胸キュン仕草




「それ」
「は?」
「それ、好きです。その仕草。」


外したネクタイを片手に持つ俺になまえが言った。いつも飄々としている彼女がマネージャーになって数ヶ月。練習メニューの打ち合わせやらなんやらで二人でいる時間が多くなって、なんとなく気になっている存在。


「ベタだな」
「ですね。ベタ最高じゃないですか」

ネクタイを指で外す仕草が女子ウケがいいことくらい知ってる。なまえが興味あるとは思わなかったが。


「他にはどんなのが好きなんだ?」
「歩くとき歩道側にいてくれること」
「ふんふん」
「頭ぽんぽん」
「へえ」
「腕まくりしたときの腕の筋肉と血管」
「ベタにも程があるな」

小さな手で指折り数えていくなまえ。全部一度は聞いたことのある女の胸キュンポイントばかりを羅列され、意外と普通だなと思った。


「でも、まだありますよ」
「ん?何デスカ?」


珍しくにやりと笑ったなまえが続ける。


「バレーに真剣なとこ」
「変な寝癖がついてるとこ」
「幼馴染を甘やかすとこ」
「たまに敬語口調になるとこ」
「ドSっぽいのに面倒見いいとこ」
「しなやか筋肉」


ー…とか?と、一気に羅列したあと俺を見上げてくる。そんな挑発的な目されても。


「…自惚れて一言言ってもいいですか」
「どうぞ」
「それ、俺のことだよな?」
「正解でーす」


けらけらと笑うなまえ。あ、やばい。やっぱカワイーわ。


「…なまえ、他にもあんじゃね?胸キュンポイント。」
「え?なんですか?」
「壁ドン、とか?」


主導権を握られたままというのも癪なので、壁際にいたなまえの顔の横に両手をつき、彼女を狭い空間に閉じ込めた。


「……ずるいです。」
「そう?」


彼女の顔からさっきのニヤニヤが無くなり、少し頬が染まっている。代わりに俺は、自分の口角が上がるのを止められない。


「どうせなまえチャンさ」
「…なんですか」
「車の運転中の仕草とかも好きでしょ」
「よくわかりますね」


聞いたことのある胸キュン仕草の代表例を挙げてみると、目を伏せたまま思った通りの返事をする彼女。


「それ、来年とかに全部やってやるからさ」
「…はい」
「ずっと隣で見とけよ」


壁についた腕を曲げて、彼女との距離を縮めつつ言った。


「…仕方ないですね」
「お、やったね」


少し意地っ張りな返事だがとりあえず今はこれで充分と、そのまま唇を押し付けた。





キュンキュンさせてあげる

(一つ言ってもいいですか?)
(ん、なんだ?)
(だいすき)
(…ずきゅん、だわ)


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