蜜色の放課後
放課後。委員会を終えて教室に帰ってきてみれば、もう外は薄暗い。校庭がにぎやかだと思ったら、野球部がクールダウンのランニング中だ。
「あー疲れた。ちょっと癒されて帰ろ」
てへ、と一人で笑って、絶賛片想い中の澤村くんの机に突っ伏してみる。嬉しいことに自分の机の隣。分からない問題を教えてくれたり、何もいわずとも消しゴム貸してくれたりする彼が大好きだ。
クラスの中では一番仲のいい女友達の座まではゲットしたものの、それを壊したくないとか、余分な気持ちが邪魔をして、あと一歩を踏み出す勇気がなくて。
「うーん…つらいなー…」
と呟いてはみたものの、澤村くんの机だ、と顔が知らずににやける。すぐに自分が気持ち悪い、と自嘲するけど、恋する乙女の免罪符だ。ああ、癒されたら眠くなってきた。最終下校までまだあるかな、と確認して微睡みに入った。
「…なまえ、そろそろ起きないと、門閉まっちゃうぞ」 「んーもうちょっと…って…澤村くん…?」 「おはよう」 「なななにしてんの?!」 「部活終わって忘れ物取りに来て、寝顔観察」 「っ…起こしてくれれば良かったのに」やばい、恥ずかしい
「まあ、気持ちよさそうに寝てたし。なまえのあんな顔もめったに見られないしな」 「どんな顔?!」
まさかヨダレとかいびきとか…!と焦っていたら、大好きなあの笑顔でぽんぽんと頭を撫でられた。
「可愛い寝顔」 「え…」
「さ、送るよ。帰ろーぜ」 「え、あ、私一人で大丈夫だよ!」
数秒前の言葉を頭に保存しながら、次の言葉にも吃驚する。勢いとはいえ断った自分を殴りたい。
「ダメ。送る」
「でも…澤村くん家どっちだっけ…?」 「なまえと一緒の方向だよ」 「私、家の場所言ったっけ?」 「聞いてないけど知ってる。いつか一緒に帰ろうと思ってたし」 「え…それって…」 「まあ、その質問に答える前にさ」
澤村くんはニヤリと妖艶に笑った。
夕焼けが、眩しい
(なんで俺の席、座ってたんだ?)
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