるソレ。もう必死に彼にしがみつくことしかできない。
「やっ、きもち、いぃ…っ」 「なまえ…っ」
お互いの呼吸が荒くなっていくのも、聞こえる吐息も声も、さらに快感を強めていくだけだった。
「うかいさ、っん!も、だめぇ…っ」 「、…いいから、気持ちいいなら我慢すんな、っ」 「ふっ、う!や、だめ、あっ!」 「ちっ、出る…、」
息を吐く間もなく最奥を突き続けられて、頭が真っ白になる。信じられないくらいの波が襲ってきて、
「あっ、やっあぁ…!」 「っう…」
自身の身体がびくんと跳ねて、なにも考えられなくて。奥にぐりっと押しつけられた烏養さんのそれもびくっと震えるのを、身体で感じた。
そのまま遠のく意識の中で、愛してる、と聞こえた気がした。
翌朝、暖かい感覚に目を覚ますと、目の前で烏養さんが微笑んでいて。この感覚は、ずっと頭を撫でてくれてたものだったんだと気付いた。
「起きたか?無理させて悪いな」 「大丈夫、です。」
なんだか気恥ずかしくて、目の下までを布団で覆う。
「落ち着いたら、温泉行って朝飯行くか」 「…はい」
なんて言ったけど、もう少しこの腕に包まれていたい。
あなたの側で、ひとつ大人になりました
(あんま可愛い顔してっとまた襲うぞ) (っ、望むところです) (…実はなまえの方が上手かもな).
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