結局彼にほだされる
「うへぇ…これは…」
目の前で優しさの欠片もない数値で止まるデジタルな数字。私の身長でこの数字は…
「明らかにやばいやつ…。」
今更後悔してももう遅いのはわかっているけど、元々そんな痩せてない私の体でこの体重増加は笑い事ではない。
「ダイエット、だな」
降りた体重計を爪先で弾き、ふんっと意気込んだ。
「あれ、なまえ食わないのか?」
最近出したばかりの大きめな炬燵に並んで入り、その上に置かれたケーキたちの一つを口に運びながら大地が言う。
「…私、いい。」
コクリと唾を飲み込んで、彼から目を逸らす。正確には大地というより、テーブルに乗せられた大好きなガトーショコラからだ。 その隣には、苺のタルト。それを手で掴みあげると、二口ほどで平らげてしまう大地がいまは心の底から憎らしい。
「うまいぞ?」 「知ってるしばーか」
ケーキの欠片がついた指をペロ、と舐めつつ疑問符を浮かべる彼の膝を、炬燵の中で蹴る。
「いて!なに怒ってんだよ。」
くすりと笑いながら、横から伸ばされる逞しい腕。膨れっ面の私の頬に、両方の手を添えてくる。
「ん?なまえ…」
にやにやしている彼が続きの言葉を吐く前に、私は大地の手から抜け出した。
「そうなの太ったの!ほっといて!」 「へえ」 「私は大地と違って、食べた分はちゃんと身についちゃう体質なのー!」
堂々といわゆる逆ギレをした私に、大地が肩を震わせて笑う。
「はは!いや、少しくらい肉ついた方が可愛いって。気にすんなよ」 「ふん!男はそうやってすぐ気休めを言うけど、男の基準と女の基準は違うの!」
そうやって言われたところで、どうせ大地だってモデル体型の美人には弱いんだ。男なんてそんなもの、と認識しているから、ふんっと彼から顔を逸らす。
すると不意に私の左側から伸びてくる長い腕に両肩を掴まれてぐっと力をかけられた。そのまま床に上半身を倒れさせる前に、私の頭に大きな手が添えられる。 衝撃に備え瞑った目をゆっくりと開けると、目の前にあるのは大地の顔。
「男とか女とかの基準は知らないけどさ、」 「…?」
驚いて声も出ない私の顔が面白かったのか、ますます笑いを湛えた彼の頬が柔らかく歪む。そして、先ほど私を押し倒したその手が、服の上からわき腹辺りを撫でた。
「俺の基準で、いいだろ?」
…なんて言われたら、返す言葉が出てこない。結局いつもこうやって甘やかされて、最後にはほだされるんだ。大地のばか。でも、もうそれでいいやと思って、大人しくケーキをいただくことにした。
いただきます。
(よし、食べた分運動するか) (えっ) (あとさ、贅肉揉むと痩せるんだろ?) (えっ) (全部、手伝ってやるよ)
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